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ヴァンプスレイヤー・ダンピール  作者: 龍崎操真
EPISODE2-4 Destroy all them

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第70話 水と油

 ハァ……ハァ……ハァ……ッ!


 呼吸を荒くしながら明嗣は全力で通路を駆ける。チラリと背後に目を向けると、猛スピードで追いかけてくる5体のシルエットが見えた。シルエットの正体は、先程なんとか屠ったばかりの人造人間で、なんと明嗣の銃でも40回は撃ち込まないとならない耐久力を持つ文字通りの怪物だ。そんなのをまともに相手していては命がいくつあっても足りない。よって明嗣は現在、絶賛遁走中だった。


 冗談じゃねぇ! あんなんを同時に5体なんて自殺行為だろ!


 とにかく今は全力で逃げろ。一旦足を止めろと悲鳴をあげる身体に鞭を打って、明嗣は逃げ馬のごとく脚を動かす。曲がり角に差し掛かるとブレーキを掛けて方向転換し、崩れた姿勢を立て直しながら再び加速していく。


 どうするどうするどうする! なんか良い手はねぇか!


 桁外れの耐久力を持つ怪物を一気に葬る事ができる画期的な方法なんて果たしてあるのだろうか。いや、考え出さなければならない。でなければ、死あるのみ、だ。

 走りながら頭を回す明嗣。やがて、日用品売り場だった区画に差し掛かった辺りで、明嗣に閃きが降りてきた。以前、アルバートが“切り裂きジャック”から逃げる際に行ったジッポオイルに火を点けて、炎の壁を作る方法。あれなら倒すとまではいかないが、撒く事できるのではないか? だが、問題が一つあった。


 廃業してんだから、都合よくオイルが落ちてる訳ねぇか……!


「クソッ!」


 せっかく降りてきた妙案が絵に描いた餅だった事に、明嗣は恨めしげに舌打ちした。その後、追いかけてくる人造人間(ホムンクルス)の距離を測るために背後に目を向ける。


 結構稼いだと思ってたマージンがなくなってきてんな……てぇ!?


 再び前に目を向けた直後、明嗣は壁に熱烈なキスをお見舞いする羽目になった。当然の事ながら、ぶつかった衝撃でたたらを踏み、明嗣の逃走は終わりとなる。

 

「うっ……ってぇ……!」


 モロに壁に突っ込んだ衝撃で脳が揺れているのか、平均感を失い、視界がブレる。やがて、明嗣を追ってきた人造人間(ホムンクルス)5体が明嗣を取り囲んだ。


「こうなったら……!」


 明嗣は自分のバイク、ブラッククリムゾンのアクセルグリップを手にした。背に腹はかえられない。取るべき手段は一つだ。


「全員まとめて消し炭に――」


 明嗣はアクセルグリップを腰の方へ持っていき、剣を抜くような構えを取った。そのまま、専用アタッチメントを取り付ける事で携帯可能にした刀身にアクセルグリップを接続すると、力強くグリップを握る。あとは抜き放つと同時に起動させるだけだが、その前に「伏せて!」と叫ぶ声が飛び込んでくる。声に従って、反射的に明嗣が頭を低くして腰を落とした瞬間、人造人間(ホムンクルス)の首が飛んだ。


 なんだ?


 ゆっくりと姿勢を上げて、明嗣は安全確認をするように首と胴体が泣き別れになった死体を小突いた。反応がないのを見るに、どうやら頭を飛ばせば生命活動を停止するのは吸血鬼と共通らしい。


「でなきゃマジに化け物だな……」

 

 ひとまず危機が去った事を確認した明嗣はホッと息を吐いた。すると、安心で力が抜けた明嗣に対して歩いて来る者がいた。


「誰かと思ったら半吸血鬼の坊やじゃない。こんな所で何してるのよ?」


 明嗣が声のした方へ目を向けると、その先にはデュランダルを手にしたミカエラがいた。そして、その後ろから澪が覗き込むように顔を出す。


「あれ? 本当だ。鈴音ちゃん達と一緒じゃないの?」

「ハハ……どこに姿を(くら)ましたかと思ったら……。そっちこそ何やってんだよ」


 こっちは苦労して一体屠るのがやっとだったのに、ミカエラの手にかかれば一閃で全員だ。祓魔師の肩書は伊達ではないようで、これではもう笑うしかない。


「私達はこの施設の探索。真祖にとって人間は生きた燃料タンクだから、ちょっとでも削っておこうかと思ってね。それで? 私の質問には答えてくれないの?」

「俺はいつの間にか消えてたジル・ド・レを追うために別行動中。マスター達は後から追うってよ」

「そうだったんだ。じゃ、じゃあさ。これからはあたし達と一緒に探さない? ほら、一人より効率良いだろうし……」

「……本音は?」


 澪の申し出に対し、明嗣は探るように澪の表情を観察する。すると、澪は気まずそうに顔を背けて真意を口にした。


「い、一緒にいる人はできるだけ多い方が良いなぁ……、と思って……」

「この子ったらずっと私の服を掴んで離さないのよ。だから、私としても対応しやすいよう、一緒にいてくれると嬉しいんだけど」


 苦笑を浮かべてミカエラも澪に同調した。対して、明嗣は呆れたように返した。


「こうなるの分かってたろ。なんで引き受けた」

「あら、子供の手助けするのが大人の役目でしょ? せっかくやる気になっているのに削ぐような真似をする罪って物じゃない?」

「それで音を上げてれば世話ねぇよ。つーか、大人ならわざわざ子供(ガキ)を危険地帯に引っ張りこむんじゃねぇよ」

「“可愛い子には旅をさせよ”っていうじゃない。旅には危険が付き物。危険がない旅なんてスリルがない恋と一緒よ」

「はっ。神に仕える身のくせに恋か。イエス様が泣いてるぜ」

「何よ。それにね、子供だって言うならあなただって一緒でしょ」


 腕を組み、ミカエラが叱るような口調で明嗣に返す。このままでは延々と続きそうなので、静かに見守っていた澪がたまらず二人の間に割って入る。


「すとーっぷ! 二人とも、言い争いしててもどうにもならないよ! とりあえず先に進もう、ねっ!」

「つーか、そもそも――」


 澪が無理言って付いてきたのが事の発端、と喉元まで出かけたが明嗣はそれを飲み込んだ。今さら言った所でどうにもならないからだ。言い争いの疲れを吐き出すように息を吐いた明嗣は、ポケットに手を突っ込んで肩を落とした。


「わーったよ。ちょうど火力不足を感じて困ってた所だしな。行きゃ良いんだろ、行きゃ」


 不満げに舌打ちして明嗣が先を歩きだした。ひとまず場が収まった事に澪が胸を撫で下ろすと、ミカエラが耳元で囁いた。


「あの坊や、本ッ当に口答え多いわね。一緒にいると大変でしょう?」

「ま、まぁ……。でも、言う事をは言ってくれるから、そんなに悪い事ばかりでもないかな、とも思います。慣れちゃったのもありますけど」

「物は言いようね」


 苦笑混じりに答える澪に今度はミカエラが息を吐いて腰に手を当てた。慣れたという事は、それだけ感覚が麻痺してきてる、という事を澪は分かってるのだろうか? いつか取り返しのつかない事を言ってしまうのではないか、とミカエラが心配していると、先を行く明嗣から声が飛んでくる。


「おい。一緒に来るんだろ。それとも置いて行けば良いのか」

「はいはい! 今行くわよ! まったくもう……。あの坊やは本当に……」

「ま、まぁまぁ……明嗣くんの方がある程度詳しいし、付いて行ってみましょうよ」


 苛立つミカエラを宥め、澪が明嗣の背中を追いかけて行った。別にそういうつもりで連れて来た訳ではなかったが、思わぬ形でもたらされた澪を連れて来た事のメリットを感じつつ、ミカエラも二人の後ろに続いた。

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