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ヴァンプスレイヤー・ダンピール  作者: 龍崎操真
EPISODE2-3 Lose way Dhampir

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第59話 迷う半吸血鬼

 時計の針は22時を指した。

 フロアでの一件を知らない明嗣は、ヴァスコの襲撃があるかもと警戒しながら自宅へ帰り、実に一日ぶりとなるシャワーを浴びた。その後、髪を乾かしながら居間に戻るとスマートフォンが通知が届いている事を知らせるランプを点滅させていた。


 なんだ……?


 届いた通知の内容を確認すると、レインの友達申請を承認したばかりの澪からメッセージが届いてるという物だった。明嗣はさっそく開いてメッセージの内容を確認する。


 澪:こんばんは明嗣くん

   友達登録ありがとね

   今時間あるかな?

   っていうか攫われたって聞いたけど大丈夫?


 鈴音(アイツ)……彩城に漏らしやがったな?


 明日登校した時、休んだ理由を体調不良で誤魔化す計画が今この瞬間をもってご破算となってしまった。翌日の事に頭を痛めつつ、明嗣は澪のメッセージに返信する。


 明嗣:ああ

    問題ねぇよ

    なんとか脱出して今家に帰ったとこだ


 タオルで髪に絡む水気を取りながら返信して、スマートフォンをソファへ放り投げた。そして、風呂上がりに何か飲もうと冷蔵庫へ足を向ける。だが、冷蔵庫へたどり着く前に明嗣のスマートフォンが震えた。


 早っ。


 本当なら映画を観る時に飲もうと買っておいたコーラ片手にソファへ向かい、明嗣はスマートフォンを拾い上げて先程届いた通知を確認する。通知の内容は、やはり澪へ先程送ったメッセージの返事だった。


 澪:良かったぁ……

   いきなり学校休んじゃたんだもん

   また大変な事が起きたのかなって本当に心配したよ


 今度は安心するように胸を撫で下ろすウサギのスタンプも添えられている。スマートフォンの画面を確認しながらテレビを点けた明嗣は、少しメッセージを打ち込む手を止めた。


 こういう時って俺もスタンプ返した方が良いのか……?


 チャットという物は対面して直接話すのと比べ、細心の注意を払わねばならないコミュニケーション手段である。表情や声のトーンがないので、相手の喜怒哀楽を確かめる手段が文面とスタンプなどの絵文字しかない。


 つっても、ロクなスタンプ(モン)ねぇしなぁ……。


 課金アイテムのスタンプは、どうせやり取りする相手なんていないからいらないだろう、と高を括っていたので所持しているのはプリインストールされている物しかない。まさかそれを後悔する日が来ようとは……。

 明嗣はどう返事をしたものか、と思案する。やがて、考えた結果に従って明嗣はメッセージを打ち込んだ。


 明嗣:悪いが眠くなってきたから寝させてもらう

    彩城も早く寝ねぇと明日の朝が辛いぞ


 送信ボタンを押して、明嗣はスマートフォンをソファの隅へ放るとリモコンでテレビの番組表を調べ始めた。


 良し。これなら返信来なくても寝たと思うだろ……。


 なんとなく気遣うフリをして、会話を終わらせる。困った時はこの手に限る。やる事はやったとばかりに、明嗣は番組表のページの閉じて、据え置きのゲーム機を起動した。そして、最近購入したアーケードコントローラーをBluetoothで接続し、格闘対戦ゲームのオンライン対戦でマッチングした相手とさっそく対戦始めた。


 チッ……コイツ上手いな……。


 相手のガード主体の戦い方により、繰り出す攻撃がことごとく防がれ、逆にカウンターで自キャラのHP(ヒットポイント)バーがジワジワと削られて行くので、明嗣はしだいに苛立ちを募らせていく。

 やがて、明嗣は重大なミスを犯してしまう。


 あ、やべっ。


 ガードするタイミングを外してしまい、明嗣が操るキャラに一撃入ってしまった。不幸なことに、入った一撃は気絶状態に陥って一定時間行動不能になってしまう強力な攻撃だ。こうなってしまうと、あとはまな板の上の鯉のように好きなように料理されるのみとなる。当然の事ながら、画面の向こうの相手はガード主体の戦法から一転攻勢に移り、猛攻撃を仕掛けてくる。


 おい待て! その無限ループコンボは反則だろ!?


 ガチャガチャとレバーを動かしたり、ボタンを連打してなんとか受け身を取る事で立て直そうと試みる明嗣。だが、システムは無慈悲であり、身動き一つ取れずにサンドバッグ状態でタコ殴りにされていく。


 ま、負けた……。


 画面中央に浮かぶ『YOU LOSE』の文字。あまりの悔しさにテーブルを叩きたくなるが、テーブルには明嗣の悔しさを受け止める強度がないため、明嗣は大人しくテレビとゲーム機の電源、ついでに肩を落とすことしかできなかった。

 この家の住人は明嗣しかいないので、当たり前だがテレビの音など消えると家の中は静寂そのものとなる。シンと静まり返る家の中、明嗣はこれからの事を考え始めた。

 生贄を差し出す事で成り立つ人間と吸血鬼の理想郷、それを潰したいヴァチカンの祓魔師(エクソシスト)達。そして、人と吸血鬼の間に生まれた半吸血鬼(ダンピール)である自分の立ち位置。主な要素を抜き出すとこの3つに集約されるが、どれも複雑に絡まり合っているように思える。

 ヴァチカンが人と吸血鬼の理想郷を潰したがっている理由は明白で、吸血鬼のような化け物と手を取り合うなど教義に反するため、この存在が世に知れ渡ってしまうと今まで築き上げてきた権威が地に落ちて力を失う事となる。つまり、面子が保てなくなるので、ヴァスコとミカエラを寄越してきたのだ。それで殺されかけたのだから、素直に協力する気にはなれないのが人情だろう。

 次にジル・ド・レが掲げる人と吸血鬼の理想郷。実際に見てきた感想としては、あんな物は手を取り合った笑顔溢れる理想郷どころか、いつ殺されるか分からない恐怖で縛り付ける絶望郷(ディストピア)だ。だが、それでも社会から見捨てられた人間にとってはそこが居場所であり、心の拠り所になっているようだった。いたずらに関与して良い物ではない事はなんとなく感じる。あの場で出会った、おそらくジル・ド・レの身の回りしているメイドであろう案内役の少女、結華も「ジル・ド・レの庇護がなければ生きていけない」と言っていた。だが……。


 あのまま出荷される前の家畜みたいな生活を放っといて良いのかね……。


 ソファの上で横になった明嗣は天井を見つめる。庇護と言えば聞こえは良いが、裏を返せば生き死にを決めるのはジル・ド・レのさじ加減一つ。そもそもの話、それは“生きている”と言えるのだろうか?

 そして、明嗣が頭を悩ませる最大の要因、半吸血鬼(ダンピール)である自分はどう振る舞うのが正解なのか。言ってしまえば、自分は吸血鬼と人間の混血であり、ヴァスコの(げん)を借りるなら忌み子という奴で、協力してもリターンは望めないのは明白だ。さらに、人と吸血鬼の間に生まれた明嗣自身がその理想郷を否定して良いのだろうかという疑問もある。

 なら、ジル・ド・レに付くのが正解なのかと言われると、それも違うように思う。なぜなら、逃げる時に誰も目を向けないような隅で独りで泣いている少年の姿を見た。いや、見つけてしまったのだから。あの少年が理想郷の歪みだとしたら、それを肯定する気にはなれない。


 人に寄り添ってやってくれ、か……。


 ふと父の言葉を思い返す。父から譲り受けた戦車馬にブラッククリムゾンと名付け、自分の中にある眠っていた能力の具現化と言っても差し支えないクリムゾンタスクを手にした時、明嗣は約束した。その時の約束に従うのなら、どういう選択をするのが正解なのだろうか。


「なぁ、親父……。俺、どうすりゃ良いのかな……」


 呟く言葉に答える声は聞こえない。なぜなら、この家にいるのは明嗣のみで、問いかけた父は現在たくさん人を殺めた報いをあの世で受けている真っ最中なのだから。

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