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ヴァンプスレイヤー・ダンピール  作者: 龍崎操真
EPISODE2-3 Lose way Dhampir

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第58話 フロアでの駆け引き

 日が落ちて、空は黒く染まる時間となった。

 昼の忙しさに比べると、非常に穏やかな客入りのHunter's rustplaatsにヴァスコとミカエラがやってきた。学校から直接やって来たのか、ミカエラはパンツスーツ姿でヴァスコは制服の状態だ。


Buonasera(こんばんは)。今日はお客さんとして来てみたわ」

「……いらっしゃい」


 幾分か、警戒するような声音でアルバートが挨拶を返すと、ミカエラとヴァスコは揃ってカウンター席に腰を下ろした。


「日本の教師ってのは激務だと聞いていたが、こんな所で油売ってて良いのか?」

「ちょっと気分転換したくてね。ヴァスコも半吸血鬼の坊やの捜索に煮詰まってたし、2人でご飯食べながら相談しようかと思ったの」


 店を訪れた理由を説明したミカエラにヴァスコが抗議の視線を送る。どうやら、あまり触れては欲しくない話題だったらしい。だが、ミカエラは構わず話を続けた。


「あー、どうしましょう……。あの坊やを見失った今、ジル・ド・レに繋がりそうな手がかりが何もなくなっちゃったし、打つ手が何もないわ……」

「あー、その事だがな。明嗣の奴、昼に戻ってきたぞ。今、ここの生活スペースの方にいる」


 頭を抱えるミカエラに対し、アルバートはあっさりと明嗣の所在を答えてみせた。すると、ヴァスコが驚きの表情と共に勢い良く立ち上がった。


「それは本当なのか!?」

「ああ。でも、そっとしといてやってくれ。死ぬほど疲れているんだ」

「それ、本当に死んでる時に使うセリフじゃない」


 某ツッコミ所満載だが名作筋肉映画からの引用に対してミカエラが冷静なツッコミを入れると、アルバートはニヤリと笑ってみせた。


「ほほぅ? このネタが通じるのはここら辺じゃ明嗣くらいだと思ってたが、イけるクチか?」

「たまに観る程度よ。それも教会で保護している孤児達と一緒に観れるような物だけ」

「そうか。そりゃ残念だ」


 あまりディープな話をできる見込みがないと分かり、アルバートは残念そうに肩を落とした。一方、今まで大人しかったヴァスコは懐から手袋を取り出して装着する。


「おい。何する気だ」

「今からアーカードに対して“尋問”を行う。生活スペースとやらに案内してもらおうか」

()()()()()()()、と言ったよな?」

「関係あるものか。さっさと終わらせて私はヴァチカンに帰りたいんだ」

「あのな、この国には“急がば回れ”って言葉があんだよ。急いでるんなら、回り道してでも確実に目的地へたどり着いた方が早いって意味だ。分かったら座って注文するか店から出て行きな」

「ヴァスコ、ひとまずここは大人しくしなさい。あの坊やはたぶん逃げないわ。そうよね?」


 二人の張り詰めた空気を緩めるようにミカエラがアルバートに確認を取ると、アルバートは頷いて答えてみせた。


「その通りだ。だが、機嫌を損ねるとお前らの欲しい情報(もの)は簡単に忘れちまうかもな。()()()()()()


 釘を刺しておく事も忘れずにアルバートはミカエラとヴァスコへウェルカムドリンクとしてエスプレッソのお湯割り、アメリカーノを出した。対して、話が一段落したのでミカエラは出してもらったアメリカーノ片手にメニュー表を開いた。


「じゃあ、食事にしましょうか。ヴァスコは何を食べるの?」

「いえ、私はこれで結構です」


 答えたヴァスコはアメリカーノを一口すする。だが、味が気に入らないのか顔を(しかめ)めてしまった。

 

「不味いコーヒーだ。コーヒーの淹れ方を勉強し直した方が良いのではないか?」

「このガキ……。一度礼儀ってモンを叩き込んでやろうか」

「ごめんなさいね。ヴァスコはエスプレッソ以外はコーヒーと認めない程のエスプレッソ党なの」


 ヴァスコの代わりに謝罪をしつつ、ミカエラもアメリカーノを一口飲んだ。その後、カップをソーサーに置くと、ある料理を指差した。


「ねぇ、このフコークテモッスレンってどんな料理?」

「ムール貝と香味野菜を白ワインで蒸した物だ」

「美味しそうね。じゃあ私はそれをお願いしようかしら」

「分かった」


 注文を聞いたアルバートは厨房の方へ移動し、注文の料理を作り始めた。その間、ミカエラはヴァスコの先程の振る舞いについて咎めた。


「あのねぇ、ヴァスコ。いくらなんでも感じが悪すぎよ。どうしてそんな態度を取る訳?」

日本(ジャポーネ)の空気が気に入らないだけです。来てわずかでも分かるほどにここに住んでいる者は堕落している。ギャングが大人しい分、飼いならされていない娼婦のような考えの卑しい女とナンパストリートでしか通用しないようなチンピラが我が物顔で歩き、助長するかのように金持ちがそれに金を払っている。さらに全体的に自分に甘い者が多く感じます。こんな国、今すぐ塩の柱に変えられても文句は言えませんよ」

「まぁ、そう言わないの。私はこの国好きよ。コンビニで売っているメンタイコ……だったかしら? 何かの魚卵を使ったパスタとか美味しいし、ピザのバリエーションも豊富で飽きないしね」

「まぁ、食文化については認める所もありますが……それでも気に入らない物は気に入りません」


 もうお手上げ、といった様子でミカエラはため息を吐いた。個人の好みなので仕方ないといえば仕方ない。だが、一緒に行動する立場のミカエラから言わせてもらえば、もう少し大人になって欲しいのが本音だ。


 もう少し柔軟な考えをしてくれるようになると良いんだけどね……。


 真面目なのは良い事だが、行き過ぎるとそれは独りよがりと変わらない。果たして、ヴァスコにそれを理解してくれる日が来るのだろうか。


「注文の料理だ」


 アルバートが料理を運んできたので、この話は一旦打ち切りとなった。願わくば、この日本で過ごす時間がヴァスコにいい影響を与えてくれればと、思いつつミカエラはフォークを手に取った。




 一方、フロアの方にヴァスコとミカエラが来ている事を知らない明嗣は……。


「ほい。また俺の勝ち」


 設置されたダーツマシンの的に向かい、明嗣は軽くスナップを利かせて矢を投げる。的のど真ん中、モクテルの名前でもあるブルズアイへダンッ! と音を立てて矢が刺さると上部の液晶モニターに『JACKPOT!!』と表示された。同時にゲーム終了を告げるブザーが鳴り響き、対戦相手の鈴音は悔しげな表情を浮かべた。


「なんで勝てないの!?」

「弾道計算が甘ぇんだよ。そんなんだと一生俺にメシ巻き上げられっぱなしだぜ?」

「うぅ……明嗣の鬼! もうちょっと手加減してくれても良いじゃん……」


 敗者の捨てゼリフを吐いた鈴音は、罰ゲームとして使用した矢を片付け始めた。

 いつもクナイを投げているのでこういう的当てゲームには自信はあったが、どうやら上には上がいるらしい。だが、明嗣は特に勝ち誇るような事もせず、つまらなそうに返す。


「俺ごときで鬼とか言ってたら操人が相手になった時が地獄だぞ。アイツ、()()だから」

「え? そうなの?」


 矢を戸棚にしまった鈴音が驚きの表情で振り返ると、明嗣はワナワナと震え出しながら操人と対戦した時の事を語り始めた。


「前に言ったろ。狙撃手(スナイパー)だって。3桁メートル離れた所からヘッドショット決めるのが当たり前なんだ。ダーツなんて子供の遊びだぜ。お前に分かるか? 投げる度にブルズアイに突き刺さって大量得点を許す絶望が……。あんなん経験したらイキろうにもイキれる訳ねぇよ……」

「そんなに!?」


 その時のトラウマが蘇ったのか、話す明嗣の表情は蒼白となっている。どうやらよっぽど手ひどくやられたらしい。あまりの怯えように鈴音は驚きの表情を浮かべた。


 結構、アタシらと変わらない所もあるんだ……。


 意外としょうもない事がトラウマだったり、怖い人がいたり、人を食ったような物言いをする明嗣でも自分達と変わらない一面がある事を知った鈴音は少し得をした気分になった。

 やがて、アルバートがおまかせディナープレートを運んできたが、明嗣は容赦なく鈴音から一品巻き上げた。

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