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ヴァンプスレイヤー・ダンピール  作者: 龍崎操真
EPISODE2-2 The Utopia of Human and Vampire

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第55話 人と吸血鬼の理想郷

 場所は再び交魔市某所。

 ジル・ド・レに促されテーブル着いた明嗣は、目の前の紅茶に手をつける事なく、目の前で紅茶を楽しむジル・ド・レをただひたすらに睨んでいた。


「飲まないのですか? 良い茶葉を使ったお茶です。冷めてはせっかくの風味がダメになってしまいます」

「この状況で呑気に茶を楽しめ、だ? 面白ぇジョークを言うな、青ヒゲ」


 警戒レベルMAXの明嗣は、お茶請けとして出されたショートケーキはおろか、紅茶にすら手をつけていない。相手の目的が分からない以上、敵地で出された食べ物、飲み物の類いは何かが混入している可能性がある。なので、手をつけずに放置するのは基本中の基本だ。

 それを知ってか知らずか、ジル・ド・レは安心させるように微笑みを浮かべる。

 

「ご心配なく。毒などの物は入れておりません。そもそも、私はあなたを仲間に引き入れたいのです。毒なんて入れるはずがないでしょう? それとも、甘い物はお気に召しませんか? どの時代も、若者はこういうお菓子でもてなすと大喜びしてくれる物と認識しているのですが……」

「へぇ、ずいぶん親切で何が目的かと思ってたらそういう事かい。残念だったな。俺はお前の仲間にならないぜ」

「理由を伺っても?」

「そりゃ、吸血鬼(おまえら)と仲良くしてここらのハンター全員を敵に回すんじゃあ、割に合わな過ぎる。だいたい、俺は吸血鬼から目の敵にされてる上にヴァチカンからはるばるやってきた祓魔師が血眼ンなってお前を探し回ってんだ。かといって、俺はアイツらが気に食わねぇ。もちろん、お前もだ。だから、ここはどっちの味方にもつかずに“勝手にやってろ”っつーこった。ついでに対消滅でも起こして綺麗さっぱりいなくなってくれりゃ、俺的には万々歳さ」

「ええ、それはもちろん承知しています。だからこそ、あなたは私達と共に在るべきなのですよ。半吸血鬼であるあなたはね……」

「何が言いてぇんだ」

「“百聞は一見にしかず”、です」


 何か含みのある言い方をして、ジル・ド・レは手元にあるハンドベルを振った。すると、一人の少女がやってきた。深く青い髪をショートボブにした彼女は、紺のブラウスとロングスカートにフリルがあしらわれた白いエプロンと、メイドのような出で立ちだ。血管をなぞるように張り巡らされた線の色は“赤”。つまり、彼女は人間のメイドといった所だろうか。


結華(ゆか)。日が高いので、まだ私は外に出ていく事ができません。なので、あなたが彼を案内して差し上げなさい。私は日が落ちきるまで眠ります」

「かしこまりました。ジル・ド・レ様」

 

 スカートを裾を持ちながらお辞儀をして、結華と呼ばれた少女は外へ続く扉へ歩いて行く。そして、ドアノブに手をかけると明嗣をジッと見つめた。どうやら、付いていかないと話が進まないようなので、明嗣も席を立って結華に続いた。付いて行く意思を確認した結華は、扉を開いて明嗣を部屋の外へ誘う。

 人間と吸血鬼を見分ける事ができる明嗣とって、扉の先で待ち受けていた光景は言葉を失わせるには十分すぎる物だった。なんと、吸血鬼と人間が腕を組んで歩いているのだ。それだけではない。カフェだと思わしき場所では人間と吸血鬼が同じテーブルに座って談笑している。まるで、我々は手を取り合う友人だ、という雰囲気が漂っていた。捕食者と被捕食者の関係だなんて忘れてしまいそうな程に仲睦まじく見える。

 信じられない、と言った面持ちで明嗣は目の前の光景に言葉を失って立ち尽くす。これはどういう事だ。吸血鬼(おまえたち)にとって人間(ソイツ)は餌だろう? 

 カフェテラスで金髪の女がケーキを分け与え、黒髪の女がそれを受け取って口へ運び、喜びの声を上げる。傍目から見るとただの仲が良い友人のやり取り。だが、明嗣の視界から見れば、“黒い線”を持つ金髪の吸血鬼が“赤い線”を持つ黒髪の人間へケーキを与える構図となる。これは異常事態だ。何故なら、明嗣の知っている吸血鬼は人間を見るなり路地裏に連れ込んで生き血を啜る、人の形をした獣なのだから。そのはずなのに、目の前のこれはなんだ。まるで放課後に遊び歩く女学生のようではないか。先程の腕を組んで歩いていた2人もそう。あれでは付き合いたてのカップルだ。


 親父とお袋もあんな風に歩いていたのかな……。


 他にも同じように腕を絡めて歩いている人間と吸血鬼のカップルを目にした明嗣は、ふと在りし日の両親へ思いを馳せるような眼差しとなった。今のような人間と吸血鬼のカップルが仲睦まじく笑い合う様子を見せられては、嫌でも考えてしまうという物だ。


「それでは移動しましょうか。他にも案内するように仰せつかった場所がまだまだあるので」

「……あ、ああ」


 結華の呼びかけに返事をしながら、明嗣は歩き出す。だが、明嗣はチラッと視界の端で捉えてしまった。吸血鬼とすれ違う際、結華が少しだけ怯えるような表情を浮かべた後、安堵するように息を吐く瞬間を。その様子に違和感を覚えたが、明嗣はひとまず結華に大人しくついていく事にした。まずはブラッククリムゾンを見つけ出していつでも逃げられるように準備しておく。今はそれが何よりも重要なのだ。


 


 その頃、ヴァスコと険悪な雰囲気になったまま学校へ登校した鈴音は……。


「えぇっ!? 明嗣くん、攫われちゃったの!?」

「シィーッ! 澪、声が大きい!」


 教室で驚きの声を上げる澪に対して、鈴音は周囲に目を配りながら、小声で注意した。すると、澪はハッと我に返り、鈴音と同じように周囲を見回すと、声のボリュームを下げて話を続ける。


「じゃあ、明嗣くんは行方不明でどうすれば良いか何も分からないの?」

「一応、アタシも式神を出して探させてはいるんだけど……。正直、望み薄いかも……」

「電話はしてみたの? もしかしたら出るかも」

「それはやめといた方が良いの。奴ら、耳が良くてケータイのバイブ音からも隠れている場所を見つけ出すから。」

「あっ……」


 最近、色々あり過ぎて遠い過去のような気がする4月上旬の夜、吸血鬼に初めて出くわした夜の事を澪は思い返す。あの時、たまたま感づかれたから見つかったと思っていたが、どうやら間違いだったようだ。


「それなら……どうすれば良いんだろう……」

「うーん……。一番は明嗣の方から連絡してくる事なんだけどねぇ……。連絡できるほどには安全って事だから」


 鈴音はポケットからスマートフォンを取り出してありとあらゆる情報が気まぐれな雨のように集まるSNSアプリ、レインを立ち上げた。もしかすると、同じように失踪した人の情報から場所を割り出せないかと思って覗いてみたが、あまりに失踪者の情報が多すぎて、まず仕分ける行為で時間を持っていかれそうだった。


「ダメだぁ〜……。失踪した人の情報多すぎて今欲しいのが見つからないよ……」

「う〜ん……。あ、そうだ。一応、あたしにも明嗣くんの番号を教えてもらっていいかな? 今は太陽が昇っているお昼だから、明嗣くんが外にいるなら出られるかも……。鈴音ちゃんとアルバートさんがダメでも、あたしも連絡できるならチャンスが増えるし」

「あ、そっか! 澪、天才! え〜っと、明嗣の番号は……あった! これだよ!」


 電話帳アプリを立ち上げ、明嗣の番号を見つけた鈴音がその画面を澪へ見せた。澪は自分のスマートフォンへその番号を打ち込んで、電話帳に登録した。すると、澪のスマートフォンへ一つの通知が届く。


「あれ? 明嗣くんのレインが友達登録された……」

「えっ!? ほんと!? アイツ、レインやってたの!? 電話帳と同期させてなくて知らなかった……」

「教えてもらわなかったの……?」

「だって、仕事とプライベートは分ける主義だ〜とか言って教えてくれなかったし。ID見せて。なるほど〜? これがアイツのレイン……」


 恐るべき速さで鈴音は澪のスマートフォンに映る明嗣のレインIDを打ち込んで友達申請した。


「申請完了、っと。これで明嗣が申請通してくれたら、ひとまずスマホいじれるくらい安全だから連絡できるよね」

「あ、ついでにグルチャも作っちゃおうよ。皆で話せる場所を作っておけば、後で便利だろうし。それに……」


 澪は一度言葉を切ってスマートフォンの画面を見つめる。やがて、画面から顔を上げて続きを口にした。


「無事に帰ってきてくれますように、って願掛け。こうやって、帰って来た後の事を用意してればしっかり帰ってきてくれるんじゃないかって気がするし」

「……そうだね。ちゃんと帰ってきてもらって、心配料もたくさんもらっちゃおう!」


 全部終わった後、明嗣にタカるつもりの鈴音の言葉に、澪は思わず吹き出してしまった。

 

「なにそれ。明嗣くん、怒っちゃうよ」

「良いの良いの! いっつも憎まれ口ばっかり言うし、こういう時に仕返ししないと!」

「あはは……。でも、一回皆で遊びに行ってみたいね。カラオケとかゲームセンターとか」

「明嗣を荷物持ちにしてショッピングも良いね! あとは……」


 鈴音がさらなる展望を広げようとした所で授業開始のチャイムが鳴り響く。とりあえず、昼休みにまたどうするか話し合う事にして、澪と鈴音はこれから始まる授業に集中する事にした。

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