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ヴァンプスレイヤー・ダンピール  作者: 龍崎操真
EPISODE2-2 The Utopia of Human and Vampire

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第50話 転校生は祓魔師

 転校生。それは娯楽が氾濫していると言える現代を過ごす学生にとって、不動のエンターテイメントである。新しい仲間はどんな人なのだろうか、仲良くやっていけるのか、期待と不安が入り混じった一大イベントだ。

 現在、明嗣が籍を置く交魔第一高等学校一年A組もヴァチカンからの転校生ヴァスコ・フィーロを迎えた事により、お祭り騒ぎとなっていた。


「ねぇ、ヴァスコくんって恋人いるの?」

「いやぁ、神に仕える身なので恋人を作るなんてとても……」

「教会でお手伝いしてるって自己紹介で言ってたけど、本当なの?」

「そうですよ。神父見習いとして毎日礼拝堂の掃除をしたり、懺悔しに来た人がいたら懺悔室で聞いたりしているんです」


 転校初日の定番行事、主に女子生徒からの質問攻めに対して、ヴァスコは嫌な顔をする事なく答えていく。その様子は不気味なほどに完璧な「頑張って馴染もうと努力する転校生」そのものである。だが、その様子を面白くないと言いたげに遠巻きで眺める者が一人。


 アイツ……いったい何企んでんだ……?


 警戒するように明嗣は女子生徒の質問攻めを捌くヴァスコを睨む。命のやり取りをした昨日の今日だ。警戒するなと言う方が無理な話である。そもそもの話、いったい何のために明嗣のクラスの転校してきたのか? 目的が不明なために、明嗣としてはただただ警戒するしかないのがもどかしい。

 どうした物か、と考えながら学生業をこなしていると昼休みを迎えた。

 明嗣は購買で繰り広げられる昼食争奪戦争に参加しようと、財布を手に教室を出た。すると、小型のデジタルカメラを手に、A組の教室を覗き込む澪の姿を見つけた。すると、澪も明嗣の姿を見つけたので手を上げて駆け寄って来た。


「今、お昼を買いに行く所?」

「ああ。彩城はカメラを持ってるっつー事は新聞部の用か?」

「うん。今日来たA組の転校生の写真を撮ってこいって部長に言われてね。今、教室にいるかな?」

「あの通り」


 明嗣が親指で後ろを指したので、澪もその方向へ目を向けた。すると……。


「ねぇ、ヴァスコくん! こっち来てお昼一緒に食べよう!」

「あ、抜け駆け!」

「ヴァスコくんはウチらと一緒に食べた方が良いよ! 日本の代表料理卵焼きを食べさせてあげる!」


 どのグループがヴァスコと昼食を食べるかの取り合いが勃発していた。さすがイタリアの伊達男という所か、すっかりとA組の女子生徒の心を掴んで離さないモテモテのアイドルと化してしまっている。その光景を前にしたクラスの男子生徒は不景気にため息を吐いていた。

 そんな教室の様子を受け、澪は苦笑いを浮かべた。


「出直した方が良さそうだね……」

「そういう事だ」

「じゃあ、あたしもお昼買いに行こうかな。あ、せっかくだし一緒に食べようよ。ちょっと話したい事あるし」

「話したい事? いったい何を」

「それはその時のお楽しみ。それより早くしないと食べる物無くなっちゃうし、行こ?」


 もう昼休みに入ってから5分も経過している。たしかに急いで購買に行かねば、品切れで昼食に食べる物がない、なんて事も有り得る話だ。


「そうだな。んじゃ、行くか」


 ここで話し込んでいると本当に食べる物が無くなりそうな予感がしたので、明嗣は澪と共に昼食を求めて購買部へ向かった。




 なんとか無事に昼食を手に入れる事ができた明嗣と澪は、空き教室に移動して食事する事になった。


「チッ……まさかホットドッグが売り切れるとはな……。ピザパンすら残ってねぇなんて」


 恨めしげに不満を漏らした明嗣は、焼きそばパンの封を切り、中身を少し出すと一口かじった。一方、澪はフルーツサンドを手に慰めの言葉を口にした。


「まぁ、今日は出遅れちゃったから仕方ないよ。それに焼きそばパンだって美味しいよ?」

「あのホットドッグ、ボリュームあるから気に入ってたのによ……。ツイてないぜ……」

「前から思ってたけど、明嗣くんって結構グルメだよね。美味しそうな物を探す嗅覚が凄いっていうか。前に食べてたステーキ御膳も美味しそうだったもん」

「そうか? まぁ、マスターから食うもんにはこだわれって言われて育ったから、そのせいかもな」


 答えながら、明嗣は缶コーヒーのプルタブを上げて一口飲む。


 ピザパンならコーラとか思いつくけど、焼きそばパンに一番合う飲み物ってなんなんだ……?


 しっくりこないと首を傾げている明嗣を前に、澪は少しホッとしたような表情を浮かべた。


「どうした?」

「元気そうで良かったなぁ、と思って」

「そりゃまたなんで」

「鈴音ちゃんから昨日は大変だったって聞いたの。だから、ちょっと心配してたんだよ? 明嗣くん、また急に学校来なくなるんじゃないかって。だからこうやって二人で話そうかなと思ったんだけど、その様子だと大丈夫そうだね」

「よっぽどの事が起きねぇとそうならねぇよ」

「ほんとかな? 明嗣くん、目を離したらすぐにどこかへ行っちゃいそうな気がするよ?」

「俺は幼稚園児か」


 居心地が悪そうに明嗣は目を逸らした。今まで接して来なかったタイプのせいなのか、澪と話しているとどうにも調子が狂ってしまっていけない。

 目をそらして無言で焼きそばパンを頬張り始めた明嗣に対し、澪はおかしな物を見るような表情を浮かべた。


「どうしたの?」

「別に。早くメシ済ませちまおうと思っただけだ」

「なんで?」

「次の授業の準備があるしな。たしか次は英語だし」

「そうなんだ。あ、そういえば。今日、2時間目が英語の授業だったんだけど、新しい先生が授業したんだよね。たしか、イタリアの方から来たって言ってたよ」

「イタリアの方からやって来た? まさか……」


 フルーツサンドを食べる澪から口にした情報に、明嗣は言いようのない不安感を覚えた。やがて、その言いようのない不安感は的中した。




「Good afternoon,everybody! 今日から英語の授業を受け持つ事になったミカエラ・クルースニクよ。皆、よろしくね〜」


 ヴァスコの転入により盛り下がっていた男子生徒の湧き上がるような歓声を浴び、紺のパンツスーツ姿のミカエラは手を上げて応える。一方、ヴァスコの転入に湧いていた女子生徒は、揃いも揃って小さな舌打ちをする。クラスの反応が二極化する中で、明嗣は本日2度目の絶句をしていた。


「はい、皆静かに。それじゃあ、軽く自己紹介。隣のクラスに友達がいる人は聞いてるかもしれないけど、私はイタリアのヴァチカン市国って所から来ました。日本ってホント治安が良いのね。それに奥ゆかしい男の人が多い。空港を出てもナンパしてくる人が全然いなかったからビックリしちゃった」


 クラス中の視線が集まる中、ミカエラが感動したように日本へ来た時の印象を話すと、一人の男子生徒が手を上げた。


「先生ってよくナンパされるんですか?」

「挨拶代わりにナンパしてくる事なんてしょっちゅう! 中にはわる〜い人もいるからあしらうのが本当に大変なのよ!」


 よく言うぜ……。その気になれば全員ブチのめせるくせに……。


 ()()のミカエラを知っている明嗣は呆れたように心の中でこぼした。すると、呆れたように冷めた視線を送ってくる明嗣に対し、ミカエラは意味有りげな笑みを浮かべた。


「それでね〜。前にも地元でそういう人たちに絡まれて困っていた時、英語を話せる日本の男の人に助けてもらった事があったのよね。その時からずっと日本に来てみたいなと思ってたの。しかも、その人はなんとこのクラスの中にいます」


 ミカエラが明かした一言にクラス中の生徒が一気にどよめいた。まさか自分たちの中にそんな勇者がいるなんて。誰だそいつは、と言いたげにヴァスコを除いた一年A組の生徒が次にミカエラが話す言葉を待つ。明嗣は、どうせヴァスコを指すんだろ、と思ってつまらそうに頬杖をついている。そして、たっぷり10秒ほど溜めた後、ミカエラはその生徒を指さした。


「それじゃ……Mr.Alucard!Stand up!」


 ミカエラが指さした先にいたのは明嗣だった。完全に油断しきっていた明嗣は「え? 俺!?」という表情を浮かべながらも渋々立ち上がった。


「彼がその助けてくれた人です。名前聞いた時、Alucard(アーカード)だと思ってたんだけど、朱渡(あかど)っていう名前だったのね」


 てめぇ、この野郎……!!


 苦虫を噛み潰したように忌々しげな表情を浮かべる明嗣。その明嗣の表情を楽しむかのようにミカエラは微笑みの表情でクラスへ呼びかける。


「グローバルな時代で英語は話せる方がいいっていうけど、実際はどういう風に良いのかイメージできてない人がほとんどだと思います。そこで、一人で海外を渡れるほど英語を使いこなしている彼でそれをお見せするわね」


 あまりにも露骨すぎる前フリだった。だが、せっかくの機会なので明嗣はこれを利用して二人の目的を聞き出そうと試みる事にした。

 これからの内容は、明嗣とミカエラによる英語を用いたデモンストレーションという名の腹の探り合いである。


「まさか私達がこんな形でやってくるなんてビックリしたでしょ?」

「ああ。いったい何を企んでいるのか、おっかなくて仕方ねぇなぁ……。()()()()縛り上げてしまおうかと考えちまったよ。何が目的だ」

「もしかしたら相手の方からコンタクトがあるかも、と思ってね。だから、しばらくこの学校にご厄介になってあなたの監視をしようって事になったのよ。まさか、ヴァスコが捕まってあなたの事を一時的に見失うとは思わなかったけど」

「へぇ、そうかい。なら、せいぜい気をつける(こっ)たな。ウチの女子はかなりアグレッシブだぜ。それに日本の教師は激務だ。お前らを撒く難易度が歩いて跨げるハードルくれぇの高さに下がるほどな」

「そうなの。なら、誤解されてヴァスコを怒らせないようにね。アイツ、今もあなたを殺したくてウズウズしてるから。変な行動をしたら()()()()首が飛んじゃうかもね。物理的に」


 ミカエラはうっかりの単語を口にする瞬間に両手の親指、人差し指、中指をクイクイと動かして見せた。これはスニークサインと呼ばれる仕草で、英語圏で皮肉や嫌味など強調したい単語を口にする時に用いられる物である。

 実際、ミカエラの言う事も間違いではないのが明嗣にとって面白くない話だった。なぜならヴァスコの得物は鋼鉄糸(ワイヤー)、隠し持つ事は容易なので少しでも彼の逆鱗に触れる事があれば、本当に首が飛びかねない。

 ギリッと明嗣が悔しげに歯ぎしりをしたタイミングで、ミカエラは再び日本語に切り替えてクラスに呼びかけた。


「はい。こんな感じで軽く雑談がてらに助けてくれたお礼を言ったりとかしたんだけど、どうだった?」


 絶対嘘だ。そんな話はしていなかっただろ、アンタら。何を言ってるかは分からないが、そんな平穏な話をしていない事を感じ取った生徒たちの心は一つとなる。だが、ミカエラは気にする事なく話を続けた。


「英語を話す彼はすっごいかっこよく見えたでしょ? ちゃんと真面目に頑張れば、いずれは彼のようにぺらぺらと話せるようになるから。そのためには学校の授業をしっかりと受ける事です。それじゃあ、まずは――」


 キーンコーンカーンコーン……


 ミカエラが教科書を開くページを指定しようとするのと同時に、授業終了を告げるチャイムが鳴り響いた。それを受け、ミカエラは残念そうに肩を落とした。


「あら、今日はここまでみたいね……。それじゃ、本格的な授業は次回から。皆、予習復習をしっかりね〜」


 手早く荷物を纏めると、ミカエラは手を振りながら颯爽と教室を後にした。教室を出る時には男子生徒に向けてウィンクのサービスをする事も忘れない。そして、再び聞こえてくる小さな舌打ちの合唱。おそらく、隣のクラスの授業も似たような状態だったのだろう。これからこんな状態がしばらく続くのか、と憂鬱な気分になった明嗣はふと天を仰いだ。


 ああ……なんか胃が痛くなってきたな……。


 体の丈夫さだけには自信があっただけに、半吸血鬼でも精神的なストレスで体調が崩れてしまう事を知ってしまったメンタルへのダメージの回復には時間がかかりそうだった。だが、胃痛の種はこれだけではなかった。それは……。


「な、なぁ……朱渡……」


 距離感を探るように一人の男子生徒が明嗣へ声をかけた。どうした、と目で問うと男子生徒が緊張した面持ちで用件を告げた。


「どうやってさっきみたいに英語話せるようになれたんだ? 何か特別な事でもしてるのか?」

「あ、その……俺は知り合いから教えてもらってさ。だから、英語を話せるのはそのおかげなんだよな……」

「そうなのか〜。真似して先生から気に入ってもらおうと思ったけど、上手く行かないか……」


 瞬間、聞き耳を立てていた男子生徒による残念そうなため息が明嗣の耳に飛び込んで来た。さすがにここまで露骨に落胆されては、いくら一線を引いておきたい明嗣と言えど申し訳なく感じるので、明嗣は代わりの訓練法を教える事にした。


「でも、洋楽とか英語圏の海外ドラマを字幕で見まくったりとか、とにかく英語を聞きまくって耳を作っとけばリスニングで苦労する事は無くなると思うぞ。そこからセリフの意味を調べて、真似するとかしてしていけば普通にやるよりは発音の上達も早い……と思う……」

「マジか!? 信じるぞ!?」

「お、おお……がんばれ……」


 戸惑いつつ、明嗣が返事すると男子生徒は気合っが入った足取りで普段仲良くしているグループのもとへ向かった。


 そして、この会話を(さかい)に明嗣はちょくちょく英語を中心とした勉強のご意見番をする事となり、白髪と黒と紅のオッドアイも相まって一気にクラスの人気者に祭り上げられる羽目になってしまった。

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