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ヴァンプスレイヤー・ダンピール  作者: 龍崎操真
EPISODE2-1 Messenger from The Vatican

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第45話 放課後、感じる距離

 木曜日の放課後がやってきた。そろそろ預けた銃の改造が終わっている頃だ。

 ホームルームを終えた明嗣は、荷物をスクールバッグに詰めていた。


 さてと、これからじっちゃんの所行って、銃を受け取らねぇとな。


 チャックを閉めて肩にバッグを担いだ明嗣は、スマートフォンを取り出した。指を滑らせて連絡する場所は黒鉄銃砲店。念のために仕上がっているどうか確認するための電話だ。


『はい、黒鉄雑貨店です』


 2、3回ほどコール音が鳴った後、表の屋号の名を告げる操人の声が耳に飛び込んできた。


「よぉ、操人。明嗣だけど」

『なんだ。どうしたの?』

「仕上がったかどうかの確認だよ。これから引き取りに行くつもりだ」

『あぁ、それは問題ないよ。ホルスターも銃のカスタムもバッチリさ』

「OK。そんじゃ、これからそっちに行くわ」

『うん。待ってるよ』


 通話が切れると、明嗣はBluetoothイヤホンを取り出して耳に着けた。そして、スマートフォンを操作して接続するとお気に入りのロックバンドの楽曲を聞き始めた。


 やっぱ、ロックだな。ヒットチャートなんてクソ食らえだ。


 某メンズアイドルグループだったり、しみったれた失恋バラードやラブソングで埋まっている音楽ランキングへの不満を心のなかで吐き出しつつ、明嗣は上機嫌で昇降口へ向かう。

 昇降口にたどり着いたタイミングで曲は最高潮(クライマックス)に突入した。「どこまでも歩き続ける。倒れる時は前のめりで」、というテーマで作られた曲のラストはまだまだこれからと叫ぶようなギターソロで締めくくられた。ギターの音が収まると、明嗣は湧き上がった熱を吐き出すように小さく息を吐いた。

 自動的に次の曲が流れだした時には校門まで足が進んでいた。


「……ぅーん……」


 小さく誰かが誰かを呼ぶ声がうっすらと聞こえた。明嗣は気にせずに歩いていく。


「……じくん……」


 再び誰かが誰かを呼ぶ声が聞こえた。が、今度は肩をトントンと叩かれる。ここまでされては人違いという事はないので、明嗣は片耳だけイヤホンを外して振り返った。


「なんだ。イヤホンしてたから聞こえなかっただけだったんだ」


 振り返った先にいたのは、同じくホームルーム終えたばかりの澪だった。


「そっちも今帰りか」

「うん。せっかくだし途中まで一緒に行こうと思って」

「別に構わねぇけど、俺は今日は行くとこあんぞ」

「そうなの? アルバートさんの所じゃなくて?」

「ああ。銃のカスタムを頼んでいてな。仕上がったから取りに行くんだよ」

「そうなんだ」


 一旦、会話がそこで切れてしまった。帰り道を歩く二人の間になんとなく気まずい無言の時間が流れる。やがて、無言に耐えかねた澪はふと先程から気になっていた事を尋ねた。

 

「イヤホンつけてたけど、音楽聞いてたの?」

「まぁな」

「やっぱりそうだったんだ。明嗣くんってどんな音楽聞くの?」

「ロック。パンクもヘビメタもない人生なんて退屈でしかねぇよ。ブラック・サバスマジ最高」

「し、知らないバンドだ……」

「だろうな」


 ロックのジャンルの一つ、ヘビーメタル黎明期のバンドなのだから無理もない。突然飛び出してきた懐メロどころじゃない名前に澪は困惑の表情を浮かべた。


「あたしはボカロをよく聞くんだよね」

「あー、最近増えてきたよな。作曲できりゃ誰だってミリオンヒットのチャンスがある時代だ」

「他にも歌える人がカバーした『歌ってみた』っていうのもあってね、そこからスカウトされてデビューするって人もいるんだよ」

「そりゃ夢のある話だ」

「だよね〜。はぁ〜……アタシもスカウトとかされてみたいな〜」


 いきなり背後から聞こえた第三の声。明嗣と澪は同時に立ち止まり、声がした背後を向いた。すると、そこには追いかけてきたのか少し息が上がっている鈴音の姿があった。


「鈴音かよ。いるんなら言え」

「だって二人だけで盛り上がってるんだもん。邪魔するのもなんかアレじゃない? なんか良い雰囲気だったし?」

「アホか」


 呆れたように明嗣はため息を吐いた。そして、明嗣は澪と鈴音の二人とは別方向へ歩き始めた。


「じゃ、俺は行くとこあっからここまでだ」

「あ、もしかして預けた銃ができたの?」

「そんなとこだ。またあのおっかねぇ爺さんとこ行ってこなきゃな……」

「じゃあ、また後でだね」

「そうなるな」


 はぁ、と明嗣は先程より重いため息を吐いた。ため息の理由を知っている鈴音はそんな明嗣を前に苦笑いを浮かべた。


「じゃあね、明嗣くん」

「ああ。じゃあな、彩城」


 彩城、か……。


 手を振って歩いていく明嗣の背中を澪は複雑な表情で見送った。やがて、背中が見えなくなったと同時に鈴音が口を開いた。


「澪、どうかした?」

「え? 何が?」

「だって顔に書いてあるよ? 『何か言いたいことあります』って。澪って顔に出やすいよね〜」

「え、そう!?」


 澪は驚きのあまり、思わずびくりと身体を震わせた。


「いや、でも、別にそこまでの事じゃないっていうか……」

「まぁまぁ、ただの話のネタにさ! ちょっとの事でも溜め込んじゃうと良いことないし」

「そうかな……」


 澪は少しためらうかのように口元に手を当てた。対して、鈴音は遠慮なくどうぞ、と待ち構えるように微笑んでいる。


 言わないと解放してもらえないかなぁ……。


 観念した澪はスクールバッグの肩紐をかけ直して、鈴音に理由を語り始めた。


「本当に大した事じゃないんだよ? ただね、明嗣くんって鈴音ちゃんの事を呼ぶ時は鈴音、って名前で呼ぶけど、あたしの事は彩城、って苗字で呼ぶのがちょっと引っかかってね……。なんとなく距離感じるっていうか……」

「あー……」


 話を聞いた鈴音は納得したように相槌を打った。澪はそんな鈴音に対し、申し訳ない、といった表情を浮かべた。


「ごめんね。鈴音ちゃんに言っても仕方ないし、本人に直接言えば良いんだけど、なんとなく言いづらくて……」

「別に気にしない気にしない! むしろぶっちゃけトークの方がアタシ的にはやりやすいし!」


 快活に笑う鈴音は問題ないと手をふる。その後、笑顔を引っ込めて真剣な表情で考え込み始めた。


「でも、呼び方かぁ……。アタシも気になるから、気持ちは分かるなぁ……。んー……どうしよっか」


 鈴音は腕を組んで考える。自分の時は力を示して認めさせたからなので、少し参考にはならないだろう。心という物はきっかけがなければ中々変わらない物である。ちょうど良いタイミングで明嗣が心境の変化を起こすような問題があれば良かっただろうが、あいにくそんな物は現時点では存在しない。


「ほんっとうにメンドくさいね、アイツ……」


 お手上げのサイン代わりに明嗣への不満を漏らす鈴音。それを受け、澪は申し訳ない、といった表情で息を吐いた。




 その頃、女子二名から噂されているとは夢にも思っていない明嗣は……。


「おぉ……!」


 銃を引き取りに来た黒鉄銃砲店工房にて、仕上がった銃を前に感嘆の息を漏らしていた。

 新生した2丁の愛銃はコンペセイターが組み込まれたため、発射の際に銃口から吹き出す燃焼ガスを逃がすための排気口と、遊底(スライド)に温まった銃身が発する熱を逃がすためのクーリングホールが新たに作られた。これにより、発射の反動で銃身が跳ねる現象、マズルジャンプが軽減され、連続発射により温まった銃身から立ち上る陽炎により狙いがつけづらいという問題がある程度改善される事となる。さらに設計図の見直しによる改良や、クーリングホールを開けた事により、11kgだった重さも10kgまで落とす軽量化に成功した。


「どうじゃ」

「前より軽くなったな。やっぱ軽い方が扱いやすくて好きだ」


 感想を求める鋼汰に対し、明嗣は各種パーツの動作チェックや構えた際の感触を確かめながら答えた。点検を終えた明嗣は弾倉(マガジン)をそれぞれに差し込み、隣に置かれているヒップエンドタイプのホルスターへ収めた。そして、今度はそのホルスターを腰に巻いて試着した。


「どうだい。着けた感じに違和感はある?」

「サイズはピッタリだけど今まで脇の下に吊ってたからかな。腰の辺りにあるのが変な気分だ」

「ならOKだね。それと……」


 明嗣から問題なしとお墨付きをもらった操人はフィンガーレスグローブを差し出した。


「オートマを使うならこれも必要でしょ。バイクにも乗るようになったらしいじゃないか。むしろ今までよく着けてなかったよね」

「いやー……いちいち着けるのが面倒でさ……」

「これからはそうも言ってられないでしょ。それにグローブは熱くなった銃から手を保護する役割だってあるんだから」


 敵わないな、と肩をすくめた明嗣は素直に着け心地を確かめるためにグローブを着けた。手を何回か開閉して馴染ませると牛革が手のひらをしっかりと包み込む感触がする。


「ピッタシ」

「それは良かった」


 当然、言わんばかりに操人は答えた。だいたいの確認を終えたので明嗣は腰に着けていたホルスターを外した。そして、制服の上着の下にある今まで使っていたショルダーホルスターへ白黒の双銃を収める。制服の上着では丈が足りないので、隠し持つにはこうするのが一番手っ取り早いからだ。


「じゃ、仕事来てるかもしんねぇから行くわ。それに鈴音の奴と賭けダーツの約束がしててさ。早く行かねぇとうるせぇんだ」

「へぇ、賭け金(チップ)は?」

「晩飯の一品」

「それは良いね。今作ってるのが仕上がったら僕も久しぶりに顔だしてみようかな?」

「お、操人も何か作ってんのか?」


 将来の黒鉄銃砲店を背負って立つ銃職人(ガンスミス)の操人だ。当然の事ながら作る銃に興味が湧くのは自然の流れである。明嗣の質問に対し、操人は意味深な笑みを浮かべ、自信満々と言った様子で答えた。


「今作っているのはハンドガンとスナイパーライフルのツーウェイ仕様の回転式狙撃銃(リボルビングライフル)さ。ハンドガンモードの時はツインバレルで一回の発砲で弾を二発同時発射、スナイパーライフルモードの時は2つの銃身を合体させてライフルの銃身にするってコンセプトで作っているんだけどね。やっぱり二種類の銃を一個にまとめるのは難しいよ」

「そりゃそうだ。使っている弾が違いすぎる」


 一撃に重きを置く.357マグナム弾や.44マグナム弾を使用する回転式拳銃(リボルバー)と飛距離と貫通力に重きを置いた.22ロングライフル弾や.223レミントン弾などで急所を撃ち抜くスナイパーライフル。この2つは使用する弾薬のサイズが拳と指くらいの違いがあるため、当然の事ながら無謀な挑戦だと言える。それでも……。


「でも、これを完成させるためにいろいろ考えるのが楽しいからね。成功したら絶対に凄いものができるって確信してる」

「そうかい。ま、幸運を祈る」


 明嗣が相槌を打つと、既に次の作業に作業に取り掛かっていた鋼汰は、はよ行けと言わんばかりに手で払ってみせた。


「じゃ、また頼むな」

「あ、待った。明嗣に届け物を頼みたいんだけど……」


 帰ろうと踵を返した明嗣を呼び止めた操人は紙袋を一つ差し出した。


「この間一緒に来てた鈴音ちゃんにこれをね。明嗣が銃を取りに来た時に預けるって約束したんだよ」

「仕方ねぇなぁ……。まぁタダで銃の面倒見てもらってってから良いけどよ……」

 

 渋々、といった様子で明嗣が荷物を受取ると、操人は「じゃあね」と手を振って帰っていく明嗣を見送った。

 外に出た時、空は茜色に染まっていた。人の動きも帰宅ラッシュの時間に突入したせいか活発だ。吸血鬼が潜伏するには絶好のシチュエーションである。

 急いで日が落ちた後の準備をするため、明嗣は自宅へ向けて駆け出した。

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