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ヴァンプスレイヤー・ダンピール  作者: 龍崎操真
EPISODE2-1 Messenger from The Vatican

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第44話 女子の心、男子知らず

 翌日。一般的な週の始まり、国民的週刊少年漫画雑誌の最新号が刊行される月曜日だ。

 ひとまずブラッククリムゾンを預けた後、いつものようにHunter's rustplaatsで朝食を済ませて登校した明嗣は、あくびを噛み殺しながら校内の昇降口付近に設置されている自動販売機にある飲み物の品定めをしていた。


 カルピスかオレンジジュースか……。コンポタは……粒が最後から残るからパスだな。


 他にも紅茶やレモンティーなどがあるけれど、それらは明嗣はコーヒー党なので選択肢から外れる。


 コーヒーとコーラも捨てがてぇなぁ……。どれにすっかな……。


 人差し指を泳がせてどのボタンを押すか迷う明嗣。すると背後からその肩をトントンと叩く者が現れた。いったい誰だ、と振り返るとそこには……。


「おはよう明嗣くんっ!」


 元気いっぱいと感じさせる声音と共に笑顔で挨拶する澪がいた。対して、なんとなく身体が目覚めきっていない明嗣は気だるげな声と共に返す。


「鈴音もだけど朝からテンション高ぇな……」

「そうかな? 朝ってそういう物じゃない?」


 澪は眠たげに返す明嗣を前に不思議そうな物を見るような表情を浮かべた。明嗣と澪では生活のリズムが違うので無理もないが、やはり一日の始まりである朝にテンションが低い事は理解できないようだ。なぜなら、澪は夜にしっかり睡眠をとっている一般女子高校生なのだから。

 明嗣が欠伸を噛み殺し、自販機の前で指を泳がせていると、澪は何か思い出してスクールバッグの中をあさり始めた。そして、中から缶コーヒーを取り出して明嗣へ差し出した。


「はいこれ!」

「なんだこれ?」


 なぜ澪が缶コーヒーを差し出した。思い当たる理由がない明嗣は脳内に疑問符を浮かべる。すると、澪も同じような表情を浮かべた。


「なんだこれってコーヒーだよ? 鈴音ちゃんから明嗣くんはブラック派って聞いてたんだけど……」

「それは見りゃ分かる。なんで彩城が俺にコーヒーを渡すんだっつってんだよ」

「それは……この間ご飯奢ってもらった時のお礼してなかったなー、と思って。ほら、あの時めちゃくちゃだったし」


 澪が言うあの時とは、“切り裂きジャック”に拐われた時の事だろう。あの日は昼食の料金は明嗣が全額出したのを澪は気にしていたようだ。


「別に俺が勝手にやったんだから気にしなくて良いんだよ。それにそこらの高校生より金だけは稼いでるしな」

「明嗣くんが気にしなくてもあたしが気にするの! 良いからもらって! あたし、何かしてもらったらきっちり返しておきたい主義なの」

「へぇ、そうか。んじゃ、遠慮なく」


 納得した明嗣は素直にコーヒーを受け取った。その後、一回放り投げてキャッチすると意地の悪い笑みを浮かべる。


「なら、初めて会った日の分と“切り裂きジャック”の分の礼は何してくれるんだ?」

「えぇ!?」


 そっちまで要求されるとは思っていなかったようで澪は驚いた声を上げた。対して、明嗣は意地の悪い笑みのまま、澪が口にした言葉を引用する。

 

「してもらった事はきっちり返しておきたいんだろ? どういうお返しが貰えるのか楽しみだな」

「あ、それはその……」


 たしかに明嗣の言う通りではある。いつかお礼もしたいな、とも考えてはいた。しかし、今のタイミングで言われるとは思わなかった。


 どうしよう……。助けてもらったお礼って何をしたら良いの!?


 澪は困り果てた表情で固まってしまった。明嗣はそんな澪を見て、静かにククッと笑って見せた。


「ジョークだ。マジに返してもらおうとは思ってねぇよ。コーヒー、あんがとな〜」

「もう! からかわないでよ!」


 ヒラヒラと手を振って自分の教室へ向かう明嗣の背中へ、澪は少し顔を赤くして呼びかけた。だが、返事が来る事はなく、自販機の前に一人残された澪は少し疲れたように息を吐く。すると、そんな澪の背後に忍び寄る影が一人。


「朝からお疲れの様子だね」

「わっ!? なんだ鈴音ちゃんかぁ……。おどかさないでよ〜……」


 音も立てず背後に現れた声の主が鈴音だと分かり、澪は飛び上がった心臓を落ち着かせるように胸を撫で下ろした。一方、イタズラが成功した鈴音はケラケラと笑い手を挙げる。


「おはよっ! 朝からそんな疲れた顔してると幸せが逃げて行くよ〜? 何かあった?」

「おはよう鈴音ちゃん……。それが聞いてよ。さっき明嗣くんがね……」


 澪は先程の出来事を鈴音に聞かせた。すると、話を聞き終えた鈴音は苦笑いを浮かべた。


「あはは……それはドンマイだね……」

「なんであんな風に言うんだろ。もっと普通に話せば良いのに」

「まぁ、明嗣って少し女嫌いな所あるみたいだからね〜。それを考えれば、まだ良い方だと思うけど」

「前にそんな事言ってたね」


 鈴音の言葉に澪は前に言われた「女は魔物だと言われた事がある」という鈴音の言葉を思い返して頷いた。対して、鈴音は頷き返すと自販機に硬貨を投入し始めた。


「まぁ、前にいかにもパリピって女の人に絡まれてうんざりとしてる所を見た事あったけど、明嗣は女嫌いって訳じゃないと思うんだよね。本人は女嫌いって言ってるけど」

「どうして?」

「だって、なんだかんだアタシらと話してくれるじゃん? 本当に女が嫌いなら、アタシらも避けたりとか、もっと邪険に扱っているはずだよ」

「あ、そっか」


 言われてみればその通りだ、と澪は納得した表情を浮かべた。


「でしょ? だから、たぶん明嗣がからかったりするのは自分のそういう部分となんとか折り合いをつけようと頑張ってる途中なんじゃない? それはそれとして、言われたらすっごくムカつくけどね……!」


 澪が知らない所で色々言われているのか、鈴音は先ほど買った緑茶を手に忌々しげな表情を浮かべた。澪はそんな鈴音を見て苦笑を浮かべた。

 

「鈴音ちゃんも大変なんだね……」

「とにかく、別に明嗣も好きでそういう言い方してる訳じゃないと思う。明嗣だって今頃、やり過ぎたかも、とか考えているはずだよ。きっと」

「そうかなぁ……」




 その頃、教室に向かった明嗣は……。


 お、新曲配信されてんな。お気に入り入れとこ。


 先程もらったコーヒー片手にミュージックサブスクサービスで配信されている音楽を漁っていた。当然の事ながら、鈴音の言っていた事は1ミリも明嗣の頭の中に存在していなかった。

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