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ヴァンプスレイヤー・ダンピール  作者: 龍崎操真
EPISODE2-1 Messenger from The Vatican

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第41話 臨時コックと新人ウェイトレス(仮)

 さて、アルバートの呼び出しに応じ、ブラッククリムゾンと共にHunter's rustplaatsを訪れた明嗣だったが……。


「いらっしゃいませー! すみません、今日は貸切で……って……」


 口笛と共に入店した明嗣を出迎えたのは、白のブラウスに紺のスカート、そして店の名前である「Hunter's rustplaats」と胸の辺りにプリントされたエプロンを身につけた澪だった。予想外の姿で現れた澪に明嗣は素直に困惑の声をあげた。

 

「さ、彩城……!? 何やってんだお前……?」

「あ、あたしはちょっと頼まれてお手伝いをしてるんだ。バイト代もくれるっていうし。明嗣くんこそどうしたの……。今日は鈴音ちゃんと一緒に出かけてたんじゃ……」


 手に持ったトレイを胸の前で抱え込み、澪は少し居心地が悪そうに身をよじった。どうやら知人に今の姿を見られる心の準備がまだできていなかったようだ。


「俺は手が足んねぇって呼び出されたから来たんだよ。昼飯も食わせてくれるっていうし」

「そ、そうなんだ。えっと……」


 ちょうど「すみませーん」と店員を呼ぶ声が聞こえたので澪は、返事をして対応に向かった。店内には昨日話していた貸し切り予約した団体と思われる13、14人ほどの集団が食事をしている。明嗣は横目で澪が慣れないなりに接客してるのを見守りながら、厨房にいるであろうアルバートへ呼びかけた。


「マスター、来たぞー。俺は何すりゃ良い?」

「お、グッドタイミング。今ちょうどじゃがいもが蒸し上がったから、手ぇ洗ってポテサラを頼む」

「うーっす」


 アルバートの指示に従い、明嗣は手を洗った後にアルコールで手を消毒する。その後、ポテトマッシャーを手にしてボウルで湯気を上げているじゃがいもを潰し始めた。あらかた潰した所でマヨネーズ、きゅうり、玉ねぎ、人参、刻んだ固ゆで卵を加えてヘラで切りまぜる。そして、適当な量を皿に盛ってその上にペッパーミルで黒胡椒をかければ完成だ。


「次は?」


 用意された人数分の皿にポテトサラダを盛り終えた明嗣はアルバートに次の指示を仰ぐ。

 すると、アルバートはトレイにプレート料理を乗せた。


「次はこれを3番テーブルと4番テーブルだ。その次は仕込んだフレンチトーストを焼いてくれ」

「はいよ」


 と、このような調子で明嗣は厨房とフロアを行き来していた。澪は初めて手伝うという事もあり、配膳のみに注力していたが慣れない接客でバタバタと(せわ)しなく動き回っていた。

 そして、会計を終えて一息吐いた時にはもう、時計の針は14時を指していた。


「はぁ〜……緊張したぁ……」


 まるで息が詰まる場所に長時間押し込められていたかのように、ドッと疲れた声を出す澪へアルバートは無理もないと笑った。


「お疲れさん。いやぁー、さすがに10人越えを一人で捌き切るのはキツかったからな。今日は助かったよ澪ちゃん」

「あ、はい。役に立ってたなら良かったです」

「明嗣もありがとな。お前が来てくれなかったら今ごろ厨房で目を回してたかもな」

「んー。に、してもかなりハイペースで食う客だったな。フードファイターか何かだったのか?」

「知らん。近頃は配信で大食い企画をやる、なんて奴もいるからな。その手のグループだったんじゃねぇか?」

「はっ。飯テロやってりゃ面白くねぇトーク力でも億万長者なんだから良い時代だこと」


 気に入らない、と言いたげに腐す明嗣にアルバートは苦笑する。その横で澪からクゥ、と可愛らしい空腹の音が鳴った。


「あ、もうお昼の時間なんだと思ったらつい……」

「はいよ。もうちょい待ってな。すぐ昼メシ食わせてやるからな」


 仕方ない、と笑いつつアルバートは明嗣と澪の前に卓上コンロを設置して着火した。そして各自に用意した空の鍋に温めた牛乳と熱してドロドロとなったチーズを注いだ。やがてフツフツとチーズと牛乳が煮えたぎる鍋の横に人参やブロッコリー、フランスパンなどを切り分けた物が山盛りとなった皿を置いた。


「ほいー。今日の昼の賄いメシはチーズフォンデュだ。これなら使わなかった野菜の切れ端とかも余すこと無く食えるからフードロス削減で良いだろ?」

「本当は疲れたから夜まで何も作りたくねぇが本音だろ」


 明嗣の指摘に対し、アルバートは「バレたか」と笑って見せた。一方で腹を鳴るほどに空腹だった澪は目の前に現れた料理を前に目を輝かせる。


「わぁ……! あたし、チーズフォンデュ初めてなんです!」

「おー、そうなのか。熱いから気ぃつけてな。仕上げは黒胡椒だ。飽きたら味変になるから好きに使いな」


 ゴリゴリと自分の鍋に黒胡椒をかけたアルバートは2人の間にペッパーミルを置いた。せっかくなので各自で好きなように挽いて自分の鍋に黒胡椒をかけて澪と明嗣も食事を始める。その最中にこれからの予定について話を始めた。


「で、これからの事だけどブラッククリムゾンは地下に運べば良いのか?」


 ブロッコリーを鍋の中で泳がせ、チーズを纏わせながら明嗣が尋ねると、アルバートは頷いて人参をフォークで刺す。

 

「え、このお店って地下があるの?」


 最近までこの店の事情に疎かった澪がキューブ状に切り分けられたフランスパンを刺したフォークを手に話に参加した。すると、アルバートは再び頷いて返事をした。


「まぁな。入口は俺の後ろにある食器棚と、メンバーズカードを持つ客だけが入れる部屋に一つずつある。あとは大型の物を入れるための搬入口として外に一つだな。それで話を戻すが、どんな感じの挙動なのかも見たいからお前にはあの剣を起動してもらうぞ。でねぇと、どう手を加えりゃ良いのか分からんからな」

「えぇ……あれ、使った後は貧血みてぇに頭クラクラになるから嫌なんだよなぁ……」

「それをどうにかするために今日来てもらったんだ。我慢しろ」

「んな無茶な……」


 クリムゾンタスクは“切り裂きジャック”と戦った時以降使っていない。単純にそのレベルの吸血鬼が出てきてないのもあるがそもそもの話、使った後の疲労が尋常ではないのだ。エンジンが掛かっている間はまぁいい。吹かせば吹かすほど鼓動が強く脈打ち、アドレナリンなどの興奮物質が分泌されて、疲れ知らずのいわゆるハイな状態となるのだから。だが、それが切れた後の頭が真っ白になり、何も考えられなくなるほどの何かが(はじ)け飛んだような疲労感。これがなるべく使わないようにしようと思う程にダメなのだ。

 これから待っているであろうグロッキー状態を想像した明嗣は、ゲンナリとした表情で肩を落とした。すると、明嗣の隣で話を聞いていた澪が、角切りのベーコンをチーズに(くぐ)らせながら口を開いた。


「地下室……見てみたいかも……」

「じゃあ、来るか? ろくなもてなしはできねぇけど」

「おい、マスター……」


 あっさりと受け入れるアルバートに対し、明嗣は咎めるような視線を向ける。だが、アルバートはそんな事はお構いなしとばかりに口を返す。


「別に澪ちゃんなら良いだろ。誰かにペラペラ喋るタイプって訳でもねぇし」

「いや、そういう問題じゃなくてさ……」

「それに俺たちの事知ってるなら、もう秘密なんてあってないようなモンだ。なら、下手に隠すのは感じ悪いだろ」

「そりゃ、そうかもしんねぇけど……」

「だいたい、ここは俺の店だ。誰を店のどこに案内しようと俺の自由だ」

「……」


 もっともな言い分なので明嗣は何も言えなくなってしまった。

 やり取りを見守っていた澪は、論破された明嗣に対して申し訳なさそうに声をかける。


「あの……なんかごめんね? ワガママ言っちゃったみたいで……」

「いや、まぁ……気にすんな……。マスターが決めた事だからな……」


 本当はあまり踏み込んで欲しくないけど。地下工房をある種の聖域のように感じていた明嗣は、本音をグッと飲み込んで返事する。やがて、自分の皿に乗った具材を全て食べ終えた明嗣とアルバートは、地下工房へブラッククリムゾンを運び込む準備を始めた。

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