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ヴァンプスレイヤー・ダンピール  作者: 龍崎操真
EPISODE2-1 Messenger from The Vatican

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第39話 店番は銃職人見習いで狙撃手

 問題の日曜日がやってきた。以前、澪と出かけた時と同じように明嗣は交魔駅で明嗣は駅舎に背中を預けて鈴音を待っていた。違うのは、二丁の愛銃で真っ赤なパーカーの脇が膨らんでいる所くらいだろうか。


 あー……行きたくねぇなぁ……。あの爺さん、怖ぇんだよなぁ……。


 顔を出すたびに毎回手荒い歓迎を受けるので、明嗣は憂鬱な気分に陥っていた。このままバックレようかとすら考える程に行きたくない思いで胸がいっぱいだ。せっかく外に出たのだから、なにかイベントでも覗いてみるか。完全にもう鈴音との予定は投げ出す前提で暇つぶしにスマートフォンへ指を滑らせる明嗣は、何かないかと近場のイベント開催予定を調べ始める。だが、その思惑は砕け散った。


「ごめーん! おまたせー!」


 チッ……来やがったか……。


 新しい店に連れて行ってもらえる楽しみでいっぱいな声を聞いて、明嗣はガックリと肩を落とした。声のした方へ目を向けると、そこには口を赤い組紐で縛った竹刀袋を背負った鈴音がいる。本日の鈴音は白いTシャツにパステルピンクのジップアップ・パーカー、デニムのショートパンツに黒のショートブーツといった服装だった。


「いやー、服選ぶの時間かかちゃってさー。待った?」

「どんだけ時間かけてんだよ。集合時間から30分も過ぎてるじゃねぇか。服なんてちゃっちゃと選べば良いだろ」


 呆れた表情で返す明嗣に鈴音は分かってないな、と言いたげな微笑みを浮かべた。


「ふっふっふっ……。ファッションを甘く見ると、後でファッションで泣く事になるよ明嗣」

「そういうのは『そうなったらいいな』っつー希望的観測っていうんだよ」

「明嗣って言霊とか信じないタイプ?」

「どうでもいいわ。さっさと行くぞ」


 ため息をついて返した明嗣は、鈴音を連れて歩き出した。しかし、店はどのような雰囲気なのか楽しみで羽のように軽やかな足取りの鈴音に反して、案内人の明嗣の足取りは鉛のように重い物だった。




 黒鉄銃砲店は4つに分けられた交魔市の区画(エリア)の一つ、商業エリアに建っている。無論、日本で銃火器の販売は表立って出来ないので、表向きは雑貨屋として営業をしており、誰かからの紹介が無いと見つけられないように隠れているのだ。

 さて、明嗣はその雑貨屋に鈴音を案内したのだが……。


「ねぇ、明嗣?」

「……なんだよ」

「なんでさっきからお店の前に立ったまま動かないの?」


 屋根にデカデカと「黒鉄雑貨店」と書かれた看板を掲げた建物を前に立ち尽くす明嗣に対し、鈴音は不思議そうな表情を浮かべている。


「アタシ、入り方が分からないから明嗣が先に行かないと……ってあれ? 明嗣、なんか顔が青いよ? 大丈夫?」


 ふと、鈴音が表情を伺うと、なんと明嗣の顔色が何かに怯えるように青くなっていた。さらに、心なしか滝のような冷や汗をかいているようにも見える。皮肉、嫌味、挑発エトセトラ……相手を怒らせる事に関してはエキスパートであり、そんな事などお構いなしにズケズケ物を言うあの明嗣が、顔を青くして冷や汗をかいているとはいったいどういう事なのか。これは明らかに異常事態である。

 心配するように明嗣を見つめている鈴音。やがて、覚悟を決めた明嗣は鈴音へ向き直った。


「良いか、鈴音。これから会う人はな、怒らせるとめっちゃ怖ぇから失礼のないようにしろよ」

「それはもちろんだけど……。こ、怖いってどれくらいなの……?」

「そうだな……。口より先に手が出るって奴がいるが、ここの店主の場合は口より先に銃が火を噴く」

「なにそれ!? 怖っ!」

「ああ。だから絶対に怒らすなよ。絶対だからな」

「う、うん……。分かった……」


 おっかなびっくりと言った様子で、鈴音は明嗣の言葉に頷いてみせた。それを確認した明嗣は、覚悟を決めるように深呼吸をした。


「よし……行くぞ……!」


 意を決して明嗣はガラス張りで木製フレームの扉に手を掛けた。そして、ドアベルのお迎えを聞きながら店に入った明嗣に続き、鈴音も店の中へ足を踏み入れた。

 店内はぬいぐるみやガラス細工の置物などのインテリア雑貨が所せましと棚に並べられており、至ってごく普通のインテリア雑貨店と言った様子だった。レジの方では黒い髪で同じ歳ぐらいの少年がレジで読書に勤しんでいる。明嗣が誰かに手を取ってもらうのを今か今かと待つ商品たちには目もくれず、まっすぐに店員が店番をしているレジへ歩いていくので、鈴音もそれに続く。すると、来客に気づいた店員が明嗣へ話しかけた。


「やぁ、明嗣。いらっしゃい」

「ああ。じっちゃん、いるか?」

「うん。今、下の方で作業中。来たって伝えるかい?」

「ああ。頼む」


 若干(じゃっかん)緊張している心の内が声に出てはいる物の、明嗣は店員に取次ぎを頼んだ。戻ってくるのを待っていると、鈴音がコソッと明嗣へ耳打ちした。


「ねぇ、明嗣。あの店員さんって明嗣の友達?」

「まぁ、友達(ダチ)と言えば友達(ダチ)だけど、それがなんだよ」

「いやぁ……明嗣ってマスターと澪以外に仲良い人がいるイメージ無くて……」

「おい、どういう意味だ」


 それは俺がボッチだと言いてぇのか、と言いかけた瞬間だった。取次ぎを終えた店員が戻ってきた。


「お待たせ。案内するよ。一緒にいる女の子も一緒にどうぞ。それにしても珍しいね。明嗣が女の子を連れてくるなんて。あ、僕は黒鉄(くろがね) 操人(あやと)。これから会う人の孫で銃職人(ガンスミス)見習いなんだ。よろしくね」


 店員、銃職人見習いの操人はにこやかに微笑み、自己紹介を鈴音にして見せた。すると、鈴音は感激したように返事をする。


「アタシ、持月(もちづき) 鈴音(すずね)って言うの! 明嗣の友達って言うからどんな奴かと思って不安だったんだ! めっちゃくちゃ歓迎してくれるじゃん!」

「え、えー……? 明嗣、彼女にいったい何したの?」


 困惑している操人の質問に対し、明嗣はため息を吐いて首を横に振る。その仕草で返答拒否の意思を受け取った操人は、苦笑いを浮かべた。一方、操人の友好的な態度に気を良くした鈴音はふと操人の変わった特徴について言及した。


「あれ? 操人、なんか時計の着け方がおかしくない?」


 そう口にした鈴音の視線は操人の左手首に注がれている。たしかに鈴音の言う通り、操人の左手首にはブラックのデジタル腕時計が巻かれている。しかし、そのデジタル腕時計は手のひらの方に文字盤が来るように巻かれていたのだ。女性向けの腕時計なら、そういう着け方をするタイプも存在するが、服で例えるなら前後逆で着るような物で普通はまずしない着け方である。当然の疑問に鈴音が首を傾げていると、明嗣が本人に代わって説明を始めた。

 

操人(コイツ)は銃職人であると同時に狙撃手(スナイパー)だからそういう着け方してんだよ。狙撃っつーのは時間通りに引き金を引いて、脳天()ち抜いてやるのが仕事だからな。普通の着け方するより、こっちの方が早く時間を確認しやすい」

「まぁ、癖って奴だね。こうじゃないとしっくり来なくなっちゃってさ」

「ふーん……そうなんだ……」


 剣を使う者と銃を扱う者の感覚の違いだろう。そういう物かとひとまず鈴音は納得するように頷いてみせた。すると、操人は鈴音へ衝撃を受ける一言を告げる。


「あ、ちなみに僕、こう見えて二十歳超えてるから。そこんとこよろしく」

「え!? 嘘……!? 見えない……」

「本当だよ。免許証見てみるかい?」


 そう言いつつ、操人はポケットから自動車免許証を取り出し、鈴音へ差し出す。鈴音は差し出された免許に記してある生年月日を覗き込む形で確認した。すると、たしかに生年月日は21年前を示していた。つまり、思いっきりタメ口で話しているこの男は現在21歳ということになる。だが、どこからどう見ても1、2歳くらいしか違わないように見えた。


「本当だ……」

 

 言ってることが本当だと認めてもらえた操人は免許証をしまいつつ、衝撃を受けて固まる鈴音を前に、納得行かないといった表情で明嗣へ呼びかけた。


「ねぇ、明嗣。僕、そんなに幼く見えるかな?」

「さぁな。まぁ、最近はどいつもこいつも子供(ガキ)なのか大人なのかわかんねぇ奴ばっかだし、気にする事ねぇんじゃね」

「気にするよ。酒買う時にいちいち年齢確認(ネンカク)される僕の身にもなってよね……」


 嘆く操人に対して明嗣はククッ、と堪えるような笑みを漏らした。一方、なおも事実を受け入れられない鈴音は「嘘でしょ……」「この見た目でお酒飲めるの……!?」など二人の後ろでブツブツと呟きながら付いて来ていた。そして、話している内に三人は、黒鉄銃砲店工房前に到着した。

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