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ヴァンプスレイヤー・ダンピール  作者: 龍崎操真
EPISODE3-4 Romance monster

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第111話 焼け落ちる蝶

無断で更新を休み申し訳ありませんでした。

本日より更新再開です。

このエピソードを含め、第3章は残り3話。終わりまで駆け抜けます。

それではどうぞ。

 これから泣き叫びながら地獄に落ちる事になる。明嗣から宣告を受けた茉莉花は、馬鹿馬鹿しいとばかりに鼻で笑う。


「どうやって? 今、自分がどういう状況か分かって言ってるの? それともおかしくなっちゃった?」


 今、圧倒的に優位なのは自分だ。その確信が茉莉花にはあった。なぜなら、明嗣が足蹴にされている理由は、茉莉花の速さに対応できてないからだ。しかし、明嗣は不遜な態度を崩す事無く、不敵に笑う。

 

「そう思うのなら、さっさと俺を殺しとく事をオススメするぞ。仕掛けたトリックのタネが分かった。もう、お前の好きにはさせねぇから覚悟しとけ」

「そう。なら……遠慮なく!」


 トドメを刺そうと、茉莉花が明嗣の背中を力いっぱい踏みこみ、踏み貫こうとした瞬間だった。明嗣は左手でホルスターから黒鉄の銃、ブラックゴスペルを抜く。


「えっ!?」


 明嗣は茉莉花の方を見る事なく引き金を引いた。ただし、照準は茉莉花の頭ではない。背中を踏みつけられているため、正確に頭を狙う事ができないからだ。だが、頭を狙うのは確実に殺すためであり、頭を狙わなければならないという訳ではない。明嗣が狙う先は、現在進行形で自分の背中を踏んでいる茉莉花の脚から上の胴体である。


「キャ!?」


 吸血鬼の反応速度は人間のそれを遥かに凌駕する。不意の発砲だったのにも関わらず、茉莉花は慌てて飛び退く事で銀弾を回避した。だがこれにより、明嗣は自分を踏みつけていた脚から解放されて動けるようになる。


「惜しいな。当たってたら片脚吹っ飛ばしていたが……」


 明嗣の愛銃、ホワイトディスペルとブラックゴスペルに装填している弾薬は10mm 水銀式炸裂弾エクスプローシブ・シルバー・ジャケット。着弾すると頭を吹き飛ばす威力を持つ。もちろん、脚に当たれば茉莉花は片脚を失っていた事だろう。


「まぁ、そりゃ欲張りってモンだな。動けるようになっただけ良しとするか」


 明嗣は右手に握る大剣、炎刃クリムゾンタスクを地面に突き立てグリップを捻る。すると、腫れや青痣、切れていた口などの傷がみるみる内に塞がっていった。


「動けるようになっただけで何? 明嗣くんが不利な事に変わりはないよっ!」


 再び茉莉花が攻撃を仕掛ける。自分が上だと分からせるため、再び背中を踏みつけてやろうと明嗣の背中へ回り込む。だが……。


「せあっ!」


 明嗣がグリップを捻った瞬間、クリムゾンタスクからエンジンが吹け上がるエキゾーストノートが響く。その後、何かが爆発したかのような速度で横一文字の薙ぎ払いが茉莉花を襲った。


「わぁっ!?」


 予想していなかった明嗣のカウンターに、茉莉花は思わずしゃがみ込む。子供の姿だったの幸いした。小柄で華奢な身体だったおかげで、明嗣の繰り出した反撃は頭上を通り過ぎ、空振りに終わる。だが、気勢を削ぐには効果的だったようで、茉莉花は驚きと恐怖の表情で固まってしまった。


「うそ……どうして……!?」


 クリムゾンタスクの加速機構を初めて見た茉莉花は、信じられないと言いたげに首を振る。何が起きたのか理解できない様子で顔も青ざめていた。一方、明嗣は狙い通りと言いたげにニヤリと口の端を吊り上げる。

 

「どうした? さっきまでの勢いがなくなってんぜ!」


 これを好機とばかりに、今度は明嗣が茉莉花に猛攻撃を仕掛ける。茉莉花が小柄な子供である事を織り込み、一文字斬りや逆袈裟斬りなどの背の低い者へでも有効な攻撃を中心に組み立てていく。さらに、クリムゾンタスクの機構を活かして剣の速度を加速させたり、逆にさせなかったりなど二択問題を迫る事で、明嗣は茉莉花を追い詰めていく。だが、その全ては当たる事なく空振りで、茉莉花に当たる事はない。


「あんな小さい相手に大ぶりの攻撃ばかりじゃ、当たる物も当たらないよ……」


 明嗣と茉莉花の攻防を前に、澪がやきもきとした表情を浮かべて呟く。すると、いくらか痺れが取れてきたのか、鈴音が起き上がって口を開いた。


「たぶん、それしかできないんじゃないかな……。明嗣の剣は大きいからその分だけ小回りが利かないんだと思う」

「じゃあ、どうすれば……」

「銃を使えば良いと思うんだけど……」


 おそらく、明嗣はそれをしない、というかできないのだろう。理由はおそらく……。


 アタシ達がいるから……?


 もし、流れ弾がこっちに飛んできたら避ける事はできない。事実、現在の明嗣は右手にクリムゾンタスクを握るのみで、空いている左手に銃を握っていない。クリムゾンタスクを起動してからも、先ほど茉莉花をどかせるのに撃ったきりでその後はすぐにホルスターへしまっていた。鈴音の言わんとしている事を理解した澪は悔しげに唇を噛んだ。


「明嗣くん……」

「でも、それにしては……」


 鈴音は明嗣の表情に疑問の表情を浮かべた。攻撃方法は制限されている。どの程度かは知らないが明嗣も麻痺毒で苦しいはずだ。にも関わらず、今の明嗣には余裕が伺える。いったい何故その余裕があるのか。その理由を考えていると、鈴音は澪の周りに蝶が一匹飛んでいる事に気づく。よく見ると、その蝶は茉莉花が生み出した個体とそっくりな色の翅で、よく観察すると羽ばたく度に何か粉末状の物が翅から舞っている事に気付いた。


「まさか……」


 鈴音の頭に一つの推測が浮かぶ。そして、太ももに付けたポーチからクナイを一本取り出した。すると、その動きに気づいた澪が、何事かと呼びかけた。


「鈴音ちゃん?」

「澪、ごめん。ちょっとお願いがあるの」


 鈴音は取り出したクナイを澪の方へ差し出した。


「あの蝶、これで殺して。今すぐ」

「ど、どういう事? いきなりなんで……」

「いいから早く。でないと、澪もその内痺れて動けなくなっちゃう」

「う、うん……。わかった……」


 鈴音の剣幕に気圧され、澪は少し手を震わせてクナイを受け取った。そして、両手で持って狙いを定めつつ、タイミングを伺う。


「……ッ!」


 やがて、覚悟を決めた澪は一気にクナイを振り下ろした。切っ先で捉えられた蝶は身体を貫かれ、地面に叩きつけられると同時に塵となって消える。だが、これがいったい何になるのか。澪は釈然としない表情を鈴音へ向ける。


「これで……良いの?」

「うん。ありがとう、澪……」


 これで、ひとまず安心だとばかりに、鈴音が深く息を吐いた。一方で、鈴音より先に茉莉花の仕掛けに気づいたと思われる明嗣は……。


「こんのちょこまかと!」


 茉莉花の首を狙い、明嗣は横薙ぎで一閃するが、やはり空振りに終わる。結局の所、どれだけ驚異的な仕掛けを駆使した攻撃であろうと、当たらなければどうという事はない。いつまで経っても攻撃を外し続ける明嗣の様子を前に、茉莉花は余裕を取り戻しつつあった。


「あはっ! どうしたの? さっきから全然攻撃が当たってないよ!」

「それがどうしたァ! さっきまでブルってた奴が偉そうににすんなや!」


 口を返しつつ、明嗣は真っ向斬りを茉莉花へ叩き込む。だが、やはり茉莉花はいともあっさりと避けて見せる。

 やろうと思えば、拳打を交えてコンパクトにまとめた攻撃をする事はできる。当たらないのは攻撃している明嗣自身がよく分かっている。しかし、それでも大振りの剣撃で攻撃しなければならない理由がある。それは茉莉花の能力対策、蝶の翅が生えた彼女にはまさしく蝶の特性を有している事に気づいたのだ。

 先に戦っていた鈴音も同じ症状でダウンしている。と、なれば、茉莉花が鈴音と明嗣に共通の何かをしたと考えるのが自然だ。そして、茉莉花が変態する前、澪が叫んだこの言葉。


 “明嗣くん、気をつけて! その蝶は―― ”


 蝶には羽ばたくたびに鱗粉を振りまく特徴がある。その鱗粉に毒が混じっており、その鱗粉を吸い込んでしまった故に身体に痺れてしまった、と考えれば、全ての辻褄が合う。つまり、既に攻撃されていて、まんまと茉莉花が仕掛けていた罠に引っかかってしまっていたらしい、という訳だ。同時にそこまで推理できたのならば話は簡単だ。風圧でできるだけ鱗粉を払いながら攻撃したら良い。そのために、わざわざ外れるのを承知で大振りの攻撃ばかりをしているのだ。

 だが、狙いを悟られぬように立ち回ってこれたのも、これまでのようだ。


「ッラァ!」


 明嗣が加速させた逆袈裟斬りを茉莉花へ繰り出した。すると、茉莉花はその攻撃を宙返りを行う事で軽やかに避けてみせる。


「嘘……」


 戦いを見守っていた鈴音が目の前の光景に言葉を失った。なんと、宙返りを行った茉莉花が滞空していた。


「翅が生えたからもしかしてと思ったが、やっぱそうなるかよ……」

「そうだよ! わたしはこうやって空を飛べるようにもなったんだよ!」


 どうだと言わんばかりに空を舞う茉莉花に、明嗣は忌々しげに歯噛みする。これではクリムゾンタスクによる剣撃が届かず、一方的に鱗粉による毒でじっくりと料理されるだろう。だが、現在の明嗣はクリムゾンタスクのエンジンにより、眠れる吸血鬼の力を解放している状態だ。身体能力も通常時と比べて強化されている。目測にして高さは10mほどに見える。それくらいの高さなら、強化された明嗣の身体能力で届く距離だ。

 当然、明嗣は茉莉花目がけて跳躍しようとした。しかし、次の瞬間。明嗣はつんのめったように膝から崩れ落ちる。


「なっ……!?」


 全身に力が入らない、といった様子で明嗣が地面に手を着き、クリムゾンタスクがアスファルトに刺さる。その様子を目にした茉莉花は勝ち誇った表情を浮かべた。


「あはっ♪ もう動けないの? じゃあ……」


 くるりと茉莉花が空中で一回転した。その後、しゃがみ込んだ明嗣に向けて急降下してトドメを刺すために襲いかかる。


「明嗣くん、逃げて!」


 迫り来る茉莉花を前に、澪が叫ぶ。


「早く助けなきゃ……!」


 動けない鈴音は式神で逃げる隙を作ろうと召喚の呪符を手にした。


「そろそろ死んじゃってよ!」


 勝ちを確信した茉莉花は、心臓を抉り取ろうと明嗣へ手刀を突き出して向かっていく。もう、明嗣が殺されてしまう。誰もがそう思った。

 だが、誰も気付いていなかった。この時、明嗣が全て計画通りと言いたげにほくそ笑んでいた事を。


「だからお子様だってんだよ」


 突如、クリムゾンタスクのエンジンが咆哮をあげる。一気に高回転域(レッドゾーン)まで吹け上がるその音は、ビリビリと空気を震わせた。

 もっと吼えろと言わんばかりに、明嗣はグリップを全開まで捻り、エンジンを回していく。やがて、吸排気口から黒い火花が出た瞬間、クリムゾンタスクは黒い炎に包まれた。


「なっ――!?」


 本能的な危機を感じ取った茉莉花はブレーキをかけようとした。しかし、地面と違って摩擦による抵抗が小さい空中では、すぐに止まる事はできない。そして、この時を待っていたとばかりに、明嗣はクリムゾンタスクを力いっぱい振りかぶる。

 

「“Well done(丸焼き)”だぜ!」


 引き金を引くようにブレーキレバーを握りつつ、明嗣は袈裟斬りでクリムゾンタスクを振った。すると、刀身を燃やす黒い炎は三日月形の斬撃となり、茉莉花に襲いかかっていく。当然、トドメを刺すべく一直線に向かってくる茉莉花に避ける手段はない。

 明嗣の放った黒炎の斬撃が茉莉花の身体を燃やし始める。やがて、夜空を舞う蝶は黒炎に包まれ、地に堕ちた。

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