他の人と遊んで
今日は金曜日!“女のドラマシリーズ”です!!(^^)!
幼い頃からそうだ。
兄や妹が
たまに気が付いて
私のベッドの傍へやって来ても
「私はいいの。遊んで来て!」
と送り出した。
孤独を噛みしめる寂しさから、つい『来て』という言葉をくっ付けたけど……
私の言葉の“免罪符”を懐におさめて……彼らが戻って来る事はなかった。
そう、その遊びに飽きるか、疲れ果てるまで。
私立小学校へ上がっても、“休みがちのくせに”運転手付きの車で送り迎えされる私は、クラスの中では“お客さん”だった。
私の母校は……どんな家柄の子であろうとも等しく、冬でも素足がむき出しの制服にランドセルを背負って電車通学が必須の校風だったから。
抵抗力が無く、ちょっとした事でも発熱してしまう私は文字通りの“箱入り”で……
何時いかなる時でも無菌室に居るようなものだった。
こんな私でも、エスカレーター式の学校だった事が幸いして、大学時代には一緒にゼミに入るくらいの女友達はできた。
でもそれが精一杯!!
密かに憧れた男の子は何人かいたけれど、彼らが誰かと好き合ったり喧嘩して別れたりするのを遠くから眺めるだけ……
「ああ、私が普通だったら!!」
こう夢想して少女マンガを模写して描き始めた“もう一人の私”の物語も、妹に見つかってしまい、それっきり……
今から思えば……別に妹が悪いわけではない。
両親だって……彼女が高校二年の一年間をアメリカで過ごす事を許したのだから、本来は子供の希望する事や夢に対しては理解のある親なのだろう。
しかし私に対しては、それは必ずしも当てはまらなかった。
特に母は、私を病弱に産んでしまった事に罪の意識が消えず、それはしばしば忍び泣きと過干渉を誘発した。
でも、私が出来るのは……どうにもならない自分を抱え込んで、ただただ息を殺す事。
『起きて半畳寝て一畳』と言うが……このことわざに照らしてみても私は健常者より余計に場所を取っている。
私は大学を卒業しても職に就く事もできず、家事も満足にできない“プー”……
もし、この家に生まれて来なかったら……とうに死んでいただろう。
寝たり起きたりの数年が過ぎ、妹は他家に嫁ぎ、結婚後ニューヨークに赴任していた兄がいよいよ戻って来る事になった。
義姉は笑顔の素敵な才媛で……私には良い人に思えたが、母はそうは考えておらず、……兄が“当主”になる前に、私の処遇を然るべきものにしたかった様だ。
父の会社で最も優秀かつ将来有望な京極義之さんに白羽の矢が立ち……私は京極茅乃となった。
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この結婚に京極さんがどれだけの物を犠牲にしたのか、私は知らない。
誰も私には……何も言わないから。
6月の花嫁だったのにようやく新婚旅行へ行けたのは秋の声を聞く頃、それも湯治を兼ねた一泊二日の小旅行だった。
それでも私には心踊る事だったのだけど、
湯屋から戻って来た私に気付くまでのほんの僅かな瞬間……義之さんが旅館の庭の百日紅の花に目をやり、物思いに耽っている姿を垣間見てしまった。
その“物思い”の訳を……恐くてとても聞き出す事ができなかった。
そのまま私はぎこちなくなり……結局、カレの為に用意したランジェリーを披露する事も無かった。
ただ義之さんは本当に優しい人で……
どんなに多忙でもどんなに疲れていても笑顔を絶やす事無く私を気遣い、至らない私の面倒を見てくれる。
もし仮に(そんな事は無いと私は信じているのだけど)カレが、会社での自分の立場や出世の為だけに、今も私に尽くしてくれているのであれば、それはそれで“家”にとっては決して手離してはいけない得難い人材だし、少しでも私への愛があるのなら、それは本当に有難く、カレに感謝してもしきれない。
それなのに私は!! 私達は……
結婚して2年余りの今でも
“夫婦”では無い。
私が……僅かな事でも体調を崩す事は今も変わりない。
現に、カレとくちびるが触れただけで発疹ができてしまった。
だから私のあらゆる所は手つかずのままだ。
私だって人並みな感情はあるのに!!……
でも私は本当にダメな人間で……こんな自分の事ばかりにかまけて、彼が笑顔の下に押し隠しているものに気付かなかった。
夢にうなされて目がさめてしまったある夜、時計を見たらまだカレが自室で仕事をしている時間だった。
頭は酷く疲れていたが、幸い体は動かせたので、コーヒーとちょっとしたおやつをお盆に載せてカレの部屋の前に立った。
ところが、ドアの向こうからただならぬ息遣いが聞こえ、私はお盆を床に置き、そっとドアノブを回し、隙間から中を覗いた。
中は暗く、大きなヘッドフォンを掛けた義之さんはぼんやり光るモニターを眺めている。
目を凝らすと画面の中に裸の女性が!!!
どうやって部屋まで戻ったのか、よく覚えてはいない。
その晩はお布団を被って震えているだけだった。
男の人のそんな姿を見るのは勿論初めてだったから……
でも意を決して、何日か予習して……
体に障らない程度に長湯し綺麗に身を清めて特別なランジェリーを着けたその夜、
私はカレの目の前でパジャマのボタンを外した。
そしたらカレは私の素肌にキスをくれた。
けれど……
だけれども……
あとは言葉をくれただけだった。
「茅乃さんの事を心から愛しているから……茅乃さんを壊してしまうかもしれないから……これ以上はできない!!」
と。
キスさえままならない私は、もうあらゆる覚悟を決めていた。
だからカレの事を胸に抱いてお願いした。
あの“遠い日”の時と同じ様に……
「だったら他の人と遊んで! そして私の事を愛して下さるのなら……必ず私の所へ帰って来て!!」
私の言葉が終わらないうちから義之さんは駄々っ子の様に頭を振って、私の胸を涙で濡らして抱きしめた。
いいんだ!
本当に本当に
私はいいんだ!!
あなたがそれを望むなら
私はガラスの瞳のお人形を演じ切ってみせる!!
私だってあなたの事を
心から愛しているのだから!!
茅乃さん、苦しいだろうなあ……
義之さんはどうするのかなあ……
未熟な私はこの先が分からなくて……
ごめんなさい<m(__)m>
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