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私の生まれはもうちょっと西の都の方なんですけども、今は母の実家があるこの村に移り住んでいまして。ここは良い所です。時間がなんだかゆっくりと移ろうように感じます。
さて、私はこの村に住んで四年程になります。仕事にも慣れてきまして、そろそろ良い出会いがあればなあ、なんて考えていたところで丁度、三月前に素敵な女性と知り合ったんです。
それは日課の散歩で海岸を歩いているときのことでした。水平線を見つめる、儚い感じの女性を見たのです。
私は最初、入水でも考えているのかと思って、慌てて声をかけました。そうすると、彼女はくつくつと笑って、面白い人、と零したのです。その鈴を転がしたような甘い声に、笑顔の可愛らしいこと。彼女、微笑むとえくぼができるんです。素敵な女性でした。
きっとあれは、一目惚れというものだったのでしょうね。
彼女は小夜と名乗りました。本当に美しい女性です。最近この村に来て、今まで海の無い街にいたから、海岸が物珍しいのだと語りました。私と同じ時間に海に来るから、また会いましょうと言ってくれました。丁度話し相手が欲しかったのだとも。
その日から私は小夜と毎日会って、他愛もない話をしたのです。幼少期の話とか、好きな食べ物の話だとか。ゆっくりと互いのことを知っていくことが嬉しかったのをよく覚えております。
ところで久作さんは、冥婚という風習をご存知でしょうか。この地方に古くからある、真実の愛を誓い合うための儀式です。最近では、皆さんよく知る婚約の儀が主流ですが、未だに冥婚をしたがる男女もいるようでして。
冥婚とは、書いて字のごとく、冥での婚姻です。やり方としては、ちょいとおぞましいのですが……愛し合う二人の内一人が、もう一人を殺害して、その遺体の肉を食べる、というような。そうして消化して、生きている方の血肉としてしまえば、二人は真の意味での永遠を共にするでしょう? それで二人、いつまでも幸せって訳なんですがね。
あるとき私は小夜に言い寄られまして。小夜は私と冥婚を通して、永遠の愛を交わしたいのだと言いました。