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 途方に暮れた村人たちは、ただ怪物を見下ろして辟易としている。

 男も同じように首を傾げていた。

 ふと、そんな中で、人だかりから少し外れたところにいる若い男の姿があった。物陰からこちらの様子を窺うように、ちらちらと視線を寄越している。

 旅の男は、妙にその若い男が気になった。それで、人だかりを外れて、彼のもとへ近寄っていった。

 若い男は最初、驚いて逃げ出すような素振りを見せた。しかし、目が合ってしまった時点で諦めたのか、旅の男が接近してくるのを黙って眺めていた。


「いやはや、何やら大変なことがあったようですな」

「ああ、ええ、そのようで……いや、ええ、はは。そうなんですよ、大変なことが……ええ」

「僕は旅の作家です。名を久作と申します。三弦山の向こう、佐津間の裏和から参りました」

「ああええ、そりゃ遠くからどうも。私は喜助と言います」

「喜助さんは何か、あの若者達について知っていることはありませんか。良ければお話し願いたい」

「ええ……そうですねえ。知ってるといえば知ってますし、知らないといえば知らないような、へへ」


 喜助は苦笑を浮かべて、頭を掻いている。何やら煮え切らない返事をするものだから、久作はこいつ、人と話すのが苦手なのだろうか、と思ったものだ。視線がやたらと泳ぐことや、そもそも人だかりから離れていたことなども手伝って、そういうものだろうと思えたのだ。

 喜助もまた、あの怪物化した男たちとそう年の変わらない男であった。色白くて気の弱そうなところもまた、人付き合いが苦手な人の特徴だと、久作は勝手に判断する。


「知っているし、知らないというのは? ああ、申し訳ない。見ず知らずの男に突然そのようなことを聞かれても困りますよね」

「ああいやいや、いいんですよ。いえ、いえ、むしろ聞いてほしいのです」


 苦笑を浮かべたまま、喜助が辺りを見回す。それから「すみません、ちょいと此方へ」と手招きをするため、久作はそれについていくことにした。

 細い裏路地を通って、何だか喜助は人目を避けるように進んでいく。

 連れて来られたのは、一軒の何の変哲もない民家であった。


「此方が私の家です。ささ、どうぞ上がって」


 促されるまま、久作は足を踏み入れた。

 質素な畳の部屋に正座して、喜助は神妙な面持ちで久作を見つめた。喜助がそんな顔をするものだから、何やら室内には張り詰めた空気が流れる。久作も、思わず居住まいを正した。

 喜助は一度視線を落として、それから意を決したように、厳かに口を開いた。


「実はですね、あの男達は、私が殺してしまったのだと思うのです」


 突飛な話に、久作は目を見開いた。こんな生白くてひょろりとした男に、人を殺せるとは思わなんだ。それに、怪物化した男達は村人が農具などで殴って殺していた。離れて見ていただけの喜助は、そこに関与していない。


「もしかして、男達が怪物化した理由を知っておいでですか」


 思わず声が強張った。喜助は緩慢な動きで首を横に振る。


「……わかりません。嗚呼、嗚呼。でもきっと、私のせいなのです」


 喜助は畳の目に視線を落として、ふう、と息を吐いた。それから大きく空気を吸い込み、胸の辺りに手を当てる。

 不意に顔を上げた喜助は、神妙な面持ちで久作を見つめていた。


「久作さん。これは、私の懺悔です。どうぞ、神に代わってお聞き頂ければと……」

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