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序章 - 最初の六人

-序-

これは遺跡都市ディハンシナで「最初の六人」と呼ばれる冒険者のお話。


「最初の六人」は聖騎士シェハーリン、戦士ドルドレッティ、

エルフ族の魔法剣士クノーヒン、ドワーフ族の戦士ノルドオット、

スカウトのゲンズバルク、そして、魔術師ノルンの六人。

彼らは様々な冒険をしてきたベテラン冒険者だった。


この奇跡と悲劇は、彼らが砂漠越えを必要とする魔物討伐依頼の途中、

休憩を固辞したゲンズバルクのため、魔術師のノルンが水を作り出す

魔法を使ったことで始まった。


飲み水を出すためだけに使った魔術で、ため池でも作るくらいの水が出たのだ。

びしょ濡れにされて怒るゲンズバルクをよそに、ノルンはその原因を考えた。

「この下に古代魔法の貴重遺物(レリック)が埋まっています」

「…って、無視すんな。え?」


彼らは依頼を一時中断して、砂漠の探索を開始した。

砂漠には目印がないため、これを逃す手はないと判断したためだ。


ほどなくパーティは砂漠の中に遺跡の入り口を発見する。

スカウトのゲンズバルクは罠を確認するため中に先行した。

彼の足はあらゆる罠を回避することから「浮足」と呼ばれていた。

たとえ罠があっても彼は回避して、それを仲間のために解除する。


遺跡の中は半分以上砂に埋まってしまっていて、進むのは困難だった。

幸いなのは、砂に埋まっているからか、魔物の気配がないことだ。


「近頃の若い者は鍛錬に穴掘りもしないのか。腰が高い!」

シェハーリンとドルドレッティはドワーフ族のノルドオットに

きびしい指導をされながら盾で砂を堀りながら進んだ。


時には罠があり、ゲンズバルクが解除する。


やがてパーティは今にも動きそうな石像が左右に立っている扉の前に出た。

巨人族ほどある石像は今のところ動く気配はなかった。

念のため、シェハーリン達は剣や盾を構え、警戒する。


「これはオレの専門外だ。魔法で開く仕掛けらしい」

扉を調べたゲンズバルクは、ノルンを振り返った。

「古代語のようですが、ところどころ読めませんね」

ノルンは古代語にも精通していたが、彼女でも知らない記述がある。


ノルンは試しに扉の魔法陣に魔力を注いでみた。

魔法陣は輝き、何かが動き始めた気配がある。


『ここは審理の間、汝の名を答えよ』

パーティにはわからない古代語で何者かの問いかけがあった。


「我が名はノーラエルマ。東の塔の魔術師にして、偉大なるコトラスの末裔」

ノルンはメンバーも知らなかった真名を名乗り問いかけに応じた。


今度は共通語で問いかけが続く。

「選ばれし民の帰還を認めよう。我が祭壇に供物を。供物なき場合は己を差し出せ」


その言葉を聞いたとたんノルンは他のメンバーを下がらせた。

杖を構えたノルンは今まで聞いたこともない呪文を詠唱した。


エルフのクノーヒンは呪文と共に現れた魔法陣から、それが呪いや

悪魔の攻撃から身を守る呪文だと感じた。


『盟約に従い、我はこの都市を開放する。供物はお主だノーラエルマ!』

地響きと共に見えない無数の手がノルンの体を釣り上げ、彼女から

何かをもぎ取っていった。


「ああ、ノルン!ノルン!ちくしょう!何しやがるんだ!」

ゲンズバルクが必至でノルンを取り返そうとする。


地震はますますひどくなって、みんな立っていられなくなった。


揺れが収まると、釣り上げられていたノルンが解放されて落ちて来る。

ゲンズバルクがさっと受け止めた。


ノルンの顔は青ざめて白い陶器の様だった。

「あなたはいつも私に気を使ってばかり…」


ノルンは恐る恐るゲンズバルクの顔に触れる。

「なぁ、シェス、オレの命をやってもいい。彼女を助けてやってくれ」

「もうできる治癒魔法は全部唱えた。彼女の体に反応がないんだ」


「誰でもいい。助けてやってくれ。そうだ、オイ!さっき話してた遺跡!

 お前でいい。頼む。オレの命をやるから彼女を助けてやってくれ。なあ!」

「あの気配は…もう。あれはこの遺跡の隠ぺいに使役されていた悪魔の類…」


「ここは伝説の古代魔法都市の遺跡…きっといろんな貴重遺物(レリック)があるはず

 勝手に持ち出されないように、私の名を使って、東の塔に助けを求めて…」


ノルンは上を見上げて叫ぶゲンズバルクの襟を引いて自分を見てと促した。

「私は…あなたの思いに知らないふりをするヒドイ女…でした」


「ただ怖かった…。私は特別な境遇だったから。受け入れてもらえるか不安で」


「でも、私がこれだけ強くあなたたちを…あなたを守りたいと思ったからもう大丈夫。

 好きよゲンズバルク…愚かな私を許して」


「今からいなくなるような言い方すんなよ。オレが絶対助けてやる」

「あり…がと…」

突然。前触れもなく微笑んだノルンの体が砂となる。

服を支えていた四肢が消え、彼女は砂となって地面に広がった。


「ああ!わあああっ!」

衣服の裾から流れ出る砂を、ゲンズバルクは必至でかき集めた。

あまりの別れに残されたパーティの思考が停止する。


「なんてことだ。私の判断が甘かった。ノルンが死んだのは私のせいだ」

リーダーのシェハーリンが悔恨をかみしめた。


足元の砂と混ざってしまってわからなくなったノルンのかけらを

ゲンズバルクはまだ集め続けていた。


「ノルン…ゲンズバルク…」

クノーヒンが二人を思って泣き崩れる。

ドルドレッティとノルドオットが盾を胸に付けて戦士の黙祷を捧げた。


そうしていると、先ほどの地震とは違う地響きが始まった。

感のいいドルドレッティと耳のいいクノーヒンが気づく。


魔物が一斉に遺跡になだれ込んでくる。

「敵だ!どれだけいるかわからない!」


「ゲンズバルク!もういい、ノルンを袋に詰めろ」

「もういいなんて言うな。まだ残ってんだ。一遍だってこんなところに彼女を置いていけるか!」

ドルドレッティが宝物に使う袋を出して、ゲンズバルクが抱えていたものを入れるのを手伝った。


「馬鹿野郎!ノルンが救ってくれた命だ。絶対生きて帰るぞ」

ドルドレッティの肩をしっかりつかむと、自分の力を注入するように活を入れる。


「お前の座右は『生きて帰る。そして救う』だろ!」

ゲンズバルクはスカウトだ。

どんな危険な状況も生き抜いて生還する専門家だ。


ゲンズバルクの目に光が戻る。

「オレが…ノルンを連れて帰る」


そうするうちに、先ほどまでは動く気配のなかった石の巨人までもが、

体に積もった砂をふり落としながら動き始めている。

パーティは魔物にはさまれた状態だ。


「巨人は極力無視して脱出する。絶対に負けられない一戦だ」

聖騎士シェハーリンが身体強化と加護の守りをパーティにかける。


「もちろんだ。行くぞおやっさん!」

ドルドレッティが儀式の耳飾りを折って、攻撃特化の特性をすべて開放する。


「おうさ!ドルド!シェス!ワシに続け!槌の神の加護を!」

ノルドオットが盾を構えて、うねりとなって迫る魔物たちに突っ込んでいく。


クノーヒンは涙を拭いていて出遅れたが、弓を構えた。


「力み過ぎはダメだぜ。お前さん方。入り口までは戦いながらで半日かかる。

 巨人をひきつけてくれ。まずはこの遺跡の罠を使って入り口側の魔物を減らす」

そこにはいつものゲンズバルクがいた。


彼はこの通路に入る前に罠の解除で触っていた壁をさぐっていた。


罠が再び動き出し、迫ってくる魔物を壁から出現した回転する刃が薙ぎ払っていく。

魔物が来るたびにそれが繰り返されていた。


「よし!作戦変更だ。石の巨人を誘い込む」

パーティは石の巨人を倒すことにした。


回転する刃の罠はさすがに石の巨人を砕くことはできなかったが、

一体は動けなくなって、罠と共倒れになった。


クノーヒンの提案であえてもう一体の石の巨人は生かしておいて

一緒に入り口に向かうことにした。

石の巨人は敵味方なく攻撃するので、数で押してくる敵のけん制になった。


シェハーリンが回復と後衛の護衛に徹して、前衛二人が脱出路を開いていった。

クノーヒンとゲンズバルクが弓で前衛を援護する。

危ない時は、クノーヒンが前衛二人を高速の剣技でフォローした。


要所要所で遺跡の罠と石の巨人を使って、魔物を抑えて、休憩を取り、

消耗を回復する。


パーティの死の行軍は、ゲンズバルクが見積もった通り、半日かかり、

そのころには石の巨人もボロボロになって動けなくなっていた。


「あばよ。世話になったな」

入り口付近で、ドルドレッティが巨人の首をはねてとどめをさす。


遺跡の入り口に来るとちょうど砂漠の彼方から暁光がさす時刻になっていた。


「おお!」

「なんだこりゃ、エライもんが出てきおった!」

パーティが遺跡の外に出て観た光景は、入った時とはまるで違っていた。

そこにあったのは、ところどころ砂に埋もれて不完全ではあるが、

砂漠に出現した石造りの都市の姿だったのだ。


遺跡都市を最初に発見した六人のパーティ。

それが、後の「最初の六人」と呼ばれた都市の英雄たちのお話だ。


・

・

・


私?

私が誰かって?


私はこの「最初の六人」のドルドレッティとクノーヒンの娘。

ハーフエルフのイシュカ。


本が大好きで、お話も好きな18歳。

これでも、遺跡都市ディハンシナの貴重遺物管理庁の管理官見習い。

現在、ケガの療養中で役立たずだけど、貴重遺物を回収する追跡者(トレーサー)でもあるのです。


最近、私のかわいい弟、ウレットのことで悩みがあって…。

ウレットは遺跡の中で保護された赤ん坊で、私の実の弟ではないのだけれど、

とある出来事から普通の人族ではないらしいということがわかったのだ。

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