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きれいな雷鳴

作者: 天芽あおい

ぽつぽつ、と窓に雨粒が当たる音がする。


私は洗濯物を急いで取り込んでから、親友にメッセージを送る。


『雨降ってきた〜』


すぐに既読がついた。今日は暇なんだな。


『こっちも降ってる』


メッセージと同時に、1枚の写真が送られてくる。部屋の窓から撮ったのだろう、雨粒が数滴はり付いている。外は暗く、どんよりとした灰色の雲が空を覆っている。こちらと似た状況だ。


既読が2になった。お、今日は二人とも気づくのが早いな。


何かにおびえているような表情をした、かわいいうさぎのスタンプが送られてくる。


『雷なってる…』


雷か、そういえばこっちでもなってたな…。私は雷は平気な方だが、二人は大丈夫だろうか。


そう考えているうちに、さらに雨音は強く激しくなってきた。窓から外を眺めると、雨雲がとんどん黒く厚くなっていくのがわかる。窓ガラスにたくさんの雨粒が当たり、滝のように流れていく。


すると突然、空がピカッと光った。これは、来るな…。すぐに心のなかで数を数える。



1,2,3,4…


ゴロゴロゴロ…



4秒か。割と近いが、まだ大丈夫だろう。


『こっちも雷なったよ』


メッセージを送る。既読がつかない。

まあ、急ぎの連絡ではないので特に問題はない。


一人で雷鑑賞を楽しむことにした。



ピカッ


1,2,3,4,5…


ゴロゴロゴロ…



ピカッ


1,2,3,4…


ゴロゴロゴロ…


雷はどれも同じくらいの距離に落ちているようだ。昔、親が「雷は光ってから3秒以内に音が聞こえたら近い」と教えてくれたことがある。どれも3秒以上経ってから音が聞こえているから、大丈夫だろう…




ーーそう思った瞬間


空が激しい光に包まれたかと思うと、


ゴロゴロゴロ…


と数える間もなく音を立てた。




光はまるで、上向きのヘッドライトを直視してしまったときのような眩しさだったが、花火のような煌びやかな輝きを持っていた。

音も今までのものよりも一層大きく、重く響き、体の奥にまで振動が伝わってきて、まるでオーケストラを聞いているかのような気分になった。

外を歩いていた通行人も思わず、ビクッと肩を震わせ、持っていた傘を強く握りしめていた。



そして私は、その雷鳴の迫力に、一瞬にして魅せられてしまった。



もっと、見たい。あのきれいな閃光を。


もっと、聴きたい。あの美しい音色を。



私は考えるよりも先に、スマホのカメラを起動させ、録画を撮り始めた。近いとか、怖いとか、そういうことはもう関係ない。さっきのを、もう一度…!



ピカッ


1,2,3,4…


ゴロゴロゴロ…



遠い。もっと近くで…!



ピカッ


1,2,3,4,5…


ゴロゴロゴロ…


まだ遠い…それにもっと遠くなってしまった。


それからしばらく、窓際で動画を撮り続けていたが、あのきれいな雷鳴は姿を現さない。


どこに行ったらあのきれいな雷鳴を見られるだろうか。


自分の体は自然に動き出した。スマホの動画を一旦止めてから、それを持ったまま靴を履き、ドアを開け、外へ飛び出した。


外はいつの間にか暗くなり、雨の音がゴウゴウと鳴っている。私は水たまりをバシャバシャと鳴らしながら、走っていく。自分が濡れることは、全く気にならない。雨は容赦なく、私の服や靴の中に染みていく。



ピカッ


1,2,3…


ゴロゴロゴロ…


さっきよりも雷に近づいている。私は雷の音がするほうへ駆けていく。



ピカッ


1,2…


ゴロゴロゴロ…



もう少し、もう少し近くで…!!




それから何時間たったのだろう。私はいつの間にか、山の中に入り込んでいた。周りに街灯はなく、とても静かだった。



ピカッ


1…


ゴロゴロゴロ…


ああ、もうすぐだ…。私はゆっくりと歩みを進めた。


足元に落ちていた落ち葉がクシャッと音を立てる。顔についた水滴が首筋まで流れて来るが、拭こうとはしなかった。


私はスマホを空に向け、再び動画を撮り始めた。分厚い雲で覆われた空は、星空などが入り込む隙を与えず、その暗闇を一層際立たせる。


さあ、あのときのきれいな雷鳴をみせて…!



ピカッ


ピシャーン!!!


ゴロゴロゴロ…ゴロゴロゴロ……




親友たちはその後、メッセージのやり取りを続けなかったことを、ひどく後悔することとなった。












最後までお読みいただきありがとうございました。


皆様に読んでもらえてとても嬉しいです。

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