占部を救え!
憑依しているためか、記憶が段々と上書きされていく。それに合わせて、元の世界にいた時の記憶が薄れていった。だが、『マイケル』であったこと。『世界を救う』ことだけば絶対に忘れてはいけない。
魔女・一夜の話によれば、通販で頼んだ天球儀は、届くまでに2週間ほどかかるという。
その間、特になりもすることがない、占部洸ことマイケル・マーティン=グリーン。だから、他のアプローチも考えてみた。
――世界を救え。まずこの占部洸を助けないと。
何せ、彼女にとって許せなかったこと。
今の自分が……占部洸が、控えめにいってクズだったことだ。
自分自身を嫌っているだけではなく、親も嫌っている。片親だけで周りと違うのは、確かに両親の所為かもしれないが、それで自分を嫌っているのは、理解できないでいた。
何か救うというための情報収集として、この間、学校にいった。しかし、友達らしいのもいない。占部はクラスメイトと距離を取っているし、周りもそうだ。
クラスの担任なる人物は、何とか打ち解け合おうとした記憶が、自分には合った。だが、彼女が憑依する前に、諦めたようだ。
今は、冷たくあしらっている。
それで他の人も信用せず、学校でも一匹狼を気取っていた。
なので、窓際の端っこにひとりでいるか、授業があっても非常階段の片隅で、しょぼくれているだけだ。
――何かを救え!
マイケルは、まず自分を救わなくてはいけない気がしてきた。
クズだと思ったのは、先程述べた人間関係もそうだが、自分自身の頭が悪い。
成績の話だ。
――こいつ本当に馬鹿だな。
どうすべきかと、彼女が悩んだ結論は、単純。勉強をすることだ。
授業にまともに出ていない。だから頭が悪い。
なので、この世界の授業に参加した。周りからは不思議がられたが……それ以上に、マイケルが驚いたのは、日本の言葉だ。
ひらがな、カタカナ、漢字……漢字が最悪だ。
今まで勉強していなかったのか、占部の記憶にはほとんど漢字の記憶がない。数学はまだ10進数なので、この世界の数字と記号を覚えれば軽いものであった。
ただ問題文を理解できない。漢字の所為で。
あげくに英語まで加わってくる。
――この世界の教育は、どうなっているのか!
怒っても仕方がない。無い物は手に入れるしかない。
クラスメイトの話を聞いていると、近々試験があるらしい。
――|見返してやる《占部という女子を救える》のはそこか。
ということで、片っ端から教材を探した。
占部には子供の頃からの、教材は捨てていたようで、書店に行って、有り金をはたいて買い込んできた。
日本語はマイケルにとっては、外国語のようなものだ。
楽ではないが、越えられない壁でもなかった。