新たな魔法具
「占部さん、服装は、この世界の記憶を元にしてくれてイイと思います」
「はい。そうします」
占部洸ことマイケル・マーティン=グリーンは着替えながら、記憶を漁った。依り代にしているこの現代日本の15歳の少女からしたら、今、彼女の姿はあまりにも滑稽であったことを、思い知らされている。
下着、ブラジャーなども家に忘れいるので、魔女・一夜の提案通り、体操着を着込み、その上から制服を着ることとなった。
「まず、気になるのはお前が、オレの話をまともに受け止めたことだ」
占部が切り出したのは、目の前の魔女・一夜が、自分が異世界の住人などと言う話を笑わなかったことだ。
普通、こんな話を聞いて依り代の記憶を頼るとしたら、笑われるのか筋だ。
「世の中変わった事がある……では、説明が――」
「説明は付かないなぁ。そんな話、異世界が実際に存在することを、確実に理解していないと納得はしないだろ?」
「では――難しい説明は抜きにして……
アタシ達、魔女の中では『この世はひとつではない』と考えています。元にアナタが、『異世界』から来たというのであれは、それは本当のことでしょう」
「だから、異世界を信じると? なんか騙されているような――」
「信憑性が足りないですか? アナタが着替えている間に、ちょっと頼んだものがあるんです」
と、一夜は手元のスマホを占部に見せる。
そこには大手通販サイト『Mangrove』の画面が映し出されていた。そして、商品を何か買ったらしい。
「天球儀っていうそうです」
画面に映し出されているのは、金色の天球儀だった。
占部の記憶にはないが、マイケルの記憶にはそれがなんであるか思い出した。暦を作成するのに、星の位置を調べるための代物だ。
「何に使うんだ?」
しかし、彼女には解らない。
星の位置を測る装置と、自分のいた世界との繋がりが掴めなかった。
「占部さんの世界が覗けるかも――。これはそういう道具です」
「これで、オレのいた世界が覗ける!? まさか――」
「まあまあ、魔女の道具を信じてください。炎の獅子とかがいう『世界を救え』のヒントも解るかもしれないです」
「それはありがたいが……本当に?」
「それと――」
一夜はスカートのポケットにスマホをしまうと、同じ場所からまた別のモノを取り出した。
「あまりこの世界では魔法を使われるのは、ちょっと困るのですが……
でも、護身用に持っていてもいいかと」
それはしずく状のガラス瓶だ。一夜の小さな掌に収まるほどの大きさ。中には透明な液体が封印されているように見える。
「なんだ、これ?」
「魔石の宝珠です。魔法が使えないって言っていたので――
恐らくこの世界の占部さんの方が、魔法に覚醒していない所為かと。これを握れば、使えるようになります」
「そんな簡単に――」
「簡単に使えるから、あまり魔法は使わないでください」