ギャップ
占部洸は、朝、高校に登校すると理化学準備室に向かった。もちろん、あの魔女・一夜にもらった『魔法の砂時計』の結果を伝えるためにだ。
自分が、マイケル・マーティン=グリーンという異世界の住人であったこと。そして、この世界に『炎の獅子』の試練で飛ばされた事をすべて話した。
記憶が上書きされる前に――。
そう、彼女は自分の本当の『マイケル』の記憶が、上書きされていくのを感じていた。
それは自分が、他人――依り代のウラベ・アキラになるようで、怖くて仕方がなかったからだ。
魔女こと、落合一夜はそんな彼女の話を聞き続けた。
異世界から飛ばされたの、この身体は借り物だのいう話は、通常なら驚くべきであろう。が、一夜は、そのことは気にするようなことはなかった。
ただ、
「アナタ、男だったの!?」
「違う、女だ!」
「マイケルって、男の名前でしょ?」
「オレのいた世界でも、マイケルって言う名前の女を珍しいが……オレは前も今も女だ!」
「でも――」
と、目の前の占部を見る。
彼女の方は朝の身支度で、制服を着ることに抵抗があった。スカートの丈が短く、太ももを露出するのにひどく困惑したが、ジャージを穿くことでなんとか抑えた。まあ登校中に他の生徒から妙な目でみられていたことには、気が付いていた。
「今どき、スカートの下ジャージってのは――」
「この世界の学生は、こんな恥ずかしい格好しているのか? いや……ウラベは自分から短くしていたようだけど――」
「まあ、慣れましょう。ともかく、ジャージは止めて体操服の半ズボンがあるでしょ?」
「あれを履くのか? どっちも下がスースーして――」
「下がスースー?」
「スカートだっけ……だけだと歩いているときに見えるだろ? ペチコートがないのかこの世界は――」
「下が見える? あッ、占部さん?」
一夜はゆっくりと、目線をあげていく。それは占部の鎖骨あたりで止まった。
そして、言葉を選ぶように、
「下着はどうしているんですか?」
「えッ? ウラベの記憶にあわせるの面倒だったから、起きたときのまま……上からセーラー服、着ただけだと――」
「ブラとかは……」
「何それ?」
途端、一夜の顔が真っ赤になった。
そう寝起きのまま制服を着ていた。寝たときに付けていた、タンクトップとショーツのみ。
「ともかく、占部さん体操服を、着ましょう! アタシ、出ていますから」
「なんでだよ……」
「痴女、認定されたくなければ!」