目覚めの悪い夢
ここは、とある日本の片隅――
ピピピピピピッ!
と、彼女はけたたましいアラームで起こされた。
――頭が痛ってぇ。
彼女はタタミに敷かれた万年布団からゆっくりと起きた。
――鬱陶しいが、学校に行かなくちゃ。
そんなことを考えながら、洗面台の前に立つ。蛇口から水を出し、両手に受け止めると顔を洗った。
「ん? 誰だ、こいつ!?」
彼女は顔を上げ、鏡に映った人物に驚いた。
自分の記憶では、赤い髪に緑の瞳だったはずだ。だが、黒く長い癖っ毛に、黒い瞳の人物がそこに写っている。
おかしい、と思ったが自分の意思と同じように右を向いたり、上を向いたり……瞬きをしてみると、鏡の向こうの他人は自分と同じ動きをする。それでようやく自分だと認識できた。
――オレの名前は……
彼女は、自分の名前があやふやになっていた。自分の中にもうひとりいるような感じだ。
そして、改めて確認する。
――オレは、占部洸。15歳で高校1年生。街の片隅のボロアパートに、母親とふたり暮らしの日本人。親父は母親を捨てて出ていった。
確かにそうだと、手に力を込めた。だが、自分が自分でないと感じるのはなんであるか、疑問しかない。
ふと首からぶら下がっているものに目をやった。
――こいつの所為か?
首元のネックレス。その先にぶら下がっているのは、ガラスの円筒形をしたものだ。中には赤い砂時計のようなものが封印されている。しかし、この中の砂時計は機能していない。両方の玉の部分にぎっちりと赤い砂が入っているからだ。
「これは忘れた記憶を取り戻す道具」
と、この『魔法の砂時計』を渡されたことを思い出した。