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なんでお前も異世界に?

「先輩」


「なんだ朝倉?」


「アタシ達って、なんでこんなとこ居るんすかね?」


「俺だって知らねーよ」


俺たちは、なぜか見慣れない森の中にいた。先ほどまでの事は、思い出そうとすると記憶に靄がかかってしまったように、おぼろげにしか思い出せない。俺たちは日本に住んでて、学生で……少なくともさっきまではこんな森の中にはいなかった。


「これっていま流行りの異世界転生とかいうやつじゃないっすか?」


「別に流行ってはいないだろ。それに生まれ変わってないから転生じゃねーんじゃねーか?」


「多分ステータスオープンとか念じたら自分のステータスとか見れるんすよ多分」


「いやそんな事あるわけ……あったわ」


そんなわけないだろうと冗談半分で念じたら本当に出てきたわ自分のステータス。どうなってんだ。俺は頭に浮かんできた自分のステータスを確認する。



「先輩、アタシ勇者らしいっす」


「へーそう、良かったね。俺なんか農民だよ」


「へ?」


「農民」


「農民っすか?」


「農民」


「んふっ……先輩、笑ってもいいっすか?」


「ぶん殴るぞ」


「ぷっ……くくっ……農民……先輩が農民……」


「笑ってんじゃねーか」


「まぁいいじゃないですか農民でも。先輩が農家として独り立ちするまでアタシが守ってあげますよ。自分なんか強いっぽいんで」


「そいつはありがたいな。報酬はバナナとかでいいか?」


「アタシはゴリラとかじゃないんですけど」



俺たちは軽口を叩きあうが、それよりも、今はしなければいけない事がある。安全確保だ。ここはそもそもどこなのか、俺たちは分からない。朝倉の言うとおりに、もし俺たちが異世界に来てしまったとしたら、これから新しい生活基盤を整えて生きていかなければいけない。生き抜くためにも、俺たちは自分たちの置かれた状況を早急に知らなければいけない。


「とりあえずこの辺を探索してみるか。なんか食えるもんか落ち着いて休める場所でも探そうぜ」


「そっすね。なんか食べ物の話をしたらお腹空いてきたっす」


「暗くなる前には見つけたいな」


うっそうと茂った樹々から木漏れ日が差し込んでいるが、それとていつまで明るいか分かったものでは無い。そう思うと、少し足早になってしまう。そうして食べ物を探し始めて少し経った頃、草むらが揺れ、何かが俺たちの前へと飛び出してきた。


「緑の人っすね」


「いやこれゴブリンじゃねーか?モンスターだろ何だよ緑の人って」


草むらから飛びだしてきたのは、人間の腰ほどの背丈をした、醜悪な小人だった。体に毛は無く、体表が緑で棍棒を構えてこちらを見ている。俺は警戒して少し後ずさる。


「いやでも先輩、もしかしたらこの緑の人はこの辺りで平和的な友好種族かもしんないっすよ」


「凶悪なモンスターかもしれんだろ。危ないからちょっと離れろよ」


「おーい、そこの緑の人、アタシ達いま道に迷って困ってるっすけどお話いいっすか?」


「朝倉、お前のそのバケモンみたいな適応能力どうやったら身に付くの?」


朝倉がゴブリンへと近づくと、ゴブリンは唸りながら棍棒を振りかぶって襲い掛かってきた。


「うわっ、危ないっす!」


言うが早いか、朝倉はゴブリンの攻撃を避け、一瞬のうちにその頭部へと拳で反撃を叩き込んだ。ゴブリンの頭は砕けたスイカのように辺りに飛び散った。


「こわっ」


「いやー、とんでもない凶悪なモンスターでしたね先輩、危うく殺される所だったっす」


朝倉は相手の返り血で服を汚し、バツが悪そうに苦笑いしながらそう言った。


「いや相手の頭をグロ画像みたいにしといて何言ってんのお前?あれが平和的な友好種族の初対面の挨拶かもしれないじゃん」


「何言ってんすか先輩、あれはゴブリンですよ。凶悪なモンスターっす」


「一体どの口がそう言うんだ」


そんな事を言いながら、俺はとりあえず朝倉が無事だったことに安堵したのだった。妙に馴れ馴れしくてウザい後輩だが、この訳の分からない状況で唯一の連れ添いなのだ。ケガをしなくて良かったと、心の中で胸をなでおろした。


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