【098話】比翼の令嬢は、飛躍する
「レオ……てめぇ、何のつもりだ」
槍を持つ俺をランドが睨みつける。
「ははっ……モナリーゼの槍……僕たちに、勝つ、つもりかい?」
虚な瞳をしたセイ・ジョールは、フラフラとしながらもこちらに剣を構えてくる。
──はぁ、やるしかないな。
モナは自分を信じろと言った。
勝ちまで持っていく、と。
明らかに不利な状況であるこの試合。それでもモナの自信に満ち溢れた発言を俺は信じて、こうしてランド、セイ・ジョールと対峙する。
肝心のモナはというと、特に何かするわけでもなく、俺が2人と睨み合いを続けている状況を静かに見守っていた。
「来いよ」
「そのつもりだ」
ランドの言葉に俺は、至極冷静に返す。
しっかり腰を落とし、槍を前方に向ける。
俺の役目は、あの2人を【釘付け】で縛るだけ。簡単なことだ。その後のことはモナを信じて全面的にスキル維持を意識しよう。
俺は、息を整え、そのまま2人の方に走り出す。
ただ一直線に無心に突撃する。
そうして、剣を振りかざしてくるランドとセイ・ジョールの攻撃を大盾で受ける。
吹き飛ばされるかと思うくらいの衝撃が身体中に響く。
地面が揺れ、風圧も感じる。
「くたばれぇ!」
「終わりだよ……」
……辛っ。
立っているのさえやっとな状態。けれども、俺の役目は、攻撃を受け止めることだけではない。
【釘付け】
モナに言われた通り、俺は2人の動きを封じる。
相手は動けない。そして、俺も動けない。
──今、自由にこの場所を動き回れるのは、モナだけだ。
「捕まえたぞ!」
俺の声を聞き、モナが動き出す。
「ありがとう、レオ!」
モナは魔法で空高くに飛び上がる。
天使か悪魔か……モナの行動で俺は、とあることを悟った。
ああ、確かにこれは勝てるな、と。
同時に、自分の身にどんなことが起こるのかも安易に想像できた。
「くそっ、離せっ……こんなことしたって、意味ねぇぞ!」
「はは……時間稼ぎかい?」
2人は気付いていないようだ。
モナのメイン武器は槍だが、彼女は物理で殴るだけが得意なわけではない。
モナが空高く飛び上がったことも、特に意味などないことだと、無駄な動きだとでも考えているのだろう。
──それが、破滅へのカウントダウンだとも知らないで。
モナは両手を天に掲げ、大量の魔力を使う。
先程までモナがこちらを静観し、動こうとしていなかったのか、この時のために魔力を溜め込んでいたからだろう。モナが魔力を準備する時間は稼いだ。
だからこそ、こうしてモナは恐ろしいほどの魔力を解き放とうとしている。
「レオッ!」
モナが俺を呼ぶ。
分かってるよ。
この先の展開も、モナの勝ち方も……。
当初から決して曲げない。モナはいつだって、自分自身の全力を以てして、戦ってきた。
「ごめんね! アクアストリームッ!」
モナがそう唱えた瞬間、大量の水が頭上に現れ、激流となって俺たちの方へと降りかかってくる。
「ふ、ふざけるな……魔法だと?」
「ああ……モナリーゼ、本当に君は、僕の邪魔ばかり……」
恨み言を言うランドとセイ・ジョール。
それでも、甘んじてその激流をその身で受けなければならない。
【釘付け】によって身動きを取れない状況を作り出し、モナの本気の魔法を必中させる。
──ズルしても、勝利への執念が誰よりも強いモナの前には、意味がなかったな。
「ぐぁぁぁぁぁっ!」
「いぎがあ……ぶぐっ……」
波に飲まれるランドとセイ・ジョール。
2人と共に俺も流された。
うん……知ってた。
「ごぽぽぽぽっ」
ぐるぐると回転する視界。
今どこにいるのか、自分がどんな体勢であるのかすら分からない。けれども、【釘付け】のスキルだけは意識を失わない限り解除してやらない。
水は流れ、フィールドの外へと排出される。
3人揃って場外判定。
モナだけがフィールド上に残る結果となった。
審判は何が起きたのか、理解していないような顔であったが、やがて我に返り、顔を上げる。
「……しょっ、勝者! モナ、レオペア!」
道連れ作戦大成功。
俺とモナは、窮地に立たされたこの試合を捨て身の戦法によって制したのだった。




