【090話】追い込まれた卑怯者(セイ視点)
「まずいまずいまずいまずいっ!」
どうすればいいんだ⁉︎
僕は、この大会で優勝しなければならないのに、2回戦であんな化け物と戦わなきゃいけないなんて……。
僕はセイ・ジョール。
ジョール伯爵家の次期当主となる男。
2回戦なんかで脱落するなんて、そんなことがあってはならない。
何故なら、僕には優勝しなければいけない理由があるからだ。
どんな卑怯な手を使おうとも、勝ち上がる。
周囲から指摘されたとしても、金でも掴ませて黙らせれば問題ない。黙らなければ、秘密裏に消し去ればいいだけだ。
不正はバレなければいい。
多少、不信に思われたところで、証拠さえなければ僕に後指を差すことはできまい。
……そして、優勝すれば、僕が正義になる!
勝てばいい。
そうだ。
勝利こそが、僕の正当性を証明してくれる。
「モナリーゼ……君だったら僕といい関係を再び築けると信じていたのに」
拒絶されたあの瞬間、僕の頭は沸騰したかのように熱くなった。
3年前に陥れ、貴族社会から追い出されるように仕向け、モナリーゼというセントール子爵家の令嬢は、完全に終わった、と。
誰もが考えるようにした。
実際、彼女は3年前に失踪。
その後モナリーゼの話を聞く機会などなくなり、僕の計画は成功したかのように見えた。
……それなのにっ!
「親子揃って、僕の邪魔をしやがって……」
セントール子爵家。
ああ、本当にその名を聞くだけで虫唾が走る。
僕の人生において最大の障壁。
モナリーゼを消し去り、彼女を悪役に仕立て上げ、僕は被害者という完璧な構図を築き上げたにも関わらず、あの父親は、俺に対して常に疑いの視線を向け続けた。
そして、3年越しに出会ったモナリーゼは、あの頃と同じに見えて、大きく変わっていた。
貴族時代、彼女はちょっとばかし魔法が得意なだけであった。
剣も嗜んでいたが、その才能はなく、態度だけがデカい嫌な女であった。
だから、簡単に彼女を陥れることができた。
けれども、今はどうだ?
態度が大きいのは変わらない。
しかし、その偉そうな振る舞いに見合うくらいの実力を備えていた。
冒険者?
そんなものになって、どうする。
お前の未来には、明るい明日は訪れない。
……そんな風に考えていたのが、嘘かのようにモナリーゼの槍は、対戦相手を軽々と吹き飛ばしていた。
剣の実力はなかったのに、槍の才能はあった……?
「ふざけるなっ! どうしてこうも、僕の人生を狂わせようとするんだ……」
過去に僕の婚約者だったモナリーゼ。
まるで地獄の底から復讐をするために這い上がってきた悪魔のように見えた。
どうしてだ?
彼女は無力な御令嬢。
セントール子爵家から追い出され、行くあてもなく朽ち果てる。
そういう想定じゃなかったか⁉︎
「……強くなって戻ってくるなんて、聞いてないぞ」
まともに戦っては勝てない。
あんな槍での一撃を喰らえば、骨が折れるかもしれない。
怖い……。
モナリーゼと対峙するのが、みっともなく負けるのが怖い!
「負けたら、僕は終わりだ……」
こうなったのも、モナリーゼの親のせいだ。
僕を脅すなんて、子爵家の分際で、こっちは伯爵家に属する身だぞ?
優勝したら、この件は周囲に漏らさないなんて条件付き。
もし、僕がモナリーゼを陥れ、社交界から追放するように仕向けたと知られたら、ジョール伯爵家の信用は失墜する。
「なんとしてでも、勝つ……」
大丈夫だ。
優勝するための秘策がある。
本当は、終盤の戦いで使おうと考えていたが、出し惜しみしている余裕はないみたいだからね。
ブックマーク9000まであと本当に少しっ!




