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【086話】絶対的強者の戦い方





 正々堂々とした試合。

 とは、なんだろうか?

 武器と武器の金属音が鳴り響き、ギリギリの戦いの中で勝利を掴むような熱い展開か。

 それとも、魔法と魔法の応酬による総力戦のような派手な展開か。


「ほら、レオ。とどめ刺して!」


「えっ……? あっ」


 横たわる2人の騎士。

 鉄でできているはずの防具だが、無数のへこみが簡単に視認できる。


「痛っ……」


「速っ、過ぎる……」


 意識は残っているようだが、対戦相手の騎士は立ち上がれないほどにボロボロであった。

 長時間、猛攻を耐え忍んだ戦場の騎士。

 ……の、ように見えるが、実はこの惨状は、試合開始後5秒と経過していない。


 ──いや、強すぎないか?


 対戦相手が手に負えない怪物とかじゃないにしても、この早期決着の仕方は、えげつない。

 ブンブンと槍を振り回すモナの姿は、女神のような悪魔のような、そんな対照的な雰囲気を宿すくらいに歪で美しいものであった。


「……モナ1人で完封しきったのか」


 唖然とした呟きと共に、俺はしっかりと大盾で騎士の意識を刈り取る。

 なんてことはない。



 ……盾で軽く頭部を叩いただけだ。



「勝ったわ!」


「勝者っ、モナ、レオ!」


 観戦者からの歓声が上がる。

 いやいや、それでいいのか。見応えとか、そういうのなかったんじゃないか?

 しかしながら、それでいいっぽい。

 観戦者はギリギリの戦いとか、手に汗握るような展開を望んでいない。むしろ、速い展開の圧倒的な力で相手をねじ伏せるような強引な力と力のぶつかり合いを見たいのだと、そう思わせるような盛り上がりっぷりであった。


「やったわね」


「そうだな。……俺は、何もしていないけど」


「大丈夫よ。そのうちレオの出番も来るだろうから」


 モナはご機嫌である。

 華々しく飾った勝利。

 それが本当に気持ちよかったのだろう。

 まあ、あれだけモナの攻撃が決まれば、それはもう楽しいだろうな。攻撃を防がれることもなく、ストレスフリーな試合。爽快感は、確かにあった。


 ──けど、あっさりしてたなぁ。


 本当に、決着が速かった。

 槍を振るい、華麗なモナの動きに魅了されて、ほとんどの人は気付いていないが、鉄の装備を躊躇なくぶっ叩くというのは、中々豪快なことだ。

 それこそ、モナは相手の装備を変形させている。


「やりすぎじゃないか?」


 思わずそんなことをモナに言うが、


「手を抜くわけないじゃない。負けたら終了、勝つために私の持てる全てを出し切った結果に過ぎないわ」


 その通りではある。

 けれども、相手の力量がどのくらいか、観察するくらいの時間はあってもよかったと思う。


「さっ、勝ったんだから戻りましょう」


 モナは、軽くそう言い、倒れた騎士2人に軽く頭を下げて、試合会場から降りる。

 審判に視線を向けると、どうやらもう終わりだから、戻っていいですよと笑顔を向けられた。


「レオ〜」


「今行くよ」


 ──ちょっと胸が痛い。


 若い騎士2人を完膚なきまでに倒し、彼らの面子は丸潰れ。

 手加減とまではいかなくとも、ここまで実践形式の簡潔な決着を付けなくてもよかった気がする。


 と、最後に心の中で騎士の2人に謝りながら、俺はモナを追う。


 武術大会の1回戦。

 俺とモナは、危なげなく勝利したのだった。




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