【081話】望まぬ再会は突然に
クラッシュ王国武術大会の開始時刻が近づく。
対戦相手は無名の騎士2人。
けれども、油断はできない。
俺たちは、大会初参加。
──俺たちの大会においての経験値はゼロだ。
「いよいよね!」
モナはしっかりと槍を持つ。
手に1本、そして背中に1本槍を背負う。
俺も大盾を近くに置く。
「緊張するか?」
「全然よ。むしろ、楽しみなくらいね」
「そっか」
「レオはどうなのよ?」
「俺か……そうだな」
──緊張はしている。しかし、それ以上に心の奥底から勝利への渇望が止めどなく溢れてくる。
これは、闘志というやつだろうか。
大会への不安。それが消えたわけではない。
大盾使いは、今大会において本当に少ない。
役職としてはマイナーだ。
つまり、好き好んで大会に大盾を持ち込もうという人が少ない。簡単にいってしまえば、盾は弱いということなのだろう。
──けど、盾持ちがいるということが敗北に繋がるなんてことはない。
有効打は期待できない。
そこらへんのことは、モナに担ってもらう。俺は、しっかりと堅実に戦況を有利に進めていく。
制限時間内に勝てればいい。
じっくりと攻め込めば、消耗した相手を一気に落とせる。
「モナが頑張ってくれるっぽいから、余裕だな」
「なにそれ」
モナは微笑む。
大会開始前の俺たちは、本当に和やかであった。
──そう、モナが因縁の相手と再会するまでは、
▼▼▼
その時は突然訪れた。
「おっ……」
モナの方に視線を向けてくる1人の貴族。
思わず出てしまったというような声に反応して、モナはそちらに視線を移した。
「……セイ・ジョール」
そう呟いたモナの表情は、怒りに満ちていた。
モナが怒るのは特段珍しいことではないが、今回のは特にキレているというのが伝わってくる。
あからさまに怒っているわけではない。
静かな怒り。
顔を真っ赤にしたりと、そういう単純なものではない。
……雰囲気が重いものになっているのだ。
「ああ、誰かと思えばモナリーゼじゃないか。元気だったかい?」
「気安く話しかけないで、何しに来たの?」
モナは、親しげに話しかけてくるセイ・ジョールという男のことに軽蔑を含んだ声で対応する。
なんとなくだが、この男とモナがどういう関係なのかが読めた。
──多分。セイ・ジョールは、モナの元婚約者だ。
そうであれば、モナが嫌うのも無理はない。
そもそも、態度も鼻につくものだ。
薄金色の髪にグレーの瞳。
顔は悪くないものの、態度や仕草、全てが胡散臭い感じである。
──モナとは、合わないんだろうな。
初対面でも分かるくらいだ。
セイ・ジョールという男とモナは、水と油みたいな関係性だと言える。
「おやおや、随分と冷たいことだね〜。僕は、君のことを心配していたというのに」
「心配? 浮気相手と私を嘲笑っていたの間違いじゃないかしら」
「ははっ、そんなに嫉妬しないでくれよ」
──なんというか、俺もこの人は苦手だ。
モナが婚約者と婚約破棄するに至った経緯として、元婚約者が他の女性に言い寄ったという経緯がある。
軽そうな態度。
モナの睨みつけるような視線を受けてなお、動じる素振りすらない。
逆にモナの怒りの含まれた視線を受けて、それを楽しんでいるようにさえ思える。それくらい、セイ・ジョールという男は、口元を緩めていた。
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