【080話】強者の余裕(???視点)
「おい、聞いたか?」
「んぁ〜、何?」
「例の噂だよ。【エクスポーション】の奴らが武術大会に参加するってやつ」
「はぁ、どうでもいいわ」
褐色の生意気な女が、俺にそう問いかけてくる。
全く、気持ちよく寝てたってのに、くだらない話で睡眠を邪魔してくんじゃねぇよ……。
武術大会当日。
俺たち【神々の楽園】の大会参加者は、会場近くに借りた宿にて、大会への準備を進めていた。
俺はと言えば、ギリギリまで寝ているつもりだった。
当然のことだ。
負けるわけがないんだから。
「おい、いい加減起きろよ。アウグスト」
俺の相方であるレジーナは、俺の足を蹴りながら起こそうとしてくる。
ウザいわぁ。
どうせ今起きたって、なんも変わらないってのに。
「もぉ〜、まだ眠いって〜」
「あんまり、たるんでるとアリアの姉さんに怒られるぞ」
「大丈夫だって、勝てばいいだけなんだからさ」
まったく、何をそんなに焦ってるんだか。
【エクスポーション】
彼らはSランクパーティとはいえ、かなり小規模だと聞いた。俺たちみたいな大規模Sランクパーティに牙を向けるほどの力はまだないだろう。
しかし、レジーナの顔色は悪いまま。
「タッグ戦にくるらしいぞ」
「その【エクスポーション】が?」
「ああ、悪役令嬢と守衛の2人が参加してくるってさ」
悪役令嬢と守衛ということは、槍使いと大盾使いか……。
ふっ! ……絶対負けないじゃん!
「馬鹿っすね! 武術大会に盾持ちで参加するなんて、チーム戦ならまだしも、個人戦やタッグ戦でタンクが活躍できるわけねぇじゃん」
武術大会は、時間制限がある。
じっくりと戦況を動かすタンク役が1枚入っていることで、そのペアは火力不足に陥るはずだ。
となれば、時間内に相手を倒し切ることはできない。
この大会のセオリーは、火力2枚で強引に押し切ること。
力比べでの戦闘が1番勝率が高くなる。
「せめて、勇者でも出てきたら、また違ったかもしれないのになぁ……」
「おいおい、流石に油断し過ぎだろ。相手は同じSランク冒険者だぞ」
レジーナは警戒しているようだ。
どうしてなのだろうか?
俺にはさっぱり理解できない。
俺とレジーナのペアは、今回のタッグ戦優勝候補。去年だって余裕で優勝した。もはや、武術大会のタッグ戦において、俺たちに敵うやつはいない。
【シリウス旅団】も数が多いだけで、個々はそんなに強くないし、強い奴は個人戦の方に参加してるから、必然的にタッグ戦は優勝へのハードルが低い。
「タッグ戦に出るってことは、1人で勝ち抜ける自信がないってことだろ。どうせ、【エクスポーション】も大した実力じゃないって」
「なら、なんであんな少人数パーティがSランクパーティになれたんだよ?」
「知らねぇよ。まぐれとか、運って奴じゃないの? まあ、そんなカリカリしなくても、余裕で潰せるっしょ」
──盾持ちなんて動きの遅いお荷物。アタッカーの数が少ない時点で、俺たちの方が有利なんだよ。
大会前の俺は、完全に油断しきっていた。
盾持ちのいるペアが勝ち上がれるはずないと。
せめて、全力で叩き潰してやるかと、そんなことを考えながら惰眠を貪る。
「これで負けたら、本当に後が恐いぞ」
「負けない負けない。俺とお前は最強だかんな〜」
──油断、慢心。
その安易な考えは、彼らの動きを見て打ち砕かれることになる。
まさか、相手にすらならないと思っていたやつらが、今大会で最も警戒すべき相手になるなんて、この時の俺は、予想していなかった。
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