【073話】勝負に勝って賭けに負けた気分
セントール子爵邸を出て、俺とモナは、パーティハウスに向けて歩いていた。
望んだ結果を得た。
モナの冒険者としての活動を認めてもらうこと。
今回の交渉は、こちら側が有利にことを進められた。
──もし、そうなら、どれほど良かったことだろうか。
「はぁ……」
乾いたため息を吐く。
モナは、俺の肩に手を置く。
「何よ。不満だったの? 私が【エクスポーション】で活動を続けていくことを認めてくれたじゃない。落ち込むことなんてこれっぽっちもないでしょ?」
「いやいや、なんであんな風な話でまとまっちゃったんだよ」
「いい落とし所だったでしょ!」
モナは交渉を完璧に進められたと鼻高々に語るが、俺はそうは思っていない。
『モナリーゼの冒険者を続けることは認めてやろう。ただし、その実力を証明できたらの話だ!』
モナの父親は、そんな条件を突きつけてきた。
挑発的なその言葉。
熱くなってはいけない。
冷静に詳細を聞き出すべきだった。
しかし、モナにはそんな回りくどい行動は、思い付かなかったようで……。
『ふんっ、望むところよ! 私の実力がどれほどのものか証明してあげるわ!』
光の速さで、そう返答をしたのだった。
「……もう、簡単に答えるなよ」
「レオは怖がりね! 大丈夫よ。私ほどの天才が実力を公に示すことくらい簡単に決まっているじゃない」
その自信は、どこから無限に湧いて出てくるのだろうか。
まあ、確かにモナの実力は、相当高い。
冒険者稼業を続ける点から言えば、文句の付け所がない。
かなりの自信過剰で、沸点が低過ぎることを除けば、優しく気遣いが出来て、魔法も槍も使える優等生。
まさに超ハイスペック美人冒険者と言えよう。
──猪突猛進過ぎるのが、本当に欠点だがな。
考える前に行動するのが、モナである。
そして、考える前に脊髄反射で口から思ったことを言ってしまうのもまたモナ。
「条件きつかったら、どうすんだよ……」
「その条件を満たしてやろうじゃないの! ハードルが高ければ、高いほど燃えるってやつ? ……なんじゃないかしら」
適当な……。
そして、本当にこの残念な交渉を俺たちは後悔することになる。……いや、正確に言うのであれば、モナ以外の【エクスポーション】メンバーが肩を落とすことになる。
ブクマ7500ありがとう!
今後もよろしくお願いします!




