【072話】俺は詐欺師じゃないぞ
モナは、大いに悩んでいた。
悩んだ結果、
「分かったわ。レオの指示に従う」
「そうか!」
俺の出した案を採用してくれた。
であれば、俺がやることはただ一つ。
この屋敷内で特に関わりがあった老紳士と話をすることだ。
▼▼▼
老紳士は、すぐに見つかった。
セントール子爵邸の大広間。
どうやら、来客と会話をしているみたいであった。
「あの人に手引きしてもらおう」
老紳士の方を向き、俺はそう言う。
モナは、「ああ」と納得したような顔をする。
「ログさんね。私が生まれる前からセントール子爵家の使用人として働いてくれてるから、お父様の信頼も厚いわ」
「できるかな?」
「大丈夫だと思うわ。ログさんは、優しいから。私のお願いだったら、なんでも聞いてくれる。簡単に言うと、都合のいい人なの」
悪びれる様子もなく、モナは断言する。
──まあ、モナが帰ってきた時は、凄く感激した様子だったもんな。
率先してモナの捜索に参加していたのもそうだ。
モナへの好感度が高い老紳士のログさんであれば、話を取り次いでくれる可能性も高いことだろう。
来客との会話を終えたタイミングを見計らい、俺とモナはログさんの方へと歩みを進めた。
「ログさん」
「ああ、お嬢様っ! こんなところに……」
まるで、何年越しかに出会えたことのような大袈裟な反応。
モナの大喧嘩の時にその場に居合わせたことなど記憶から消去しているかと思うくらいに嬉しそうに笑っていた。
これは確かに、モナに肩入れしてくれそうだ。
「あの、少しいいですか?」
2度目となる感動の再会? に水を刺すようで悪いとは思ったが、俺はログさんに声をかける。
モナの姿にうっとりした様子のログさんであったが、俺からの声を聞き、我に返ったかのように咳払いをする。
「どうされましたか?」
「モナとモナのお父さんが喧嘩しているの見てましたよね?」
「はい。それはもう、仲睦まじい様子で……」
「目が曇ってるのね……」
呆れたような顔のモナ。
身内贔屓というフィルターによって、ログさん視点からだと、親子の楽しそうに会話している風に見えていたのだろう。
実際は、単なる大喧嘩であったのだが……。
──盲目過ぎる。
モナはため息を吐くが、俺はログさんの言葉に首を振る。
「ログさんの言う通りだと思います」
「おお! 分かってくれますか! いやぁ、中々私の話を理解してくれる方が現れなかったのですが、まさかお嬢様を連れてきてくださった恩人の方が私の理解者になってくれるとは……」
「こ、光栄です……」
両手をヒシッと掴まれ、ログさんの感動したような視線を向けられるが、当然そんな風に見えてはいなかった。
──うわぁ、適当言ったら、凄いいい反応返ってきちゃったんですけど!
予想以上の好感触。
後々俺が理解者でもなんでもないと分かった時が少しだけ、不安ではあるものの、俺はこの機会を利用する。
「……ですが、モナが伝えたいことが正確に伝わっていないのも、これまた事実」
「そうなのですか!」
「はい、残念なことに……」
「そ、そんな……」
悲壮な表情を作る俺に同調し、ログさんも俯いてしまう。
そこで俺は、とある話をする。
正確な情報の伝達。
それが出来ていない親子の手助けをすることは、ログさんにとっても悪い話ではない。
「そこでです。……ログさんの出番なんじゃないかと、俺は考えました」
雑な持ち上げ方であるが、既に視界の曇りきったログさんには効果覿面であったようで、
「私の出番⁉︎」
こちらの話を鵜呑みにしてくれた。
ああ、胸が痛い……。
そして、モナからの視線も、少しだけ冷気を帯びているのは、気のせいだろうか。そんな、詐欺師を見るような目でこちらを見るのはやめてほしい。
……今回だけだから!
「どうですか?」
罪悪感を押し除け、俺はログさんに再度問いかける。
「もちろん協力しましょう! ご主人様とお嬢様のためであれば、どのような努力も惜しみません!」
「そうですか。では、向こうで作戦会議です」
使われていなさそうな部屋を指差し、俺はログさんを誘導する。
上手くいった。
あとは、モナとモナの父親が双方ともに冷静さを保ったまま意思疎通が出来れば、万事解決。
再交渉の準備は着々と進み、そして、俺たちはモナの父親と再度話し合いを進めることになる。
面白いことなどなにもない。
揉めることなく、交渉はトントン拍子に進行。
……最終的に、特定の条件付きでモナの冒険者継続が確約された。
31000pt達成。
ありがとうございます!




