【067話】セントール子爵邸
「こちらへどうぞ」
セントール子爵邸内にて、俺とモナは丁寧な言葉遣いのメイドに屋敷を案内されていた。
あの時の老紳士とはまだ再会できていないが、モナがセントール子爵家の御令嬢であったことから、屋敷に入ることは簡単であった。
──本当に顔パスだったな。
特に審問なども受けず、モナだけでなく俺までも簡単に招き入れられた。
俺が怪しいやつだという可能性もあったのにだ。
無用心な気もするが、そこに言及している余裕はない。
「レオ」
モナは俺の手を強く握る。
冷たい手。
しかし、その手は少しだけ湿っている。
──緊張しているのか。
顔には出していないが、モナにも少しだけ固さが見える。
安心させるために俺もモナに握られた手を強く握り返す。
「大丈夫、ずっと近くにいるから」
「ええ、そうよね」
小声での会話。
メイドには聞こえていないくらいの声ではあったが、その会話は俺たちの緊張感を緩和させた。
そうしている間に俺たちを案内していたメイドが扉の前で立ち止まる。
「領主様はこちらにございます。……それでは、私はこれにて」
足早に去ろうとするメイドに俺は、思わず声をかける。
「あ、あのっ!」
「……はい。どうされましたか?」
なんだか、すぐにでもこの場を離れたいみたいな顔をするメイドに疑問を抱く。
どうして、そんな態度なのかと聞きたかったが、俺はそれをぐっと堪えて、当たり障りのない質問をすることにした。
「えっと、領主様はどのような方なんですか?」
メイドは俯く。
「……会えば分かります。それに、そのことに関しては、モナお嬢様の方がよくご存知かと」
「そうですか」
「はい」
──これは、何かあるな。
直感がそう訴えてくる。
「では、私はこれで。……ご武運を」
メイドの残した最後の言葉に不穏な気配が存分に込められていた。
会話するだけなのにご武運を祈られるなんて、絶対に良くないことを予期してのことだろう。
……やっぱり胃が痛い。
「モナ、本当に大丈夫なのか?」
本日何度目か分からない確認。
モナは、毅然とした表情を崩さない。
「大丈夫よ。それに、多分逃げ続けても追ってくるような人だから、この場でビシッと断ち切るべきだわ」
「モナがそう言うなら」
「じゃあ、行くわよ」
モナが扉を開く。
身構える暇はなかった。
扉の向こう側には、モナと同じ黒い髪をしたイカツイ顔をした中年貴族と俺が朝のランニング中に出会った老紳士の姿があった。
……俺とモナの静かな戦いの幕が上がる瞬間である。
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