【066話】君の隣に立ち続ける
セントール子爵邸。
来てしまった。
着いてしまった。
立派なお屋敷。
俺たちのパーティハウスとは比べものにならないくらいの規模を誇るそこは、正しく領主の屋敷として相応しいものである。
──うわぁ、ちょっと自信無くなってきた。
今更ながら、足がすくむ。
これは仕方のないことで、相手の力がどれ位なのかということを目の当たりにしていなかったからだ。
「ここか?」
「そうよ。……私の3年前までの家」
懐かしいような、それでいて少し冷たい雰囲気を漂わせながら、モナは屋敷を見つめていた。
過去のことでも思い出しているのだろう。
「じゃあ……入るか」
「そうね。私なら、多分顔パスで行けるわ」
「お、おう……」
流石はお嬢様。
モナの堂々たる発言に感心しつつ、先を行くモナのすぐ背後にピタリとつける。
「レオ」
モナは俺の方に視線を向ける。
「……一緒に来てくれてありがと。レオが横にいてくれるだけで、私は踏み出す勇気を持てたわ」
そう、真摯な気持ちを伝えてきてくれた。
──当たり前のことだよ。
モナは大切な仲間。
それ以上に俺はモナのことを気に入っている。
いや、好きなのだ。
好きな子が困っている時は手を差し伸べてあげたい。
できる範囲で俺がなんとかしてあげたいと考えてしまう。
──まあ、モナ以外で好きになった子なんていないが。
初めての感情。
けれども、好きになるということは、こういうことなのだろうと実感できた。
恋は盲目。
それでも、盲目でいいと感じられるほどに俺はモナに心を開いている。
「ありがとう」と伝えてくれたモナに俺は、告げる。
「モナのためだったら、それが例え神であっても立ち向かうよ」
──そう言えるくらい、モナは俺にとって大きな存在なんだ。
「神って……ふふっ、なら、レオには神様くらい強くなってもらわないとね」
「努力するよ」
束の間の談笑。
今から、重い問題を処理するとは思えないくらいに俺たちの表情は柔らかくなった。
「はっきりさせるわ。貴族だったモナリーゼと冒険者のモナはもう別の存在だって、ちゃんと説明する!」
力強くモナはそう宣言した。
──これはモナの問題。
俺にできることは、モナに寄り添い、モナが逆風に飲み込まれないように支えてあげること。
モナの決断を尊重して、彼女の望みを叶えるために尽力する。
──惚れた弱み、なのかもしれないな。
傾倒のし過ぎと言われるかもしれないが、それでいい。
「フォローは任せてくれ!」
「ええ……でも、変に口出しはしないでよ。拗れるから」
「えっ……あっ、はい」
……傾倒し過ぎると、空回りするな。
苦笑いを浮かべるしかない。
頼もしい背。
やっぱりモナは強い女性だ。
俺の信じる彼女は優雅に歩く。
決して、弱点を晒さない。
その一歩一歩に強い意思が込められており、俺の中にあるセントール子爵家への恐れという感情は、モナの優艶な後ろ姿によって綺麗さっぱり消え去るのであった。
2本目です。
まだ粘りたい!




