【063話】実はここ、セントール子爵領です……
「じゃあ、会議始めるぞ!」
【エクスポーション】のパーティハウス。
いつもの机を囲み、5人は顔を見合わせ、深刻そうな面持ちをしていた。
進行役はリーダーのヴィラン。
議題はもちろん、モナの貴族社会復帰かも……問題である。
「んじゃあ、当人であるモナ。セントール子爵家がお前を連れ戻そうとしていることについてどう思う?」
ヴィランがモナを指差す。
モナは、手前に置かれた紅茶を優雅にすする。
「そうね。ヴィランが二日酔いになっているのと同じくらいどうでもいいわ」
「おい、俺を比較対象にあげるんじゃあねぇ」
「あら、本当にどうでもいいから例として出しただけよ?」
モナは特段気にしていない。
そう、そこが問題なのだ。
事は急を要する緊急事態。
されども、渦中の本人がその自覚を持っていないことが驚くべきことなのであった。
「モナちゃん、真面目に話してるんだよ……?」
アイリスが説得を試みるが、モナはツンとした表情のまま。
「でも、こんなこと話し合う必要あるの? 私、レオから貰ったお気に入りの槍を使いたいんだけど……」
「嬉しいのは分かるけど……今は、こっちのお話が優先だよ?」
「アイリス、レオからのプレゼントなのよ! 気持ちの込められた贈り物と自分都合で他者を振り回すろくでもない貴族……どっちを重視するかなんて、明白じゃないかしら」
──危機感ないな。
むしろ、俺のプレゼントした槍にご執心とは……。
嬉しいのやら、心配なのやら、俺としては複雑な心境だ。
ほら、モナがそんなこというから、アイリスまで「確かにそうかも」とか、流されちゃってるじゃないか。
話が進まなくなっちゃうから!
「んんっ、今はモナが貴族社会に戻るかどうかの話だろ。これは【エクスポーション】の今後にも関わる事案だ」
咳払いをし、俺は脱線しかけた議題を再度元に戻す。
不服そうなモナ。
いやいや、貴女の人生がかかってるんですよ?
もうちょっとだけ、危機感を持ってほしい……。
「私は貴族になんて戻らない!」
──いや、ありがたいことを言ってくれてはいるんだけど、それだけじゃどうしようもないんだ。
「モナ、セントール子爵家の影響力は大きい。僕としても、これはきちんと話し合わないといけないことだと思うよ」
「ええ……たかが子爵家じゃないの」
アレンの言う通りなのだが、モナは動じない。
そして、モナの言うことにも一理ある。
たかが子爵家。
貴族社会では、そこまで高い地位に属している家門ではないのだろう。
──だが、俺たちにとっては影響力絶大。
理由は簡単だ。
「いやぁ、セントール子爵家が遠方の貴族家だったら、なんとかなったかもしれないんだがなぁ……」
ヴィランが唸る。
そして、アイリスも俯く。
「……モナちゃん、ここ。セントール子爵領だよ?」
──そう。
俺たちの活動している街。
ここはセントール子爵領にある小さな街なのである。
クラッシュ王国。
セントール子爵領。
グラス街。
……そう、モナは領主の娘だったのである。
──それにしても、モナはよく我が物顔でこの場所に居座り続けたな。
すぐに見つかる可能性だってあった。
今だって、モナを探す者がすぐ近くにいるのである。
そんな状況を3年間もかわしつづけたことに、驚きすら覚える。
「バレなかったことが奇跡だな……」
俺の一言に、モナ以外が頷く。
そりゃそうだろう。
Sランクパーティだなんていう大層な肩書きを携えた今でも、自由に活動できていることが信じられないことだ。
……普通なら即刻バレて連れ戻されるのがオチだろうに。
「ふんっ、私の領地で私が暮らして何が悪いのよ」
残念ながら、当人は納得していないようであるが……。
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