【062話】俺はモナが好きだ……
人々が賑わう街中。
俺はモナとお出かけの真っ最中であった。
理由は簡単だ。
俺がモナの機嫌を損ね、それの埋め合わせと称したモナへの謝罪の気持ちを込めたものである。
──けど、こんなんでいいのか?
「ほら、レオ! 素敵な槍が置いてあるわ!」
武器屋のショーケースを指差し、モナは嬉しそうに俺の手を引く。
楽しそうで良かったが、こんなことで機嫌を直してくれるとは、想定していなかった。
そして、子爵家から来た老紳士の話にも、動揺した素振りはなかった。
「ほら、ボーッとしてないで、こっちに来る!」
「お、おう」
「いい? これはレオが私の機嫌を損ねたのがいけないの。分かってるの?」
「ああ、もちろん!」
「機嫌を損ねた女性に対して、男性が取る行動はただ一つ。それは何?」
「えっと……」
ビシッとそう告げるモナ。
けれども、さっぱり分からない俺。
言葉に詰まっていると、モナは、少しだけ目を細める。
「残念、時間切れよ。正解は、その女性のお願いを聞いてあげること!」
──そうなのか!
全然知らなかった。
異性とのそういう暗黙の了解というやつに疎い俺にとっては、モナの言っているその話が初耳である。
「そんな鉄則があるのか」
「そうよ。だからレオは、私に今日一日付き合わないといけないの。私が楽しめるようにね」
「なるほど、分かった!」
貴族としてその辺の知識が豊富なモナに口答えなどしない。
やはり博識であると感心すらする。
そして、丁寧に教えてくれたことに感謝したい。
「じゃあ、ついてきて。新しい槍が見たいわ」
モナは再度俺の手を引く。
「ああ!」
大人しく俺はモナに従う。
俺がモナの願いをきいてやるだけで、モナは機嫌を直してくれる。ならば、俺は精一杯モナに尽くしてやるのみだ。
今は、セントール子爵家についてのことは考えず、モナに楽しんでもらえるように努めよう。
俺とモナは、武器屋の扉を叩くのだった。
▼▼▼
「ふふっ、ありがとう」
「いや、お詫びみたいなもんだよ」
モナの気に入った槍とやらを購入。
彼女にプレゼントした。
中々値が張る代物ではあったが、モナが喜んでくれるのであれば、安いものである。
包装された槍を大切そうに抱えながら、モナは微笑む。
「本当に嬉しいわ。実はね、アレンからプレゼントをもらっていたアイリスのことがちょっぴり羨ましかったの」
そう告げるモナ。
しかし、そういうことなら、俺よりもアレンから贈られた方が良かったのではないだろうか?
「俺からのプレゼントだけど、いいのか?」
「どういうこと?」
「アレンからの方が嬉しいとか……」
モナはプッと吹き出した。
「そんなわけないじゃない! おかしなレオ」
大切そうに槍を撫で、モナは俺に近付く。
そうして耳元で、俺にだけ聞こえるような掠れる声で、
「レオからのプレゼントだから、私は嬉しかったのよ?」
艶っぽくそう告げた。
──ドキッとした。
いやいや、変に意識したら純粋に感謝を伝えてくれているモナに失礼だ。
俺は軽く頬を叩き、邪念を振り払う。
「ふふっ、何してるのよ。変なの」
俺の行動が面白かったのか、モナはまた笑う。
ここまでずっとご機嫌である。
その笑顔が本当に眩しくて、愛おしい。
──いやいや、愛おしいとか、そういうんじゃないだろ!
よこしまな考えが抜けきれない。
モナが横を歩いている。
そのことを深く意識してしまうと、やっぱり鼓動が速くなるのを感じる。
──どうしたんだ?
この感情は、いったい。
「モナ……」
「本当にどうしたのよ?」
「いや、なんか変な気分でさ」
「もしかして、私に惚れちゃった?」
「──っ!」
心底焦る。
頭の中を見透かされたかのように焦点が定まらなくなる。
しかし、モナはフフッと微笑むだけ。
「なーんてね。冗談よ」
──全然冗談ではない。
この気持ちはきっと……。
やっと自覚した。
俺がモナに向けている感情がどういうものかということを。
けれども、口に出すことはない。
モナとは釣り合わないから……。
──今の俺なんかじゃ、まだ足りない。
モナの横に並び立つには、もっともっと強くなって……。
誰からであっても、モナを守り切れるようにならなければならない。
だから、今の俺はまだ相応しくない。
心に灯った情熱的な感情は、次第に大きくなっていく。
色褪せることのないこの瞬間。
俺はこの日、自分がモナのことを好きであるとはっきり認識した。
2本目っ!
30000ptが見えて来ました!
まだまだ頑張ります!




