【061話】大事な話……をしたはずだったんだけど
「モナ、話があるんだ」
ヴィランと酒を飲み交わした翌日のこと。
俺は、いち早くモナに会い、開口一番にそう口にした。
なんだか、動揺しているモナであるが、事情を察しているようには見えない。
「な、なにかしら?」
下を向き、俺の言葉を待つモナ。
心なしか口角が上がっているように思えるが、俺の気のせいだろうか?
「えっと、大事な話だ。聞いてくれるか?」
「だっ、大事な……話、ね。……聞いてあげるわ」
「ん? あ、ああ」
思っていたような反応ではない。
モナはもじもじと体をねじり、気恥ずかしそうに視線を逸らした。
多分、モナの考えていることと俺の言おうとしていることは違う気がする。
俺が今から伝えることは、悪い報告。
ちょっと嬉しそうに顔を綻ばせているところ申し訳ないが、言わせてもらおう。
「モナ……その。今から言うことは、モナにとっては、聞きたくないことかもしれない」
「えっ……」
「それでも俺は、モナにちゃんと伝えなきゃと思って!」
「いや、聞きたくないわ……」
モナは耳を塞ぐ。
やっぱり、ショックなのだろう。
子爵家に戻されるというのは、モナにとっては悪いことでしかない。
──察しがいいんだな。
モナは賢い。
俺が今から言おうとしていることをちゃんと理解しているから、こうして嫌そうに俺の言葉を聞こうとしないのだ。
──やっぱり、この話はしない方が……。
昨日の決心が揺らぎかけた。
しかし、それでは何も変わらない。
俺は、優しいとよく言われる。
──違う。
俺は逃げているだけだ。
相手を傷つけたくないからという独善的な意思を優先して、なるべく悟られずに問題を処理してしまいたい。
無意識でもあり、それは俺の最優先事項であった。
──でも、今回はダメだ!
俺の手に負えない問題。
それを無理矢理抱え込み、万が一モナに想定以上の不利益が降りかかることになれば、俺は一生後悔するだろう。
「モナ聞いてくれ、実は──」
真剣な眼差しを向け、俺はモナに「セントール子爵家の老紳士がお前のことを探している」という事実を話した。
最初のうちモナは瞳を閉じ、うずくまるようにしていたのだが、俺の話を聞き、だんだんとその閉鎖的な状態を緩めた。
「……以上だ。悪い、モナ。やっぱり聞きたくなかったよな」
「……」
一通り話し終え、俺はモナに謝る。
傷つけてしまった。
モナは震えるだけで喋らない。
俯き、表情も見えないからか、俺はモナに近付く。
「大丈夫か?」
「……し……じゃ……ないの」
「え? なんて?」
ボソボソと呟くモナ。
聞き返すと、モナは顔をバッと上げた。
泣いてなどいないし、ショックを受けているような顔ではなかった。
ただ、俺のことを心底恨めしそうに睨みつける。
「ビックリしたじゃないの! 大事な話だって言うから、無駄に構えちゃったじゃない!」
「いや、今のはモナにとってかなり重要な話だと思うが……」
「そんなこと今はどうでもいいの!」
「ええっ……いいの?」
「いいの!」
モナさん憤怒。
何故だか分からないが、彼女の琴線を強く刺激してしまったみたいである。
フーフーと興奮収まらないモナは、顔を真っ赤にしていた。
──ええ、なんでだ?
しかし、これはきっと俺が悪い。
モナが落ち着くまで、俺はひたすらにモナの機嫌を取り続けた。
まだまだジャンル別6位で粘れてます!
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