【057話】渦中の女の子は、あっさり認める
「ふぁぁっ〜、おはよ〜」
──来たっ!
渦中の人物であるモナが眠そうな声をしながら、階段をゆっくりと降りてくる。
こっちはすっかり目が覚めているというのに、何も知らないというのは幸せなことだなと実感する。
「お、おはよう」
「ああ、レオ。おはよ」
俺のぎこちない挨拶も気にせずに目を閉じたままモナは椅子に座る。
ウトウト。
モナは首をこっくりこっくりと前後に動かしながら、意識と無意識のはざまを往復する。
危機感ゼロ。
いや、普段通りと言える。
「……なによ?」
「へっ! いやっ……なんでもない」
「ふーん」
モナの顔を凝視していたことがバレ、モナに懐疑的な視線を向けられる。
誤魔化したが、どうにも怪しむ顔が消えていない。
「私に何か言いたいことでも?」
「いや、それは……」
「あるの?」
「あ……あるか、も?」
圧に負けた……。
情けない。
だが、仕方ないと思う。
だって怖かったのだから。
モナに睨まれる時、ごく稀にではあるが背筋が凍るような瞬間がある。そして、それが今であったのだ。
──なんだかんだ、勘が鋭いからな。
俺の隠し事が、一大事である可能性をモナは察したのだろう。
「で? なに?」
「いやえっと。……モナは、実は仮名だったり……なんて、ね?」
「は?」
ほら、「何言ってんだこいつ」みたいな顔されたよ。
俺も自分で言ってて意味分からない!
なんだよお前の名前って仮名じゃないですかって、3年間特にそんなことを聞かなかったくせに今更そんなことを尋ねだしたら、変に思うだろうが!
モナは依然微妙そうな顔をしている。
しかし、眉をひそめながらも口を開いた。
「仮名? ……って、いうか。まあ、貴族だった頃とは少しだけ変えてるわ。もちろん、貴族時代の名前の一部を抜粋して使ってるだけだけれどね」
思いの外ちゃんと答えてくれたことに俺は、感心した。
しかし、モナの言うことが正しいのであれば──。
「なあ、モナの貴族時代の名前って……」
「ああ、そういえば言ったことなかったわね。モナリーゼっていう名前だったわ」
──あーあ。やっぱりそうか……。
思わず、こめかみを指で抑える。
不穏な展開になってきた。
あの老紳士が探してるの、モナで確定じゃん。
「どうしたの? 頭でも痛くなったの?」
「い、いや……別に」
「具合が悪いなら、大人しく静養してよ? 今日の討伐任務はキャンセルしておきましょう」
「ほ、本当に大丈夫! ちょっと、受け入れたくない事実から目を背けてみたかっただけで……」
──あー、さっきから、言っていることがめちゃくちゃだ。
自己嫌悪に陥りそう……。
モナは仕方がないというような顔で、俺の額に手を当ててくる。
いや、本当に熱とかないから。
「……平熱ね」
「だろ?」
確かに平熱だが、あまり近付かれると恥ずかしさで顔が赤くなってしまう。
俺はそっと、モナが額に当てている手を握る。
そうして、ゆっくりと離した。
「……」
「……」
「ちょっと……手……」
「わ、悪いっ!」
気が付けば、俺はモナの手を強く握ったままにしていた。
完全に無意識である。
──動揺、するなよ。
恥ずかしさと、焦燥感によって俺の中にある感情はぐるぐると複雑に混ざり合う。
どうしようかと、考える余裕すらない。
できるだけ、情報量を抑えようと俺は目を閉じる。
……そうして、アイリスの朝食が出来上がるまで、俺は少しも動かなかった。
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