【056話】大問題を抱えたSランクパーティの朝
パーティハウスの玄関扉を開ける。
リビングに到着すると、アイリスが忙しなく朝ご飯を作っているところであった。
「あっ、レオさんおかえりなさい。どこか出かけてたんですか?」
エプロン姿のアイリスは、きょとんと首を傾げながらそう尋ねてくる。
俺は、未だにハァハァと息切れしているので、答えようにも答えられない。
「大丈夫ですか? お水飲みます?」
「ああ、ありがとう……」
アイリスから渡されたコップに入った水を飲み干す。
冷たくて美味しい。
息も整った俺は、アイリスにこそっと今朝あった話をした。
「実は、朝早く起きたから少し走ろうと思って……」
「そうだったんですか」
「それで、老紳士に声をかけられた」
「老紳士? お知り合いの方ですか?」
「いや、全く面識のない人だ。ただ気になることを聞かれて……」
「それは?」
「どうやら、セントール子爵家からいなくなったお嬢様を探しているみたいなんだ。黒髪で名前がモナリーゼっていう……」
「それって……」
一通り、今日あったことをアイリスに話すと、アイリスも難しい顔をする。
俺と同じようにモナがそのいなくなったお嬢様であるという可能性を導き出したのだろう。
顔色が曇る。
「多分、モナちゃんのことですよね。……どうするんですか?」
──そう、問題はそこなんだ。
セントール子爵家に仕える老紳士がモナのことを探していたとして、もしモナの存在が知られれば、きっと連れ戻そうとするのだろう。
そうでなければ、3年経過した今になってモナを探そうとは思わない。
「……モナに話すか?」
俺の言葉にアイリスは難色を示す。
「それは、どうでしょう。思い出したくない過去がモナちゃんにもあるから……」
「だよな。俺もそれは考えた」
俺は迷っていた。
このことをモナに話すかどうか。
この問題は、かなり重大なもの。
俺の一存では決めきれない。
「……取り敢えず、それとなくモナがその子爵家の令嬢なのかどうかを探ってみよう」
「それがいいかもですね」
「ああ、それから。ちゃんと分かるまで、このことは内密にしてくれ」
「分かりました。誰にも言いません」
「ありがとう」
これまでは、詳細にモナの事情を聞かなかった。
聞かなくても良かったからだ。
けれども、状況が変わった。
できれば人違いであって欲しい。
一抹の希望。
もしそうであれば、こうして悩んでいることも全てが杞憂でしたで済む問題。
──皆んなが起きてくるのを待つか。
俺はゆっくりと椅子に座った。
アイリスもひとまずは、朝食作りに集中するみたいで、調理場へと戻る。
【エクスポーション】にとっての大きな問題かもしれない。
だからこそ、俺は、色々な考えを巡らしながら、静かに待つのであった。
本日3回目の投稿!




