【055話】モナリーゼ・セントール子爵令嬢なんて知らない
清々しい朝。
窓から顔を照らす陽の光を浴びて、俺は目を覚ました。
──眠い。
瞳はまだ、完全には開かない。
意識もまだおぼろげながら、俺は階段を下る。
リビングには、誰もいない。
そりゃそうか。
まだ皆んなが起きてくるには、少しだけ早い時間だ。
けれども、階段を下り、静かなパーティハウスの雰囲気を感じた俺は、すっかり意識を覚醒させてしまっていた。
二度寝してもいいが、どうせまた起きるのが辛いと嘆く結果になる。
「……外の空気でも吸ってくるか」
俺はパーティハウスから外へと出た。
▼▼▼
「あの、少しいいですかな?」
気晴らしにランニングをしていると、すれ違いざまに声をかけられた。
振り返ると、白髪混じりの老紳士。
服装や所作から、マナーの良さが窺えた。
「どうされましたか?」
尋ねると、老紳士はパッと顔色を明るくした。
「ああ、すみませんね。実は人探しをしておりまして……もしよろしければ、情報提供をと思いまして」
「はぁ、人探しですか……」
「はい。実は、私はセントール子爵家に仕える執事なのですが……3年前にそのお嬢様が姿を消してしまいまして……」
──貴族絡みか。面倒だな。
あまり深く関わり合いたくないと直感的に感じた。
しかし、会話を始めてしまった以上、そのまま立ち去るということはできなかった。
「それで、そのお嬢様のお名前は……」
深掘りして聞くつもりはなかった。
軽くあしらって、適当な理由付けをして知らないと告げるだけで良かった。
なのに、俺は気が付けばそれを聞いていた。
「ああ、お嬢様のお名前ですか」
「あっ……はい」
「セントール子爵家の一人娘であるモナリーゼ・セントール。それがお嬢様のお名前でございます。黒髪でとても美しく、可愛らしい容姿をしております」
「モナ、リーゼ……?」
……違う、はずだ。
そうだと信じたい。
けれども、モナという文字が名前に入っている以上、完全に人違いであるとは限らなかった。
「お心当たりがおありですか?」
俺の動揺を感じ取ったのか、老紳士は食い気味に尋ねてくる。
──いや、モナリーゼなんて貴族を俺は知らない。
「いえ、やっぱり分からないですね。ご期待に添えず申し訳ない」
咄嗟に否定する。
俺が知っているのは、わがままで、優しくて、貴族社会を抜けたという過去のある大事な仲間であるモナだ。
老紳士の言う、モナリーゼとは、違う。
「そうですか……」
「はい。えっと……ちょっと用事があるので、もういいですか?」
「あっ、ああ! 引き止めてしまって申し訳なかった。もしよければなんだけど、お嬢様らしき人を見かけたら私に教えてくれないかな?」
──え……うーん。
悩みどころだが、断ったら怪しまれそうだ。
「分かりました。見かけたら、その時は報告します」
「ああ、これは私の連絡先です。ご協力に感謝いたします」
老紳士はそう告げ、次に通りかかった人に声をかけるために足早に姿を消した。
──いや、非常事態じゃないのか?
俺は、焦る。
【エクスポーション】が崩壊するかもしれない一大事の可能性が大である。
まずは事実確認。
老紳士が探しているモナリーゼなるお嬢様がモナと同一人物であるかどうかというのを確かめなければならない。
「人違いであれ……」
そう祈りつつ、俺はすぐさま来た道を引き返す。
軽く流しながら走っていた行きよりも、全速力で飛ばす帰りの方が疾走感溢れる走りができていた。
……いや、別に望んでやったわけじゃない。
疲れた汗より、冷や汗の方が多いのではないかというくらいに、俺の頭は冷たく冷え込んでいた。
5章開幕!
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