【050話】アレンの黒い過去(アレン視点)
【エクスポーション】に加入できたこと。
これは僕にとって、人生の大きな岐路であった。
【疾風の勇者アレン】
そんな風に呼ばれ、もてはやされている今ではあるが、最初から羨望の眼差しを受けてきたわけではなかった。
根も歯もない噂。
僕が極度の女好きであるという噂が流れたのは、以前僕が所属していた【レスト】がそれなりに実績を上げてきた頃であった。
僕へ向けた妬みからきたものかもしれない。
けれども、僕は【レスト】の一員として、精一杯にやっていただけだ。
『アレン、なんかお前に関する変な噂が流れてるぞ』
『えっ、どんなのだい?』
『お前の女遊びが酷いみたいな……』
『おいおい、アレンがそんなことしてるわけねぇじゃん。アレンの活躍を妬んだやつが垂れ流したデマだよ!』
初めのうちは、そうやってパーティメンバーもその噂について信じてはいなかった。
僕は真面目に冒険者をやっていたし、怪しまれるようなことはしていなかったからだ。
『アレンの噂……あれって、間違いよね?』
スカーレットはこの頃から少しだけ不安そうだったが、それでも違うだろうと僕に確認してきた。
『もちろんだよ。僕は、そんなことしたことすらないよ』
『そ、そうよね! やだ、私ったら……』
噂はもちろん否定した。
決してそんな事実はないのだから。
知らぬ間に噂は消え。
僕に関する疑いもなくなることだろう。
──そんな甘い考えを持ちながら、僕は噂の出所を探ったり、積極的に止めようとはしなかった。
きっとそれが良くなかったんだ。
ちゃんと噂は噂でしかないと、公言すべきだった。
根拠のない話。
パーティの仲間にさえ信じてもらえれば、それだけでよかった。
その気持ちと今は頑張り時だからという考えから、悪い噂に振り回されている時間はない。
そんな風に考えた。
けれどもやはり、冒険者ギルドにこの噂は事実無根だから消してくれと頼むべきだった。
単なる僕への嫌がらせ。
それでも、対策をすべき事案だったのだ。
『なぁ、アレン……噂なんだけどさ。お前、本当は、女遊びとかしたんじゃないのか?』
『えっ……何言ってるんだい? そんなことするわけないだろ』
『いやでも、やっぱり怪しいぜ?』
『な、僕よりも噂を信じるってことかい?』
『いや、そうじゃないけど……』
パーティ内は疑心暗鬼になっていた。
──当然、そのことについては何度も否定したし、潔白であることも主張し続けた。
けれども、僕に対する噂が大きくなるにつれ、周囲からの風当たりも強くなる。
パーティメンバーも僕への懐疑的な視線が増えていくと、それに乗じて僕のことを疑い始める機会が多くなった。
『アレン、悪い……今日の討伐はお前抜きでやる』
『そんな……』
『もう辛いんだ。しばらくの間、アレンとは狩りに行けない』
──苦しかった。
信じてくれそうな人が近くにいない。
人から視線を向けられると、何かやましいことがあるのではないかという目で見られている気がして。
小声で聞こえない話をしているのを見ると、俺のことを影で嘲笑っているような気がして。
すれ違い様に、「女性」とか「噂」という単語が耳に入るたびに、周囲の音を遮断したくなった。
──今考えれば、それは思い込みであり、過剰に反応していただけなのかもしれない。
けれども、当時の僕にとっては、そんな日々が本当に苦痛でしかなくて、冒険者を続けようか迷ったくらいであった。
……だから、噂を消したいと言う気持ちと、スカーレットに誤解されたままになったら嫌だという気持ちから、彼女に俺の真剣な想いを伝えようと考えた。
短絡的だ。
この時期にする話ではない。
噂がある間は、僕への疑心は拭えないというのに……。
しかし、当時はそんな単純なことに気が付かなかった。
……まだまだ僕も若かったということだ。
『スカーレット、僕は君のことがずっとずっと好きだった』
『ごめんなさい。……今のアレンを私は信じられない』
『えっ……』
『そうやって、手当たり次第に女の子をたぶらかしているの? ……本当に最低』
『ちっ、違っ……』
『顔も見たくない……』
『スカーレット……待ってくれ、僕はっ!』
それは、追い詰められていた僕にとってトドメの一撃のように鋭く精神を貫くものだった。
──人生において最初で最後の失恋。
……ずっと幼馴染として過ごしてきたスカーレットに、こんな風に冷たく拒絶されたことが、ショックだった。
なにより、噂なんかに踊らされて、人生が狂ってしまったように思えて、悔しい気持ちが溢れるように湧き出した。
『……こんなはずじゃ』
どん底とはこのことか、と。
唇を噛み締め、それでもって何もかもどうでも良くなって……。
そうして僕は【レスト】の仲間たちが揃っている時に──。
『……ごめん。僕は、パーティを抜けさせてもらうよ』
パーティを抜けることを告げた。
半ば同意の上みたいなものであった。
仲間たちも特に引き止める様子もない。
『……ああ、それがいい。俺たちもお前とはもう、やっていけそうにない』
『悪いな。俺たちにも生活があるからさ……』
『アレン……』
スカーレットからの視線に耐えきれず、僕はこの場所にいることすら辛い気持ちになった。
『今まで迷惑かけて、ごめん』
一言謝り、僕は外へと飛び出した。
涙は出なかった。
もう枯れてしまったのかもしれない。
『どうして……』
──【レスト】を抜けた。
僕は積み上げてきた全てを投げ出したのだ。
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