【049話】もう終わりにしよう……
凍りつく空気。
アレンとスカーレットの間には、確かな溝があり、それ以上近づくことをアレンが許していないような雰囲気であった。
「スカーレット、もう終わりにしよう」
「──っ」
「僕たちの関係は修復できても、完全には戻らない。……状況が違うんだ」
「……嫌、私は、アレンともう離れ離れになりたくは──!」
「僕がもう無理なんだ!」
明確な言葉をアレンは告げた。
今の環境。
それから、過去の居場所は、全くの別物だ。
今更戻ってこいなんて言われたところで、アレンは応じないつもりなのだろう。
アレンは、スカーレットではなく、アイリスに視線を向ける。
「……もう、僕には、大事な仲間がいるんだ。前のパーティに戻ることなんて、できない」
「そんな……」
「今のパーティは、僕が苦しい時に入れてくれたところなんだ。だから、少なからず恩もあるし、気に入っている」
スカーレットは絶望したような顔になる。
可哀想ではあるが、アレンが【エクスポーション】を抜けてもらっては、こっちだって困る。
アレンの言葉は、俺たちにとっては本当に嬉しいものであった。
「アイリス」
「……はい」
「今日はありがとう。君が横にいてくれたから、僕は勇気を出せた」
「そんなこと……アレンさんが頑張ったからですよ」
「それでも、お礼を伝えたい。本当にありがとう」
アレンの言葉にアイリスは感激をしたように手で顔を覆う。
──その様子をこっそりと窺っている俺とモナは、本当に趣味が悪い……。
「よく言ったわ。アレンもやる時はやるのよ」
「いや、盛り上がる場面か?」
「もう、ここで盛り上がらず、いつ盛り上がるって言うのよ。あっ、ほらほら、いい雰囲気よ!」
興奮気味のモナ。
先程までの修羅場展開にヒヤヒヤしていたことはすっかり忘れているかのようだ。
嬉しそうに見守っている。
──まあ、仲間同士が仲良くしているのを見るのは、悪い気しないからな。
そんな2人だけの空間を作り出していたアレンとアイリス。
けれども、納得できない方もいらっしゃるようで──。
「認めない!」
スカーレットは、首を横に振り、涙目でアレンに縋る。
「アレン……私を見捨てるの?」
スカーレットの震えた声。
しかしながら、アレンは反応しない。
アレンはスカーレットの方を見ることすらしない。
……背を向け、そして呟く。
「やり直すことはできない。もう、終わったことだから」
アレンは、アイリスの手を引く。
今の仲間。
過去にはもう縛られないという意思表示のように。
「行こう」
「……はい」
そのまま2人は、呆然とした表情を浮かべるスカーレットを置いて、その場を後にした。
騒ぎを聞きつけ、周囲に集まってきていた野次馬も、事態の終息を察した者から離れていく。
……最後には、地面にへたり込んだスカーレットだけが残った。
「流石に可哀想に思うよ」
そう呟くがモナは「はぁ」とため息を吐く。
「自業自得でしょ。当然の報いってやつよ」
「そうなんだろうけどな……」
「……レオは、甘いわ。パーティを追放した元パーティメンバーの謝罪に応じるくらいだものね」
「……そうかな?」
「そうよ。私だったら、鼻で笑ってやるだけだもの」
──甘い、か。
確かにそうなのかもしれない。
哀愁漂うその光景に同情してしまうくらいには、情けをかけてしまっている。
弱い姿を見せられたら、ついつい手を差し伸べたくなってしまう。
悪いくせなのかもしれない。
「もう行きましょう」
「ああ……」
けれども、モナの言う通り自業自得であるのも事実だ。
もし彼女が過去にアレンを受け入れていれば、結果は違っていた。
──その場合、アレンは【エクスポーション】に来ることもなかったんだろうな。
既に日が暮れ始めていた。
それはまるで、アレンとスカーレットの明確な遺恨が終わりを告げたことを知らせるかのように真っ赤に街を染めていた。
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