【046話】聖女はメンヘラ幼馴染に対して、一歩も引かないし、負けたりしない
さて、走り続けて数分後。
やっとアレンとアイリスに追いつくことができた。
露店で買い物をしているようだ。
……そして、楽しそう。
「よし、尾行を続けるわよ!」
2人の動向チェックに燃えるモナ。
──そんなにやる気出さんくても、大丈夫ですよ?
遠くから見守ってるだけだから。
張り切るモナとは対照的に、走っていたことによって疲れたということを考えている俺。
ああ、こんな探偵みたいなことやって……。
俺って、冒険者だったよな?
「レオ、今度は見失わないようにしっかり見ておかないとね」
「ん、ああ。そうだな」
──楽しそうで、なによりです。
しばらくアレンとアイリスの和やかな光景を見守っていると、2人に接近する人影を捉えた。
偶然とか、2人のいる方向に目的地があるとか、そういう感じではない。
……その人影は、アレンとアイリスの方をしっかりと見据えていたから──。
「モナ、出て行く準備だけしとけ。もしかしたら、アレンとアイリスに接触してくるやつかもしれない」
その人物に指を刺し、俺はモナにそれを教える。
「あれが……魔法の準備は?」
「しなくていい。こんな街中で撃ち込んだら、【エクスポーション】の責任問題に発展しかねない」
「そうよね。変なことを言ったわ……」
緊迫した状況。
モナが焦って、物騒なことを口にする気持ちもよく分かる。
アレンとアイリスに近付いている人物。
あれは、アレンの幼馴染であるスカーレットだ。
──何事もなければと、思っていたが……どうやら、一悶着ありそうだな。
ただ、アレンとアイリスに大きな害が降り掛かりませんように。
物陰から見守っている今は、そう祈るばかりである。
▼▼▼
「アレン!」
スカーレットは、アレンに駆け寄る。
まるで、感動の再会を果たした両想いの2人であるかのように──。
……もちろん、そんな事実はないが。
「アレン、探したのよ。昨日は急にいなくなっちゃうんだもの」
スカーレットの一方的な気持ち。
それは、アレンにとってはあまり良いものではない。
全ては過去のこと。
アレンは、既にスカーレットへの想いは皆無と言っていいほどにない。
以前はスカーレットに向けた気持ちがあった。
告白するほどに好きであった。
振られて、廃人寸前になるくらいに、スカーレットへの想いは強かった。
……だから今、アレンはスカーレットと顔を合わせたくないのだ。
忘れたい。
そう感じているのは、アレンが恒久的に未来へ進めないと感じたからであった。
そして、アレンは、過去を乗り越えた。
先へ進んだ。
冒険者として、
Sランクパーティ所属という大きな肩書きを手にした。
【エクスポーション】としての活動がアレンを変えたのだ。
──すくむなよ。
アレンとスカーレットの接触を少し離れた場所から見守っていた俺は、そんなことを考えていた。
幸い、アレンの近くにはアイリスがいる。
メンタルケア完璧。
もはや怖いものは何もない。と、アレンが冷静さを保ち続けてくれれば、よいと感じている。
けどまあ、それは難しいか──。
気持ちの切り替えができない時だってある。
アレンにとっては、それが今なのだ。
「やあ、スカーレット……」
困り顔で挨拶するアレン。
昨日よりも顔色は悪くないが、それでも「苦手です」というオーラが全面に放出されていた。
そんなアレンの様子は特に気にせず、スカーレットは、強引にアレンの腕に掴まる。
「じゃあ、行こっか!」
「えっ……?」
「そんなに驚かないでよ。帰るの」
──おいおい、それは流石に……。
有無を言わせずにスカーレットは、アレンを連れていこうとする。
そろそろ、出て行って止めてやるかと思ったが、俺の行動を制するようにモナが手を前に出して、それを妨げる。
「大丈夫。アイリスがついてるもの」
「いや、でも……」
「私たちの仲間を信じて──」
モナは本気だ。
けれども、やはり心配だ。
アイリスとスカーレットでは、相性が悪いように思える。
内気なアイリス。
積極的なスカーレット。
アレンを大切に考えているアイリスであっても、あの強烈なスカーレット相手には……ん?
「あの、その手を離してもらってもいいですか?」
冷たい声音。
モナではない。
それは、アイリスから出された声であった。
普段は、【純白の聖女】だなんて周囲から呼ばれ、大人しく、お淑やかな彼女。
──しかし、そんな純粋無垢でか弱い聖女の姿はそこにはなかった。
「な、なによ!」
「ですから、アレンさんから離れてくださいと言っているんです。耳が聞こえないんですか?」
──あれ? アイリスってあんな感じだったっけ?
なんか、怖い!
「アレンさんは、私と予定があるんです。邪魔をしないでください」
強気に出るアイリス。
すぐにスカーレットからアレンを引き戻す。
そんなアイリスの行動が気に食わないのか、スカーレットの顔は真っ赤に染まる。
「なんなのよ……アレンは、アレンは私のことが好きなのよ!」
しかし、スカーレットの叫びに一切動じることなく、アイリスは淡々とした口調で告げる。
「それは、何年前のお話ですか?」
アイリスにこんな冷酷な一面があったなんて……。
スカーレットの言葉を一刀両断。
膝から崩れるスカーレットを見下すように睨むアイリスは、真っ黒いオーラを宿しているように見えた。
本日3本目の投稿となりました。
20000pt達成記念に今日は、もう1本投稿いたしますので、よろしければ、見ていってください!




