【032話】大きな肩書きを背に
「悪かったね!」
アレンが謝る。
理由は勿論、本屋で長考していたことに対するものであった。
しかし、それに対して俺は迷惑であるとかはあまり感じない。
むしろ、それは仕方がないと感じている。
確かに囲まれたのは困った。
けれども、謝るべき点はそうではないと俺は感じているんだ。
──……えっと。なんで、屋根伝いに逃亡しなきゃならんのだ?
街中にある建造物の屋根の上。
俺たちはその上を駆け抜けていた。
いや、本当に。
……逃げる以前に、こんな高いところを走っていたら、普通に目立つ。
道筋を無視して、最短距離で逃げれるという点は、合理的である。しかし、やっぱりここまでする必要はあるのだろうかと疑問を抱かざるを得ない。
足を動かしながら、俺は汗を拭い、アレンに声をかける。
「別に気にしてないし」
「そうか、ありがとう!」
アレンの爽やかな笑顔が俺に向けられる。
その笑顔を集まってきていたミーハーな女性に向けていれば、もう少し穏便に抜け出せたと思うのだが……。
そんなことを考えながら、屋根の上を駆ける。
もちろん、考えたことは口に出さないし、文句なども言わない。
……アレンの満足そうな顔を見てしまったから。
「この魔法書はアイリスにピッタリなはずだよ!」
「そうだな。きっと喜んでくれるよ」
誰かに渡す贈り物をこんなに大事に抱えているアレンを本当にいいやつだと思う。
優しさを誰かに向けられる。
それだけでも、尊敬すべきことであると俺は考えている。
だから、過去にこいつが受けた誤解。
それを信じてやれなかった幼馴染とやらを俺は理解できなかった。
……でもそれは、俺自身の価値観。
問答無用でパーティを追い出された悔しさを知っているからこそ、こんな風に考えるのかもしれない。
傷の舐め合いと言われるようなこと。
3年間の月日によって、俺はすっかりアレンに友情にも似たものを持って接している。
「おい、そろそろ降りるぞ。屋根の上は目立つ」
そういい、俺は一足先に人目の少ない裏路地に降りる。
無駄な考えを断ち切るためでもあった。
アレンはパチッとウインクし、俺の後方に続く。
そして、アレンも、俺の近くに着地。
細い道であるので、薄暗く誰もいない。
──取り敢えず、成功したな。
アレン目当ての野次馬は、ついてこられない。
当たり前だ。
屋根の上使ったんだから……。
荒れた息を整えつつ、アレンは俺に微笑む。
「いやぁ、大変だったね」
「まあな。……やっぱ、アレンの大人気さは、衰え知らずって感じだった」
「そんなことないさ。僕たちのSランク冒険者という肩書きを見ているだけ」
寂しそうに言うアレン。
確かに、肩書きもあるだろう。
将来有望。
そして、顔も性格もいいアレンであれば、女性人気が高いというのも納得できる。
──肩書きがなければ、信用されない。
アレン人気は今に始まったことではない。
けれども、こうして浮ついた話もなく、アレンに対して、否定的な意見が少ないのは、【エクスポーション】に所属しているというブランドがあるからであろう。
──無名な冒険者だった頃のあいつは、それはそれは苦労したらしいからな……。
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