【026話】モナに贈る言葉
邪竜の出現によるスタンピード。
大被害が出ると思われたが、Sランクパーティである【神々の楽園】【シリウス旅団】の助力により、2週間程度で完全に鎮められた。
多くの冒険者たちは、血眼になり、魔物を倒し続けた。
各々が今の暮らしを守るために尽力したのである。
「心配かけて、ごめん!」
そして、俺はというと。
我がパーティハウスにて、【エクスポーション】の4人に頭を下げていた。
元パーティメンバーとの確執を話していたから、全員が俺の事情を知っている。
その上で、ランドとの乱闘騒ぎ。
……それが終わった翌日には、高熱で寝込んでいた。
──みんなを心配させる要素しかないじゃないか!
ということで、こうして謝罪をしているところだ。
「ガハハッ! 気にすんなって! お前が落ち込むのなんて日常茶飯事じゃねぇか!」
ヴィランは、明るく笑い飛ばしてくれた。
おっさんなりの元気付けみたいなものだ。
そして、他の3人は、俺が謝っているのに驚いている顔をしていた。
口火を切るように発言をしたのは、アレンであった。
「レオは、怒ってないのか?」
──怒ってはいない。
皆んなの心情は理解したつもりだ。
俺が落ち込んでいたから、スタンピードについて言い出せずにいたのだろう。
「負担にならないように考えてくれたんだろ? それに対して感謝こそすれど、怒るなんてしないさ」
「そう、か……」
アレンは気が抜けたように強張った表情筋を元に戻した。
「アイリス」
「はっ、はいぃっ!」
「ありがとう」
「へ?」
アイリスに向き、感謝を告げる。
アレンとのやりとりで俺が怒っていないと言ったのに、ちょっとビクッとしていたアイリス。
──いや、そんな人によって態度とか変えないから。
俺はそっと、アイリスの頭を撫でる。
アイリスは、俺より3つ歳下の16歳。
気分は、妹を愛でる兄そのものである。
「ええ……レオさん?」
「いや、ありがとうの意を込めて……嫌だったか?」
「そんなことはない、よ。……嬉しい」
アイリスは気持ちよさそうに身を預けてくる。
普段は頼もしい仲間だが、こういうふとした瞬間に可愛いなと感じる。
そんな癒しを体感していると、どこからともなく冷気が漂ってくる感覚があった。
「はぁ……」
ため息の主はモナ。
まるで、「幼い女の子が好きなのか、この変態」とでも言い出しそうなくらいに鋭い目付きをこちらに向けてくる。
──いや、そういうんじゃないから。
とはいえ、モナの機嫌が悪過ぎる。
目つきが鋭いし、おまけにアイリスの頭を撫でるたびに眉がピクピクと動く。
「ど、どうした?」
そう尋ねてみるものの、モナはそっぽを向く。
「別に……ずいぶんと楽しそうだなと思っただけよ」
「ええ……?」
──なにそれ、なんでそんなに怒ってるの?
理由が見当たらない。
「おい、レオ……」
アレンが肘で脇腹をつついてくる。
「なんだよ?」
「モナに何か言うことあるんじゃないか?」
アレンはパチッとウインクをしてくる。
なんだこいつ?
俺にどんな言葉を求めているんだろうか?
モナの方に顔を向けると、膨れっ面のままにこちらを睨みつけてくる。
──ここまで、態度で示されたら、流石に分からないなんてとぼけることはできないな。
今回の言い出しっぺはモナだ。
俺のことを第一に考えてくれた。
……何故、こんなにもモナに気遣われるのか、どうしてなのか少し気になるが、それでもやはりこの言葉は伝えなければ、
「モナ」
「……なによ」
モナの頬は薄紅色に染まっていた。
ヴィランとアレンは、少し離れた場所で、なにやら盛り上がっているし、
アイリスは何故か両手で顔を覆っている。
──何この雰囲気。
──感謝の言葉を伝えるだけなのに、どうしてこんなに浮ついた空気が流れているのだろうか?
「……モナに伝えたいことがある」
ただ、「ありがとう」と伝えるのは決定事項。
俺は深く息を吸い、モナに告げるのだ。
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