【025話】独りで抱え込む必要はない
帰路を急ぐ。
大規模なスタンピードが迫っているからか、焦る気持ちが大きい。
思えば、不審な点はいくつかあった。
冒険者ギルドの付近には、普段であれば多くの冒険者がいるはずなのに、その数は少なかった。
スタンピードの鎮圧を行なっているからだ。
急ぐ俺とは違い、ヴィランは呑気に歩いていた。
「ヴィラン! 早く戻らないと」
そう大声で呼びかけるが、ヴィランはヘラヘラしたまま酒を飲む。
──いや、スタンピードなんだから、飲酒はいい加減ストップしとけよ。
「レオよ。急いでも意味なんてないぞ〜」
「でも、次の依頼を……」
「その必要はねぇなぁ……」
「は?」
気の抜けた声が出る。
ヴィランは、酒を煽りながら、意味深なことを言う。
「なあ、レオ。【エクスポーション】はSランクパーティだが、こんな大規模なスタンピードを国が俺らだけに任せると思うか?」
「どういうことだ?」
「他にもいるだろ。Sランクのやつらがさ」
──まさか、動いているっていうのか⁉︎
俺らの他にも、Sランクパーティは2つある。
【神々の楽園】と【シリウス旅団】
この2つのパーティは、俺らよりも大規模な大人数パーティだ。
物量と実力。
双方を兼ね備えていることから、両パーティとも、双頭の最強冒険者たちと呼ばれていた。
俺たち【エクスポーション】がSランクに昇格し、注目は俺たちの方に向いたものの、それでもやはり誰もが知るパーティといえば、この2つのSランクパーティ。
しかし、彼らはその規模の大きさから、遠方に潜む強力な魔物の討伐に駆り出されていることがほとんどだ。国内にいること自体稀である。
だからこそ、少人数でSランクパーティに登り詰めた俺たちが付近のスタンピードを処理しているのだが……。
──最強の2パーティが動いているのであれば、俺たちが無理をする必要は薄くなる。
「本当なのか?」
「ああ、今回のは流石に俺らの手に負えないくらいだ。猫の手……いや、Sランクパーティの手を借りたいくらいにな」
おちゃらけてやがる。
けれども、ヴィランの反応からして、事実であるようだ。
「他の3人は?」
「俺らとは別の場所でスタンピード鎮圧のために動いてるはずだ! 心配するな。あいつらがやられるようなことはない」
謎の自信。
と言いたいところだが、俺もヴィランの意見に同意だ。
アレン、モナ、アイリス。
あの3人が揃っていて、悲惨な結末を迎えることなど考えられない。
……背中を預けられる仲間。
彼らのことを信じているから。
「レオよ。スタンピードを鎮めるのは、俺らだけじゃない」
「そうだな」
「……1人で抱え込んで、無理だけはするな。誰かを頼れ」
「──っ!」
──ああ、なるほど。
モナがどうして、俺にこのスタンピードの事情を話さないように仕向けてきたのか、理解できた気がする。
モナは、俺が【聖剣の集い】の元パーティメンバーと会い、気分が悪くなっていたのを悟っていたんだ。
思えばモナは常に俺の体調を気にかけてくれていた。
考えれば分かることだ。
……モナは俺に余計な負担が限りなく少なくなるように取り計らってくれていた。
そして、他の皆んなも同様に──。
感謝しよう。
今の優しきパーティメンバーたちに。
「……ありがとう」
誰にも聞こえない。
けれども、はっきりと口に出した。
俺の張り詰めた空気が溶けたことにより、ヴィランもいくらか和やかな雰囲気になった。
「レオ、もう大丈夫か⁉︎」
「ああ、問題ない。確かに、誰かに頼るのも悪くない」
「だろ? 時々の息抜きは必要なんだよなぁ!」
ヴィランの賑やかな笑い声に俺も釣られて笑う。
張り詰めていた緊張の糸は、いい意味で緩むのであった。
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