【172話】保護者枠も最強です
形勢は完全にこちら側、周囲からの視線も俺たちを擁護するようなものばかりであり、【アウトローズ】とやらに所属している男たちは完全アウェイの状況であった。
無理もない。
受付嬢の子を脅したのだ。そのツケが回ってきたとしても、なんら不思議なことじゃない。
「ただで済むと思うなよ」
「負け犬は、決まって同じようなことを言うのね。ダサッ」
「冒険者ギルドは貴方たちだけのものじゃないんです。反省してください」
モナとアイリスが言い返せば、
「ふっ、男に守られてる分際で偉そうに……どうせお前らは、男を侍らせてなきゃ、何も出来ない。役立たずがさぁ!」
そんな的外れなことを言い返していた。
いやいや、そんな負け惜しみ言われても全く響かないから。
というか、俺とアレンだから反撃しないけど、モナとアイリスに向かって拳が擦りでもしたら間違いなく、再起不能な状態にさせられてる。
特に俺の彼女は、容赦ないから一生物のトラウマ植え付けられるぞ。
……と、そんなことは口に出さない。
「負け惜しみっすか? 口でしか反論出来ないなんて、弱いっすね〜」
アウグストに再度煽られ、暴れようとするが俺とアレンが拳だけでなく、体ごと床に伏せさせて押さえ付けた。
暴漢の相手はあまり経験がないが、スムーズに取り押さえることができて良かった。
「お前ら、良くやった! 俺は誇らしいぜ!」
ヴィランは後方腕組みおじさん化。
いや、そんな悠長に笑っているのはヴィランだけだ。
ヴィランの横にいるギフリエさんは終始引いたような表情でヴィランの方に向いていた。
さて、一見落着……と思ったその時であった。
冒険者ギルドの扉が開かれ、またもやガラの悪そうな男が新たに五名ほど入ってきた。
その所作の悪さが全てを物語っていた。
間違いなく、こいつらの仲間の類だろうと。
「おい、どうしたんだ⁉︎」
すぐにこちらの様子に気付いたようだ。
「おい、お前ら……この身の程知らずどもを痛めつけろ!」
床に押さえらながらも、男は怒鳴る。
その声を聞き、後方から五人の男たちが武器を構えてこちらに走ってくる。
厄介なことこの上ない。
街中での殺し合いは御法度。
冒険者ギルド内で武器を抜くなんていい度胸だよ。
男を押さえている俺とアレンは流石に動くわけにはいかない。
【釘付け】のスキルで動きを封じてもいいが、ギルド内でスキルは使いたくない。
迫り来る五人に対して、ヴィランとギフリエさんが対峙する。
「おい、オッサンよぉ。道を開けろよ」
「ぶっ殺すぞ、こらぁ!」
脅し文句もなんのその。
ヴィランはクスクスと笑いながら、微動だにしない。
ギフリエさんも同様にただそこに立ち尽くすだけであった。
「たく、正義ぶるのもいい加減にしとけよ!」
詰め寄る男たちを見て、ため息混じりにヴィランは呟く。
「はぁ、困るなぁ……荒立てたくはねぇんだが」
「うらぁっ!」
ヴィランの腹部に強烈な拳がぶつかる。
しかし、当の本人は苦しがる素振りすら見せず、ただ真顔のまま。
「終わりか?」
「なんだよ、このオッサン……」
【異眼の酒飲みヴィラン】
普段はだらしない性格かも知れないが、曲がりなりにもSランク冒険者。並大抵の攻撃で倒れるような男じゃない。二つ名持ちともなれば、尚更実力は高い。
まあ、この有り得ないというような顔を見るに、俺たちのことを知らないんだろうけど。
反撃と言わんばかりにヴィランは殴ってきた男の足を払う。
「いでっ……」
「ハハッ、この程度で済んだんだ。安いもんだろ?」
転ばされた男は頭を強打し、悶え苦しむ。
他の四人も、仲間がやられて黙ってはいなかった。
けれども、ヴィランのところに辿り着く前に足取りが重くなり、その場に膝をついた。
「う……っ、はぁはぁ」
「なんっ……ぐるじぃ……」
「っ……」
「………なにを、した?」
ギフリエさんが手を翳し、何かをしている。
魔法だろうか。けれども、俺の目には何も映らないし、はたから見ても、男たちが勝手に胸を押さえて苦しんでいるようにしか見えなかった。
「やり過ぎだぞ……」
「……加減、間違えた……かも」
ヴィランとギフリエさんが何か話していたが、声が小さ過ぎて俺には聞こえなかった。
ともあれ、第二波荒くれ冒険者たちの制圧も完了したようだ。
暫くして、冒険者ギルドが連絡したのか、街の衛兵が駆けつけて、その男たちを連れて行った。
公衆の面前で問題を起こせば、こうなることくらい分かっていただろうに、何故あんな態度を取り続けられるのか本当に理解に苦しむな。
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