【171話】実力差の誇示
絡まれた受付嬢の子は普段から、顔を合わせる人だ。
お世話になっている人に無礼を働く冒険者がいるのに知らんぷりなんて出来やしない。
「レオさん、あの子……私の友人なんです。だから……行ってきます」
「ああ、あんなの許してたら、【エクスポーション】の名が廃る。俺たちも付いてくよ」
「……ありがとうございます」
アイリスはそれだけ言って、真っ直ぐと受け付けの方へと向かう。彼女に続くように俺たち全員が騒ぎ立てる冒険者の方へと足を進めた。
「おい、ふざけんなよ! ……なぁ、そんな生意気が通用すると思ってんのか、ああ? 慰謝料として、この素材を相場の五倍で買い取れよ!」
「そんなこと出来ません!」
「なら、姉ちゃんの体で払ってもらおうかなぁ?」
「──っ!」
本当に育ちの悪そうな態度だなぁ。
冒険者じゃなくて、詐欺師とか盗賊なんじゃないかと思ってしまうほど、彼らの偉そうな振る舞いは悪目立ちしていた。
治安悪い地域出身かよ。
「あの!」
「んぁ?」
アイリスは迷いもせずに彼らに声をかけた。
金色の瞳の中には彼らに対する憤りが宿り、自分よりも身長の高い男に関わらず、鋭い視線を向けていた。
「なになに? お嬢ちゃん。俺たちに何か御用?」
当の男たちは見下すような視線でアイリスを見下ろす。
ヘラヘラしていて、アウグストがふざけて笑っているのとは違い、非常に気分が悪くなる。なんというか、本当に下衆な笑い顔なのだ。
「好き勝手に振る舞うのはやめて頂けませんか? ここにいる皆んなが迷惑しています。最低限のマナーすら守れないのであれば、ここからすぐに立ち去ってください」
「は?」
「急に説教とか……ふっ、お嬢ちゃん、誰にもの言ってんのか分かってんの?」
「俺たちはAランクパーティなの。自分の立場を自覚しないと痛い目見るぞ?」
アイリスを囲むようにユラユラ揺れながら、態度の悪い男たちが彼女を取り囲むように動き出すが、すかさずモナがアイリスの横に立ち、アイリス以上にキツい目付きで彼らを睨みつける。
そして、アレンもアイリスの前に出る。
「うちの大事な仲間を取り囲むのはやめて頂きたいね」
アレンは表面上にこやかにそう告げる。
しかし、俺だから分かる──いざとなれば、すぐに武力行使に移行できるような構えをアレンが取っていることを。
「んだよ、ガキが口出ししてんじゃねぇよ」
「ガキ? あんたたちの方がよっぽど幼稚だと思うけど? いい大人が馬鹿みたいに威張っちゃって、本当に気持ち悪いわ」
モナの煽るような発言に男たちがキレた。
血管が浮き出て、緊迫感が急激に上昇する。
「黙って聞いてりゃ好き勝手言いやがって……!」
「好き勝手してるのは、貴方たちのほうです!」
「うるせぇ!」
ああ、本当にこの手の輩は何一つ考えていないな。
無神経で感情的。
すぐに手が出てくるのは、感情を抑えられない野生動物そのものの行動。
モナとアイリスに拳が迫る。
不作法なパンチ。型なんてものはなく、ただ力任せに振りかざされるそれを確認して、アレンと視線を交わす。
俺の大事な仲間には傷一つ付けさせやしない。
「──っ!」
盾なんか使わない。
アレンも剣を抜くことなく、さっと動き出し最低限の動きで対応に乗り出す。
「んなっ、こいつ!」
「女性に手をあげるなんて、恥を知れよ!」
俺とアレンが互いに二人の男の拳を片手で受け止める。
こういう輩は弱者にはとことん強気に出ようとする。まあ、モナもアイリスも弱者なんかじゃないが……とにかく、腐った性根が本当に許せない。
男二人を押さえ、残りは一人。
しかし、残った一人が襲いかかってくる心配はなかった。
瞬時に動く影。その瞳に移るのは、冷徹な赤い光であった。
「ぐえ……っ!」
「ああ、ごっめ〜ん。ついうっかり、膝蹴り当たっちゃったわ〜。ドンマイ! 顎の骨折れてないといいっすね」
最後の男は、アウグストに顎を思いっきり蹴り上げられ、白目を剥いていた。本気の蹴りではないにしろ、衝撃音がちゃんと聞こえたことから、多分気絶するくらいには威力があったはずだ。
アウグスト、やり過ぎだ……。
バットマナーで場を乱した者たちに制裁を下す。そんな大義名分を得たアウグストはここぞとばかりに蹴りを入れていたのだ。ちょっと生き生きした顔をしていたのは、目を瞑っておこうか。
後方で倒れる男。
拳を押さえられた男二人は顔を青くする。
「ふ、ふざけんなよ……」
「ふざけてるのは、どっちかな? 先に手を出してきたのはそちら側だったと思うんですけど」
冷静なアレンの対応に男たちは苛立ちを更に募らせる。
顔がどんどんと怖くなっていくが、俺たちは彼らの拳を未だ離さない。
「くそっ、なんで動かない!」
「お前らの力がその程度なんだろ。威張るのも大概にしとけよ」
「黙れ! 部外者が俺らの事情に口を挟むな!」
一応ここの冒険者ギルドを利用しているから、決して部外者ではないんだけどな。
はぁ、話の通じないやつの相手をするのは、心底疲れる。
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