【170話】ギルドでの揉め事
クラッシュ王国と隣り合うように存在するアレクシード帝国。
二つの国は過去に争い、長きに渡って対立してきた過去を持つが、そんな過去を経験した人などはもういないくらい昔のことである。
現在の両国は、非常に良い友好関係を築けている。
そんなアレクシード帝国からクラッシュ王国宛にこんな嘆願書が届いた。
『クラッシュ王国とアレクシード帝国の国境沿いにあるバラン峡谷にて、魔女の出現を複数確認。討伐のため協力を求む』
両国の停滞していた歴史が動き出そうとしていた。
▼▼▼
クラッシュ王国セントール子爵領。
俺たち【エクスポーション】の活動しているグラス街は平和そのものであった。
というのも、最近はスタンピードが極めて少なくなり、魔物の出現も例年より少なくなっていたからである。冒険者の仕事が減ったことは、痛手であるかもしれないが、自分たちの住む街に迫る危険が減ったことは素直に喜ぶべきことだろう。
「ワイバーンの討伐依頼達成です。報酬はこちらになります。いつもありがとうございます!」
「いや、これが俺たちの仕事ってもんだ! また、危険な依頼があれば、頼ってくれればいつでも駆けつけるぞ! ガハハッ!」
「はい!」
今日も俺たちは、他の冒険者が中々手を出しにくい高難易度の依頼をこなして、ホッと一息吐いていた。
パーティの人数が五人から七人に増えたことにより、戦闘中の安定感は以前よりも強固なものとなった。アウグストの範囲制圧力の高さとギフリエさんの的確な支援狙撃がパーティの隙というものを一瞬たりとも作らない。
因みにアウグストはこれまで通り【暴虐の狂犬】と呼ばれ、
ギフリエさんも二つ名が付き【魅惑の亡霊】なんて呼ばれている。
二つ名が浸透し、二人の存在は【エクスポーション】の中でもより際立つようになってきた。
「よし、報酬も貰ったし、今日は飲むか! レオ、アレン、アウグスト、酒を買い占めに行くぞ!」
何を呑気なことを……。
ヴィランの世界一しょうもない伝令が耳を通り抜ける。
アレンはにこやかに頷いたが、俺とアウグストは特に賛同したりしない。
「いや、俺は酒とかあんま強くないんすよね〜……ジュースとかがいいっすわ」
「ヴィラン、その辺にしとけ。アイリスに叱られて、モナからの鉄拳制裁が下るのがオチだぞ」
酒場の酒を買い占めるなんてことをしたら、今日の稼ぎが全て飛んでいく。
流石に冗談だとは思うが、本気だった場合のことを考えて俺はヴィランを窘めた。
「……飲み過ぎ、怒られる」
「うぐっ……!」
追撃と言わんばかりにギフリエさんもボソッと呟いた。
そして、少し困ったように唇を揺らして、ギフリエさんは静かに語る。
「昔は……そんなんじゃなかった……ヴィラン、変わった」
「む、昔のことなんか持ち出すなって。人生ってのはなぁ、今が全てなんだよ! ガハハッ!」
「……残念になった」
ギフリエさんからは散々に言われているヴィラン。
昔はこんなにだらしない感じじゃなかったのだろうか。
いやいや、ヴィランが酒も飲まずに静かに佇んでいるなんて光景は想像できないな。
後方では、頭を抱えているアイリスとため息を吐きながら、さっさと帰ろうとしているモナの姿があった。
ヴィランの威厳というものはやはり皆無であるようだ。
「ヴィラン、酒の話は多数決の結果却下だ。さっさと帰るぞ」
しょんぼりヴィラン。
そんな顔してもダメだから。
というか、毎日飲み歩いているのに、酒場の酒を買い占める意味なんて微塵もないだろ。無駄金を使おうとするな……。
呆れつつも、冒険者ギルドから出ようとした時──。
「痛った……!」
アウグストの肩に誰かがぶつかった。
「おい、邪魔だぞ。ガキ」
アウグストにぶつかった冒険者は悪態を吐く。
三人の大柄な男たち。ドカドカと周囲を見ることなく、歩いていた彼らは他の冒険者にも遠慮なしにぶつかっている。
アウグストも若干キレていたが、教育の賜物だろうか……寸前のところで堪えていた。いや、正確にはモナがアウグストの暴走を未然に防いでいたから揉めずに済んだんだけども……。
それにしても、アウグストに対してこんなに無礼な態度を取るなんて……少し前までのアウグストだったら半殺しにされてるぞ。
命知らず……というよりも単純にアウグストのことを知らないのかもしれない。
「見たことのない冒険者さんですね……」
アイリスが振り返ってそう呟く。
噛みつこうとしているアウグストの襟首を掴み、その動きを完全に止めているモナも怪訝な表情である。
「にしても、失礼な態度だったわね」
「ちょっ、あいつら破壊してやりたいんすけど」
「問題を起こさないで」
「ぐえっ! 首、首絞まるからっ……!」
アウグストの強行武力制圧はなんとか回避できそうだが、彼らの振る舞いは明らかに浮いていた。
俺たちは冒険者ギルドから出るのも忘れ、彼らの動向に目を光らせる。
「なぁ、姉ちゃん。これの査定してくれや」
「あ、あの。他の冒険者様の案内があるので……少しお待ち頂いてもよろしいですか?」
「ああ? 何を勘違いしてんだ? 俺らはAランクパーティの【アウトローズ】様だぞ。優先するのが筋ってもんじゃねぇのか?」
予想通り、彼らは困り顔の受付嬢を脅すような形で騒いでいた。
三人の図体のデカイ強面冒険者。
周囲の冒険者も彼らの振る舞いに嫌な顔をしているが、Aランクパーティと名乗ったからか、止めに入るか迷う者たちばかりである。
実力があれば、なんでもしていいわけじゃない。
人として、最低限の礼儀は弁えるべきだ。
──あれは、流石に見過ごせないな。
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