【168話】ゆっくりと
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「アイリス、ちょっといいか?」
彼女が一人の時に俺はさりげなく声をかけた。
振り向くアイリスは首を傾げながら、こちらに金色の瞳を向けてくる。
「はい、レオさん……えっと。私に何か?」
「実は、アイリスに頼みたいことがあってな」
俺はアイリスにギフリエさんの話し相手になってくれ……と素直に伝えた。
彼女は嫌な顔ひとつせずに快諾してくれた。
「勿論いいですよ。私もギフリエさんと仲良くなりたいですから」
「そっか、良かった……」
▼▼▼
アイリスとギフリエさんが会話する機会は設けた。
そして、二人が打ち解けるのに時間はあまりかからなかった。
アイリスがとても優しいのと、会話のペースをギフリエさんの全て任せてくれたから上手くいったのだと思う。
「へー、じゃあギフリエさんはアレクシード帝国出身なんですね」
「うん……ヴィランも同じ」
「どうして、クラッシュ王国に来たんですか?」
「…………気分?」
他愛無い雑談をしている二人。
俺はただ、その二人の横で耳を傾けていた。
今はただ、ギフリエさんがアイリスと打ち解けてきたことが良かったなと思えるくらいだ。
「あっ、そろそろ。お昼の買い出しに行かないと……」
思いの外長い間話し込んでいた二人。
俺も時間を忘れて聞き入ってしまっていた。
アイリスは部屋にあった時計の針を見て、ハッとした顔で立ち上がった。
「ギフリエさん、またお話ししましょうね!」
「うん……ありがとう。アイリス」
アイリスはそのまま買い物に出掛けていった。
俺とギフリエさんで見送り、そのまま暫くしてギフリエさんが呟いた。
「レオ……ちゃんと、話せた」
「うん」
「……他の人とも……話せるように……努力する」
「はい。皆んないい人ですから、きっとすぐに慣れますよ」
アイリスと仲良くなれたのは、ギフリエさんにとってパーティに馴染むためのひとつのきっかけ。
ギフリエさんがパーティに入ってまだ日が浅い。
いずれ、時間がギフリエさんと他の人との間を隔てている見えない壁をゆっくりと溶かしてくれるはず。
そう信じつつ、俺はギフリエさんの手を引いた。
「気分転換に外の空気でも吸いましょう」
急がなくてもいい。
時間をかけてゆっくりとでいい。
ヴィランがギフリエさんを連れてきたのだ。きっと彼女もパーティの一員として自然と背中を合わせて戦ってくれるような人になる気がするから。