【166話】彼女もまた強者
ギフリエさんの実力が怪しくなった。
そう感じ、急遽俺はギフリエさんと共に簡単な冒険者依頼を受け、グラス街の近くにある森に赴いていた。
周囲の木々に視線を巡らしながら、俺は立ち止まりギフリエさんに対してここにきた理由を告げた。
「取り敢えず、ここら辺にいる魔物は狩りやすいと思うので、試しに狩ってみましょうか」
「ええ」
普段の盾は持ってこなかった。
短刀一本。
それでも、多分苦戦することは万に一つもない。
これはギフリエさんの動きを見定めるためのこと。
いわば、ギフリエさん冒険者体験版依頼……的なものである。
「じゃあ……えっと、何をすれば……?」
ああ、そこから……。
「近くに黒ウサギっていう尻尾の長いウサギがいるんで、それを狩ってください。時間は十分ありますから、戦い方はギフリエさんにお任せします」
黒ウサギは本来冒険者が狩るような魔物ではない。
市場にも食用に流通しているいわば、魔物としてはほとんど無害な部類なのである。
噛み付いてくることはあるが、噛まれたところでそこまで大怪我を負うこともない。
「では早速始めましょう」
危なそうなら、俺が【釘付け】と【腐食】を併用して倒せばいいか。
漠然とした考えを持ちながら、ギフリエさんの行動に注意を向ける。
彼女の武器は弓。
その闇の見た目がまた……なんというか、禍々しい。
武器だけ見れば、なんか最強感があるけど、果たして実力は如何に。
ギフリエさんはキョロキョロと周囲を見回し、ピタリと動きを止めた。そして、静かに弓を引っ張った。
「…………【束縛】【黒紫電】」
ギフリエさんが何か呟いた気がした。
けれども、そのままギフリエさんが動かない。
彼女の瞳は真っ直ぐと一点に注がれ、集中していることがよく分かる。
「…………っ!」
次の瞬間矢が放たれる。
黒い稲光り。それと同時にミシミシと木の幹が引き裂かれる音が耳に残った。
その後、程なくして甲高い断末魔のような声音が聞こえてきた。
命中、しかも、声のした場所から推測するとかなり離れた場所にいた黒ウサギに矢を当てたようだ。
──嘘だろ⁉︎
ぶっつけ本番。
しかも、一矢放っただけでだ。
まさか、彼女の攻撃が命中するなんて思っていなかった。
それに、俺からは黒ウサギがどこにいたかすらも見えなかった。
ギフリエさんは特に表情を変えることなく、こちらに向く。
「終わった……けど」
ポカンと口を開けたまま固まっているとギフリエさんが心配そうにそう確認してくる。
文句の一つでも付けられると思ったのだろうか。
「…………」
「レオ?」
とんでもないことだ。
今の狙い澄ました狙撃に文句など付けようがない。
彼女の実力は今この場で証明された。
まぐれだなんていちゃもんは付けなかった。いや、付けられるはずがない。
「えっと、凄いです」
「ほんと?」
「はい、じゃあどんどん行きましょうか」
その後もギフリエさんがバシバシと攻撃を命中させたのを目の当たりにした。
実力不足なんて杞憂に過ぎなかった。
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