【160話】考え込んでばかり
ギフリエさんと別れて、俺はそのまま家に帰った。
リビングに居座るでもなく、真っ直ぐ寝室へと向かい、ベッドに顔からダイブした。
「はぁ」
あの意味深な言葉の意味は、未だ解らずじまい。
何か気の利いたことを言おうと思うが、先に続く言葉は出てこなかった。
沈黙の続いた時間の間、俺の頭の中はほぼ真っ白。
自分と関わらない方がいい?
彼女がそんなこと言うとは、思ってもいなかった。
──なんて言葉を返すのが正解だった?
正解なんて分からない。
だから、それを考えるだけ時間の無駄。時間が過ぎ去り、周囲の景色が段々と暗く染まっていくのみのこと。
ガチャリと扉が開かれる音がした。
鍵はかけていないし、誰が入ってきたかも、すぐに分かった。足音は軽く、少しだけ靴の音が高い。
「レオ……帰ってたの?」
長い黒髪を揺らして、モナは俺の横たわるベットの端に腰掛けた。
俺が帰ってきて様子が変だと瞬時に察したのだろう。長い付き合い。それくらいのこと造作もないのだろう。
「モナ、ただいま」
「おかえり。……その、大丈夫?」
「大丈夫……じゃないかも」
あの人との接し方。距離感が掴めない。
どこまで踏み込んでいいものか、俺はまだ手探りで試し続けている段階だ。
頭が痛くなってくる。
何も知らない無知を恥じる。
小袋の中身が何かを知らずに、それがどのような意図で渡されたのかもよくわかっていない。だからこうして、モヤモヤした感覚が胸の部分に纏わりついて離れないのだろう。
──モナなら、この小袋を躊躇せずに開けそうだなぁ。
俺にはそんな度胸がない。
開けるなと言われたら、それを遵守する。模範的にしか動けない自分。それでいいのかと問いかけ続けても正解を導けるとは思えない。
「モナだったら、開けてはいけない扉があったとして、それを開けないでいられるか?」
意味不明な質問だ。
モナは、きっと困惑の色を瞳に宿していることだろう。けれども、彼女はちゃんと俺の問いに対しての返答を考えてくれる。
「私だったら」
迷ったような声音の中に、明確な答えがある。一度決めたら、モナはそれを決定事項であるかのように考える節がある。
「開けるわね」
「そっか……モナならそう言うと思った」
誰かに左右されたりはしない。
自分の意志で物事を決める
モナの強いところだ。俺にはない。
「俺は多分開けられない。……答えを出そうとしないんだ」
「……そんなことないと思うけど」
フォローするようにモナは優しく告げる。
でも、俺は本当にその一歩を踏み出せない。
「ごめん、今日はもう寝るよ」
情けないと思いつつも、俺はそのまま眠りについた。
「分かったわ。おやすみ、レオ」
優しげな言葉は、ゆったりと遠ざかる。
まだ寝るには、早い時間だった。
眠くない……それでも、目を瞑った。
モナが部屋を出ていく音を聞いて、それから俺は寝返りをうつ。
──ギフリエさんって……何者なんだろうな。
行き着く先の疑問点に辿り着く答えは見つからないままである。
だからきっと、この難題は解けないまま長く長く残り続ける。
書籍化に伴い、タイトルの変更を致しました!
旧タイトル:
『 「追放されたのか?だったら、うちに加入しろ!」と言われて3年。〜今では、悪役令嬢と聖女と勇者を加えたSランク最強パーティの一角を担ってます〜』
新タイトル:
『追放された盾持ちは3年の時を経て最強Sランクパーティの一角を担う』
となりました。
よろしくお願い致します!