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【159話】全て過去のこと(ヴィラン視点)





「浮かない顔だな。悩みがあるのか」


 夕食の席。

 師匠と対面に座っていた俺は、手に持ってきたフォークを皿に置いた。

 見透かすような瞳が俺の顔に突き刺さる。

 師匠は、いつだってそう。


 俺の考えていることは、だいたい分かっていて。

 だからこそ、分かったようなことを言ってくる。

 ありがた迷惑という言葉がピッタリなくらい、今の感情をズバリ的中させてくる辺りは、似たもの同士の共通したことから導かれることなのかもしれない。


「俺は、間違っているんですかね。少なくとも、自分の生き方を他人にどうこう言われるような非常識なやつではないと……思ってるんですが」


 ふてぶてしい声音でそう言葉を吐き出せば、師匠は机を叩いて笑う。


「お前がそんなことで悩む日が来るとはな……」


「笑う場面じゃないでしょうに」


「悪い。でも、私は嬉しいんだ」


 食事を継続しながら、師匠は語る。


「他人に興味がない。寄るな話しかけるなみたいなスタンスを貫いていたお前が、そうやって生き方を語っているのがな」


 ──もう、それ悪口じゃん。


 たったひとりの弟子に対して、その評価はどうかと思う。

 確かにこんなことを師匠に話したのは初めてのこと。

 あの酒場でオッサンから言われたことが原因であった。


『アニモシティがお前に何を望んでるのか』


 師匠は嬉しそうにしている。

 俺が悩んでいるのは、師匠が望んだことなのか?

 いや、それだと師匠が血も涙もない畜生みたいな性格だと紐付ける結果になる。


 なら、別の方向性で考えるべきだ。

 師匠は、俺のことをどんな風に見ている? 考えている?

 人見知り、無愛想、猫可愛がりできる弟子。


 ……自分で考えておいて、やはり師匠からは愛玩動物程度の認識しかされていないのではないかと不安になってくる。


「俺は師匠のペットじゃない!」


「えっ、あ、うん。急にどうした?」


「ああ、聞き流してください。師匠に対するただのアンチテーゼですから」


「何も言っていないのに、どうしてそんな反論をされるんだ……」


 釈然としないという顔をする師匠はさておき、俺はまた考える。

 師匠が俺に何を求めているのかを。

 他者との関わりを持ち、自分とは違う道を歩んでいくこと。

 俺にとっては、苦しい道であるように思う。しかし、師匠が上手く立ち回れず、挫折したことでもある。


「師匠」


「ん?」


「俺は、師匠みたいな魔術師になりたいと、そう思っていました」


 師匠と出会ってから、俺の憧れはずっと変わっていない。

 彼女と同じような立派な魔術師になりたいと。この自分軸を今まで大切に生きてきた。


「そうか」


 呟く声は、それを肯定も否定も含まれず。

 師匠は、ただ頷いた。


「でも、俺には魔術を使う才能がない」


「才能はあるさ」


「違います。これは、才能なんかじゃない。そこそこの魔術が使えることを才能とは言わない……」


 剣は本当に天才だと周囲に言われてきたが、魔術に関しては、秀才止まり。

 どれだけ努力を重ねても、越えられない壁があった。

 師匠はその壁の向こう側。

 俺は、きっと師匠と同じ景色を望むことができないんだ。


 問いかけるまでもない。

 この境界線は絶対的で。

 その先に足を踏み入れることの困難さは、師匠と同格の魔術師が現れていない時点で証明されている。俺もその他大勢の凡才の民と変わらない。


「俺には、剣を振るうしか取り柄がない」


 剣は得意だが、好きではない。

 直接相手と当たる。

 それは、危ないことであるし、痛いのも嫌だ。力と力をぶつけ合って、荒削りな戦い方も、運要素に左右されているみたいで納得がいかない。


「俺も師匠みたいに、理詰めで戦ったりがしたいんです。だから、魔術師になりたいと思って。ずっとずっとそればかり考えてきました。……でも」


 ──自信がないから、心折れそうになっている。


 スープの入った皿に映る自分の顔はとても惨めなもの。上擦った声がそれを誇張して、なんだか涙声みたいになってしまった。


「ヴィラン、そんなに悲観的にならなくてもいいと思うよ」


「……」


 慰めの柔らかい声音は、俺の悩みを解消しようと必死さが伝わってくる。


「お前はお前だ。私みたいにならくていい。ヴィラン、君はちゃんと立派な子だ」


 ──やっぱりその目は変わらないんだな。


 師匠から向けられる瞳は、優しげであるが、その根底には、俺のことを息子のように考えているという部分が含まれている。

 師匠と出会ってから、俺は両親とは離れて暮らした。

 この家に居候になってから、もう13年が経過している。


「師匠……」


 いつまでの師匠のことを見上げているだけじゃダメだ。

 俺は、師匠の瞳をしっかりと見て、瞬きをやめた。


「俺は魔術師を目指すのをやめます」


「そうか」


 言葉の意味合いは諦めのもの。だが、俺は歩みを止めるという意味でこの言葉を告げたというわけではない。


「でも──!」


 喉の渇きを感じながら、俺の口調はそれなりにしっかりしていた。


「手段が変わっただけで、目指す場所は変わらない。俺は、師匠に並ぶくらいの剣士になります」


 これは俺自身で取り決めた折衷案だ。

 師匠のいる場所は遥か高く、見上げているだけで首が痛くなりそうなくらいに遠い。

 手は届かず。

 視界に捉えるのもやっとなくらい。

 でも、そんな師匠だから俺は憧れた。


 ──そこを目指そうと思った。


「見ていてください。俺は必ず、今のことを実現させます。だから、もしそれを実現させたらその時は────!」


 とある約束を交わした。

 俺と師匠だけにしか結べない約束を。

 師匠は驚いたような表情を浮かべたが、やがて安らかな微笑みを浮かべる。


「……分かった。約束しよう。お前が私と同じくらい立派な剣士になったら、その時は────だ。絶対に守るよ」




 大事な約束。

 少なくとも俺にとっては、最高の剣士になるための報酬としては十分なものだった。

 全て伝えた。言いたいこと。俺の意思。

 それで何か変わるでもないが、心のうちに溜め込んできたものが全てなくなりスッキリした感じがする。


「約束、しましたからね」


 考えた言葉は出てこない。だから、ありきたりに再確認をするだけに留まった。


「ああ、ヴィランがそれを望むなら、私もそれ相応に頑張らないとな」


 師匠の綺麗な笑顔は頭に焼き付いた。


 ──焼き付いて、十数年経過した今でも、完全に消えることはない。




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