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【154話】信頼の意味




 旧教会都市内は、以前とはまた違った雰囲気であった。

 重々しさはないが、相変わらず生物の気配というものがない。

 死の臭いが漂う。

 されども、不穏な気配などはなく、それがまた拍子抜けというか。


 身構えた分、身震いするようなことは起こりそうにない。


「抜け殻って感じっすよね」


「ああ、本当にな」


 前を歩くアウグストと己の足音だけが耳に届く。

 ジャリジャリと砂と砂の擦れる音が響くたびにふと、思い出す。


「ここって、誰もいないんだよな……」


 呟きに答える声はない。

 アウグストには聞こえていなかった。


 ──何もない。過去に多くの人が住んでいたというのも、信じられないくらいだ。


 歳月の経過が周囲の景色を色褪せさせる。

 俺たちは先へと進み、気が付けば、見覚えのある通りにいた。

 こんなに奥まで来るつもりはなかった。けれども、アウグストが奥は奥へと足を運ぶのを止めなかった。

 少しだけ、興味があったのかもしれない。

 その後のここが、どうなっているのか。


 それに──。


「……うわぁ、墓場じゃん」


 ──ここに来たら、またあの人に会えるような気がして。


 けれども、そう都合のいいことはない。

 誰もいない墓場。

 ゾンビすらも近寄ってきていない。


「アウグスト、もういいだろ」


 何か話があるのなら、ここですればいいだろと。

 俺は手頃な大きさの岩に腰掛ける。

 ここは何故か知らないが、安全圏であるかのように感じる。何かに守られているような。


 墓場であるにも関わらず、こんな感想を抱くのはちょっと不謹慎で、不躾なことかもしれないが、率直にそう感じたのだから仕方がない。


「まあ、ここまで来れば誰も聞いてないか……」


「やっぱり大事な話があったんだな」


「大事つーか、レオっちとちょっとした密談してみたくてさ」


 アウグストは近くの壊れかけた建物に背中を預け、足で地面にある石ころを転がしながら、話し始めた。


「ぶっちゃけさ、あのオッサンのことどう思ってんの?」


「は?」


「だから、あのリーダーのオッサンだよ。特別な目を持ってる」


 唐突な問いは、単純なことを聞いているわけではなさそうだ。

 アウグストの言うオッサンとは、ヴィランのことだろう。

 その返答は何が正解であるのか分からないが、少なくとも俺はこう答える。


「ヴィランは──いざという時に頼れるリーダーって感じだな」


「ほーん」


 声音は感心したような、不思議そうなものだった。


「なんだよ」


「いや、えらく信頼してんだなと」


「当たり前だろ。大切な仲間なんだから」


 そう一区切りし、俺は視線を下げる。

 肌を流れゆく風が流れ、俺たちの会話さえも押し流してしまいそうなくらいにその風は長く吹いていた。

 アウグストは足をこまめに動かして、俺の言葉の意味を噛み締めるように唸った。


「レオっちの考えがよく分かんねぇ。仲間だから無条件に信頼してんの?」


 ──その言い方だと、アウグストは違うとでも言っているみたいだ。


「アウグストこそ、レジーナのことは信頼してるだろ」


「まあな」


「つまりそういうこと」


「レジーナ以外は信用してないんだけどねぇ」


 零した言葉には、明確に嫌悪の意味合いが込められていた。

 俺に向けたものではなく、俺の知らない誰かに向けた確かな感情。

 しかしながら、その辺の事情に関して俺は何も知らないし、言及するような間柄でもない。


「まあ、人それぞれってやつだろ。──今の仲間は、俺にとって家族みたいなものだから、この先もずっと一緒にいるんだなぁって思うから余計に信じたいんだ」


「なるほどね〜」


「アウグストはどういう考えなんだ?」


 問いかけて。

 アウグストの顔色を窺う。

 足足下にあった石を思いっきし蹴り飛ばし、アウグストは微笑んだ。


「別に。勝手に判断して、勝手に信じたいやつを選んでるだけだよ。ぶっちゃけちゃえば、今のパーティの仲間よりもレオっちたちの方が信用できるとか思っちゃってるし!」


「それはどうなんだ……」


「そこは喜ぶ場面よ?」


「いやいや、複雑な気分になるだけだから」


 軽口を挟みつつも、その実会話の中では探り合いが続いている。

 アウグストは何かを知りたがり、その答えを得るために俺と2人っきりの状況を作り出したのだろう。

 それくらい察するのは簡単なこと。

 でも、アウグストが明確に踏み込んでくることはない。


 その手前で足を止めて、触れるだけ。


「アウグスト」


「ん?」


「何が知りたいのか分からないけど、俺はヴィランのことを信じてるし、仲間のことを信じてる。お前から俺たちがどんな風に見えてるかは関係なくな」


「らしいっすね……」


 面白いものでも見られたかのようにアウグストの表情は少しだけ満足気なもの。


「まだ何かあったりするか?」


「いや、もう十分かなぁ」


 どうやら、アウグストのお気に召す話はできていたようだ。

 彼の表情から杞憂という文字が消えて、決意の感情が顔に表れている。

 そうしてアウグストは旧教会都市の内部へと足を進める。


「おい」


 あんまり奥まで行くなよと忠告しようとしたが、それは振り上げられたアウグストの手のひらによって遮られる。


「ここでお別れってことで。別件の用事があったの思い出したぁ」


 言い訳めいたその言葉に俺は苦笑いを浮かべる。


「俺を巻き込んでんじゃねぇよ」


「すんませんでしたー」


 棒読みの謝罪をした直後、アウグストは振り返り大きく手を振る。


「んじゃ、レオっちは気を付けて帰ってな〜」


 同行しようという気は起きなかった。

 帰れと言われているような気がした。

 明るい声音の中にそのようなこちらから距離を置くような些細な違和感を感じた。

 だから俺も、ぎこちなく手を振り返す。


「ああ、アウグストも暗くならないうちに、ここから出ろよ」


「あいあい」


 自分勝手な男に振り回された結果、俺はその場に残される。

 ふと、墓石に視線を向けると、最近供えられたような新鮮な黒い花束が瞳に映った。




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― 新着の感想 ―
[一言] レオっち、いいパーティーに会えたんだねぇ
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