【146話】問題解決?
「んじゃ、解散ってことでよろしい?」
「探し物……終わってねぇだろうが。馬鹿」
旧教会都市の問題は無事に解決した。
いや、正確には解決はしていないのだろう。
黒幕の顔は拝めたものの、俺たちはあっさりとその者たちを取り逃がしてしまった。
いずれまた、再会する時がやってくる。そんな気がする。
現在は調査隊が帰還に向けて準備を進め、激戦を繰り広げた旧教会都市の中央部にて話し合いが行われているところであった。
ひとまずの山場を乗り越えたからかアウグストは、帰りたいオーラ全開のままに欠伸をひとつ。
それに対して、義務感の強さを見せるレジーナは、万全な状態でないにしても、旧教会都市に残ろうという意思表示をする。
「んなこと言ったって、お前ボロボロじゃん」
「それは……そうだけど」
「うわ、キッツ。任務継続しながら、お前の介護とかしたくないんですけどぉ!」
「チッ」
ヘラヘラしているものの、心の底ではレジーナの心配をしているのか、アウグストは頑なに任務中断を望んでいる。
彼らの探し物。
それは発見できていないのだろう。
何を探していたのか、ついぞ聞きそびれたのだが。
「レジーナさん、私も無理はしない方がいいと思いますよ」
傷の大きさをより理解しているアイリスは、今すぐ帰った方がいいと視線を向ける。
「でもなぁ。成果もなく帰るなんて」
「はっ、成果ならあったろ」
「は?」
レジーナは釈然としていないようだが、アウグストは十分な手応えを得たかのように拳を握る。
「旧教会都市であんな化け物と遭遇して──そんだけでも十分報告するに値する。それに……」
言いかけ、アウグストはニヤリと笑みを溢す。
「いや、やっぱいいや」
「なんだよ。最後まで言えよ」
「知らね。って、もう倒れそうなんだから帰るぞ。お前が死んだら困る人が多いんだからさぁ」
噛み合わない会話に豪を煮やしたレジーナはその先の言葉を聞きたがったが、アウグストはそれを無視して強引にレジーナを担ぎ上げる。
そうしてアウグストは俺たちに背を向け手をヒラヒラと振る。
「じゃ、またなぁ。【エクスポーション】の皆様方よ。今日は楽しかったわぁ。…………また近いうちに会おうな」
「おい、恥ずかしいだろうが、下ろせアウグスト!」
「暴れんなって、傷口開くぞ?」
──相変わらず何を考えてるのか分からないな。
2人の後ろ姿を眺めつつ、俺たちは旧教会都市の街並みに視線を落とす。
既に周囲は暗い。
こんなに遅い時間までこの場所に居続ける気はなかったのだから、余計に疲労感が溜まった気がする。
「まあ、とにかくお疲れ様ってことで」
「アンタが帰ってこないから探しにきたのよ。勝手に取り仕切らないでよ」
「は、はは……返す言葉もないな」
モナに小突かれて、アレンは困り顔だ。
されどもアイリスはその様子を嬉しそうに見ていた。
「でも、アレンさんが無事でよかった」
──まあ、一件落着って感じか。
俺たちの当初の目的は果たされたのだ。
行方不明になった調査隊、まあアレンがいなくなったのが主な理由ではあるが、彼らの発見をして、こうして誰ひとり欠けることなく無事に全てを終えられた。
──厄介なことに巻き込まれた気もするが。
心配事は尽きない。
けれども、今はそのことについて考えるのはやめよう。
「じゃあ、俺たちも帰るか」
今は早いところ、家に帰りたい。
俺の提案にアレンとモナは頷く。
「そうだね」
「私、お腹空いたわ」
弛緩した空気か漂う中、アイリスだけは少し言いにくそうに顔を下に向ける。
「アイリス?」
その様子が気になって俺は声をかけた。
何かを伝えたいような仕草が明確に表れていたから。
俺の声音に反応して、アレンもまたアイリスに優しげに視線を送った。
「何かあるのかい?」
「いえ、ちょっとだけ……」
アイリスは懐から七色に艶めく綺麗な宝石の埋め込まれたペンダントを取り出す。
控えめな声の裏側にあるのは、過去を懐かしみ諦めたような色合い。懸念というより、興味の矛先に向けた瞳。
「──帰る前に寄りたい場所があるんです」
アイリスの爪先は真っ直ぐ決まった方に向いていた。




